第30話 馬車の旅
「ああ~ミロネスの街まであと少し、もうひと頑張りだ」
乗合馬車で出発してから6日。昨日キルアムの街で補給をしてからさらに1日が過ぎ、ミロネスの街まであと1日といったところだ。
「もう身体中がバキバキよ……」
「ガクトさんみたいにクッションはあった方がいいのか。でもだいぶ荷物になるからなあ」
「俺は普段から旅をしているからな。結構な荷物になるし、そこまで頻繁に使わないならあまり必要ないと思うぞ」
「う~ん、次回はレンタルしてみてもいいかもしれないわね……」
さすがに馬車に長時間揺られていると身体中が痛くなってくる。馬車の椅子はクッションなんてついていないから、特に尻がヤバいんだよ……。
それを防ぐために魔物の羽毛で作られたクッションを持ってきている。個人的には乗合馬車に乗る時は必須だと思っているぞ。とはいえ、魔物の羽毛を使っているだけあってそこそこ高価だし、結構大きいので、それぞれの拠点である程度の期間活動する冒険者には必要ない気もする。
護衛の人と御者の人は馬車に乗るのが仕事ということもあって、しっかりと常備している。一応レンタルなんかもあるが、この冒険者3人組は初めて長時間馬車移動をすることもあって、レンタルはしなかったようだ。
Cランク冒険者ということで結構な稼ぎもあることだし、次からは利用するのかもしれない。うむ、これもまた経験である。
「それにしても、他の商隊がいなくなると寂しいものだな」
ここまで一緒に行動をしていた行商人の馬車2台はキルアムの街で別れ、別の街へと向かっていった。目的地であるミロネスの街へ行く他の商隊がいなかったため、今日はこの乗合馬車だけで野営をする。
「昨日のキルアムの街で別れちゃったからね。あそこも結構大きな街だったわ」
「ミロネスの街もあれくらい大きいといいんだけれどなあ。まあ、しばらくそこで生活してみて、厳しかったらキルアムの街に拠点を移すのもありだぜ」
この3人組はミロネスの街に知り合いがいることもあって、そこを拠点にして活動をするつもりらしい。確かにそこの街同士はそこまで離れていないから、どちらがいいか選んでもいいかもしれない。
「そうだな。だが、他の商隊がいなくてもガクトさんがいてくれてよかったぜ。俺たちだけだったら退屈して死んじまうところだったな」
「ええ、私も前の席で聞こえてくる皆さんのお話を聞いてだいぶ楽しめましたよ。それに夜ご飯はこうして温かい食事がとれてありがたいです」
「そうだな、どの料理も本当においしかった。いつもの携帯食はあまりうまくないからな。野営をしながらこんなうまい飯を食えて感謝する」
一緒に食卓を囲んでいる御者と護衛の人もそんなことを言ってくれる。
結局この6日間の晩ご飯は俺が作った。俺としても料理を作るのはそれほど嫌いじゃないからな。
「俺の方こそ話し相手がいて助かったよ。一人だけだと本当に暇だからな」
乗合馬車も初日くらいは外の景色を見て楽しめるのだが、数日すると退屈すぎて本当に辛いんだよ。旅は好きなんだが、ひたすら馬車に乗っている旅はなかなかしんどいものがある。
俺も冒険者の人たちから冒険譚を聞いたり、御者や護衛の人からいろんな話を聞けて楽しめた。特に乗合馬車の人たちはこの付近のいろんな街を巡っているから、良い情報も仕入れることができたぞ。
キルアムの街も初めて寄ることができたので、目的地であるミロネスの街で楽しんだ後はこちらの街も楽しむとしよう。補給のため少しだけ市場に寄れたが、まだまだ楽しみ足りないからな。
「初めての馬車だけれど、ガクトさんのおかげで楽しかったし、とても勉強になったわ」
「ここまで来れば盗賊なんかも出てこないだろうからな。ミロネスの街まで無事に到着できそうでなによりだぜ」
「………………」
確かにキルアムの街とミロネスの街は比較的近く、こういった場所で盗賊と遭遇することはほとんどないし、俺もこれまでに遭遇したことはない。ただ油断するのはまだ早い気もする。
少なくとも俺はいつも通り油断することのないようにしよう。
「魔物だ! みんな起きろ!」
「っ!?」
護衛の人による突然の大きな声により一気に目が覚めた。
テントの窓からは薄らと光が差し込んでくる明け方、急いで横に置いてあるバックパックを掴み、急ぎテントの外に出た。




