第20話 ハイキング
「うわあ~! いつ体験してもガクト様の転移魔法はすばらしいですね!」
「……国一番の魔法使いでもこのような伝説級の魔法は使えませんからね。本当に不思議です」
カトレアは目を輝かせて驚き、メイドのミレディさんは目を細めながら周囲を見渡す。
一度国の方でも俺のスキルを詳しく解析したいと有名な魔法使いの人と一緒に何度か転移をしたが、まったくわからなかったそうだ。そもそもこれは魔法と違う俺にしか使えないスキルだからな。いろいろと聞かれたりもしたが、俺は魔法を使えないし、当然説明なんてできるわけがなかった。
幸いと言うべきか、たまたまカトレアを助けていたこともあって、国から危険分子とは見なされずにすんだ。ちなみにその時の報酬として王印の入った書状を書いてもらったわけだ。
「ここが報告にあった場所か」
「ああ、ここから少し歩いたところだ」
いつもならシヴィさんやミレディさんには敬語で話すところだが、カトレアには普通に話して他の人に敬語というのも変なので普通に話す。
当然ながら国の第三王女様を連れ出すわけだから、事前にどんな場所へ転移するのかを報告して確認してもらっている。もちろん本人には秘密だが。護衛の騎士とメイドのミレディさんを入れて合計9人と準備は万全なようだ。
まあ、ここまで来さえしてしまえば王都にいるよりも安全だろう。カトレアもまだ幼いが王族というだけで狙われる理由があるからな。下手にどこにも行くことができない王女。そのため俺のスキルでたまにお出掛けするという依頼だ。
「それではガクト様は少し後ろにお願いします。なにかありましたら、姫様を第一優先にお願いしますね」
「了解だ」
この辺りには強い魔物は出てこないはずだが、何かあった時のために俺とカトレアを中心にしてその周囲をみんなが囲う。女騎士の皆さんはカトレアの護衛というだけあってとても強いから大抵の魔物や盗賊レベルなら問題ないが、念のための布陣だ。
「自然豊かで良い景色ですね。こういった場所へ来ることはできないので、本当に楽しいです」
「王都からはだいぶ離れた田舎なんだ。直接その場所に転移するよりも、少しだけ歩いて目的地へ到着した方がそのあとのご飯や見た景色が忘れられなくなるからな」
「はい!」
転移した場所は開けた草原で王都と違って自然が溢れている。道もほとんど人が通らないから、草木がボウボウだ。
目的地はここから少し山を登った場所にあり少しだけ歩く。ちゃんとカトレアも普段のドレス姿ではなく、動きやすい格好をしてきてくれたようだ。
「ガクト様、旅のお話をしてくださいませんか?」
「ああ、もちろん構わないぞ。今回もいろいろとあったからなあ。あといつも通り旅の記録をお土産に持ってきたよ」
「ありがとうございます! ガクト様が話してくれる旅のお話はとっても面白いので楽しみです」
カトレアは普段王城から出ることができないから、俺が旅の話をしてあげるととても喜ぶ。ニッグと一緒で普段旅をできない人からすると、俺の何気ない旅の話でも結構面白いらしい。
俺が趣味で書いている印刷してもらった旅の記録も1枚はカトレアのお土産にしている。ああいったもので喜んでくれるのは俺も嬉しい限りだ。
「……そんなわけで、ひとりで旅をして失踪しても問題なさそうな旅人を狙って、村ぐるみで身ぐるみを剥ごうとする村だった。俺はこのスキルがあるからすぐに逃げ出すことができたんだ。そのあと衛兵に報告した時は以前もらった書状のおかげでスムーズに衛兵に話を通すことができて本当に感謝しているよ」
「ガクト様のお役にたててよかったです! それにしてもそんな村があるなんて驚きました……」
「滅多にないんだが、やはりそういった悪人はどうしてもいるからな。だけどその前に行った村みたいなとても良い村もあるから旅は止められないんだ。もちろんその村の近くで採れるルミナダケは持ってきているぞ」
「うわあ~とっても楽しみです!」
「ああ、楽しみにしていてくれ。おっと、そろそろ休憩にしようか?」
「まだ私は大丈夫です」
「カトレアは元気だな。だけど今日は日差しが出ていて少し暑いから休憩はこまめにとろう。それにちょうどいいお土産もあるぞ」
シヴィさんにも了承を取って、道から逸れた場所にシートを敷く。セフォル村とは違って、こちらの地域は少し暑いくらいだから、熱中症には十分に気を付けなければならない。登山やハイキングの基本である。
そしてバックパックからあるものを取り出して皿の上に載せる。
「うわあ~とっても綺麗ですね!」
「これはスターフロストの実という果物だ。甘い上にとっても冷くておいしいぞ」
紫色の粒がたくさんついたブドウのような果物。これは先日セフォル村でお酒と旅の話のお礼にもらったものだ。




