第18話 依頼
「それでは皆さん、隣の方と手を繋いでください。私の魔法は一日に使える回数に制限があるので、回数の節約のため順番にそれぞれ希望した場所へと移動していきます」
俺が行ったことのある村や街はすでにリスト化して商業ギルドへ伝えてある。その中から行先を選んでもらい、順番に転移していく。
今日は3組合計4人と一緒に転移をする。ちなみに料金については転移する場所に限らず一律同じだ。年齢や性別なども関係なく人数の分だけ増えていく仕組みにした。
両手で依頼者と手を繋ぎ、さらに依頼者にも手を繋いでもらう。
「まずはミュクアルの街ですね。転移!」
俺が瞬間転移スキルを発動させると、王都の商業ギルドの部屋から視界が一瞬で切り替わった。
「うおっ!?」
「す、すごい……。本当に場所が移動した!」
初めて瞬間転移の感覚を味わった依頼者たちが驚きの声を上げる。
一瞬で視界が切り替わるので、大抵の依頼者は驚くものだ。
「あちらがミュクアルの街の城門となります」
「た、確かにあの城門はミュクアルの街だ! 本当に今の一瞬で王都からここまで移動したのか……」
若い冒険者の男性が驚きの声を上げた。
転移する場所は移動先の街の城門前にしている。いきなり人の多い場所へ移動すると、突然現れた俺たちを見て騒ぎになってしまう。それに王都の商業ギルドでも依頼者のチェックはしているが、それぞれの街でも犯罪歴や危険な持ち込み品がないかのチェックをしているからな。
「1~2月に不定期ですが、王都からいくつかの村や街までお送りすることができます。それではありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」
「あ、ああ。その時はよろしく頼む」
先ほどまでは瞬間転移スキルのことを疑っていた男性だが、さすがに今目の前で起こったことをようやく信じてくれたようだ。金払いが良い冒険者様もいいお客さんなので、ぜひまた利用してもらいたい。
「さて、次はシグバの街ですね。それではまた手を繋いでください。手を放してしまうと、その人だけそのまま取り残されてしまいますからね」
「は、はい!」
「行きますよ、転移」
お次は40代くらいの夫婦の目的地だ。もしかすると旅行で王都まで来てその帰りなのかもしれない。
瞬間転移スキルを発動させると、また視界が切り替わり別の大きな城門の前へと転移する。先ほどと違って草木の少ない砂が多い場所だ。この街は雨が少ない地方だから、常に乾燥している。
「ご利用ありがとうございました」
「はい、ありがとうございました」
「ありがとうございます。おかげさまで安全に街まで帰ることができました」
「どういたしまして。またのご利用をお待ちしております」
夫婦が頭を下げてきたので、俺も同じように頭を下げる。こうやって直接お礼を言われるのは嬉しいことだ。
「それでは最後ですね、転移」
最後はトルオさんの目的地であるモックルの街へと転移した。
「いつもありがとうございます。それではまた明日よろしくお願いします」
「ええ。明日の昼過ぎに迎えに来ますので、商業ギルド前までお願いします」
「承知しました」
トルオさんと別れてまた瞬間転移スキルを使って王都の俺が泊っている宿へと転移した。
俺の依頼は王都からどこかへ移動する片道切符だが、今日みたいに次の日も王都にいる場合だけは帰りも受け付けている。往復で頼みたいという依頼者は多いが、別日に俺が迎えに行くのが大変なので、基本的に翌日以外は断っている。
旅をしている間に誰かを迎えに行くことを考えたくないんだよな。それにもしも俺が忘れてしまえば、依頼者はその街に取り残されて何もできなくなってしまう。商売の信頼問題もあるが、その人のことを考えると絶対に忘れるわけにはいかないのである。
「よし、これにて今日の仕事は終了! 我ながら本当にボロい商売だよなあ」
宿のベッドへ横になりながらそんなことを考える。
今日だけで当分の間は遊んで暮らせるだけのお金を手に入れられるんだから、このスキルをくれた女神には感謝だな。
「さて、あとは明後日の準備とニッグにもらった資料を呼んで、次にどこへ旅するのかを決めるとしよう」
前回は辺境の村を旅していたからな。次は海や湖のある村や街へ行ってみようか。あるいはもっと未開の地へ行ってみるか?
こうやってどこを旅するか考えている時が一番楽しいのかもしれない。この異世界にはネットや写真などの便利な物がないからこそ、情報を集めるのも一苦労だ。
そして途中までは瞬間転移スキルを使うが、俺が行ったことのある場所にしか使えないから、乗り物を使うか自分の足で歩いて向かうしかないのである。だからこそ新しい景色を見たり、おいしい料理に出会った時の嬉しさは前世で旅をしてきた以上だ。
このスキルを使えばのんびりと暮らすことができるが、それでも俺は旅をしたいんだよ。ずっと同じ場所にいるとすぐに新しい場所へ行きたくなる、それが旅人なのである。




