第17話 違った生き方
「商業ギルドに来てくれれば俺の給料の何十倍もらえることは間違いないだろうに……」
「ニッグには悪いが、どこかに所属するつもりはないからな」
王都の商業ギルドはかなりの高給取りだが、会社勤めはもう無理だな。俺も前世では5年ほど会社に所属していたが、ずっと同じ場所で同じ作業を繰り返すことが性格的に向いていなかったらしい。
ニッグにも不定期でいいから働かないかと誘われたが、この国だけに留まるつもりはなかったので断った。
「そういうところはガクトらしいな。ただガクトがいると気の休まる暇がなくなりそうだから、俺としては良かったかもしれん」
「正直だな。だけど確かにいろんな面倒ごとも一緒に舞い込んできそうな気もするぞ」
こんな便利な能力があれば使い倒されるに決まっている。それに国やら他のギルドにやら出張でいろんなことを頼まれるに違いない。
それはそれで少し面白そうな気もするが、少なくとも自由は間違いなくなくなるだろう。
「まあ、こうしてたまに飲みに行くくらいの関係がちょうどいいさ。あとは果てのない夜というのも経験してきたから、あとでその話も聞いてくれ。おっと先に渡しておこう、今回の分の土産だ」
「それくらいがちょうどいいのかもな。こっちも今回の分の情報だ」
俺はバックパックからいくつかの包みを取り出す。中身は今回の旅で手に入れた珍しい食材や料理などが入っている。嫁さんや娘さんと一緒に食べてもらうお土産だ。
そしてニッグからは紙の束を受け取る。その紙には王都で調べてもらっていた様々な村と街にある料理や観光地などの情報が書かれていた。
俺たちは飲み友達であると同時に、土産と情報を交換してもらう関係でもある。
「いつも助かるよ。行く先々でも情報を集めているんだが、王都ほど情報は入ってこないからな」
「こっちは働いていたら情報は勝手に入ってくるから、それを紙にまとめるだけの楽なものだぞ。俺の方こそいつも珍しい食材や料理をすまんな。この前もらった珍味のワイバーンの干し肉は本当にうまかったぞ」
「ああ、あれは良い酒のツマミになるよな。さあ、次は娘さんの話を聞かせてくれ。今日はまだまだ飲むぞ!」
「おう。うちの娘は本当に可愛いから、たった一晩じゃ語り尽くせないぞ!」
ひとりで自由に旅をする俺と、王都で幸せな家庭を築いて暮らしているニッグ。正反対な俺たちだからこそ、お互いに羨ましく思うところも多いのだろう。
ニッグとは出会いが偶然だったこともあって、今ではかけがえのない友人となった。自由にふらふらとしている俺だからこそ、ニッグのような友人は大切にしたいものである。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ふあ~あ。昨日は夜遅くまで良く飲んだな」
料理とお酒がおいしかったこともあり、日付が変わる近くまでニッグと楽しく飲んでいた。
超健康スキルのおかげで二日酔いにならないのはとても助かる。少し酔ったくらいのちょうどいい感覚までしかならないんだよな。女神もいい仕事をしてくれるぜ。
「今日は仕事かあるから昼に商業ギルドへ行かないとな」
普段は自由に旅をするため、数日間はしっかり働くとしよう。
「ガクトさん、本日はよろしくお願いします」
「こちらこそいつもご利用ありがとうございます、トルオさん」
商業ギルドへ行き、受付嬢のベルカさんに案内してもらい、今回の依頼人を待っていると大きなリュックを背負ったトルオさんがやってきた。
彼は王都で大きな商店を開いている商人さんで、すでに何度か依頼をしてくれた常連さんでもある。
「ガクトさんへ頼む以上に安全な輸送方法はございませんからね。多少高くとも、確実に運んでもらえることができるのはありがたいです」
俺へ依頼をする人の多くがトルオさんのようなお金持ちの商人だ。この異世界で遠くの街に物を輸送する際は馬車を使い高い金額で雇った護衛と共に何日も時間をかけなければならない。そして移動中にはトラブルなんかも多い。
俺の瞬間転移スキルを使えば一瞬で確実に目的地まで移動することができる。確実かつ安全に物を運びたい場合や早急に物を届けないといけない場合、金に糸目を付けずに俺を利用するのだ。
盗賊や魔物が多いこの異世界では遠くの街へ行くのも命懸けなのである。
「……噂に聞いて初めて利用するが、本当にそんな魔法があるのか?」
続けてやってきたのは冒険者風の男性だ。立派な装備をしているところを見ると、まだ若く見えるが結構なランクなのかもしれない。この世界の冒険者にはランクというシステムが存在する。最高峰のAランク冒険者ともなれば人生の成功者で、多くの富や名声を手に入れることができる。
もちろんその分命の危険が多いので、絶対になる気はない職業だがな。
「初めてのご利用ありがとうございます。ガクトと申します。信じられないかもしれませんが、商業ギルドの方にも所属しており、これまでの実績もございますのでご安心ください」
「いいだろう。本当にそんなことが可能ならまた使ってやるよ」
「はい、よろしくお願いします」
俺よりもだいぶ若いのに口の利き方がなっていない。冒険者は完全に実力主義の世界だからそういった若者も多いのである。
とはいえ俺はそういった口調を気にしないし、相手は依頼者だからな。俺も依頼中は普段と違って敬語で話すようにしている。
もう一組の依頼者もやってきた。それじゃあ早速スキルを使うとしよう。




