第14話 異世界クオリティ
「うおっ、寒い!」
真っ白な空間から戻ると周囲の寒さが一気に押し寄せてきた。
あの空間にいる間は温かくて服装もいつもの服になるから、戻った時の反動が大きいな。魔物の毛皮で作った上着を着て、身体の温まる料理を食べてきたからすぐに慣れるだろう。
「おっ、おお!」
テントの窓から外の様子を見ると、すでに明け方になっていたようだ。
「すごい、これが異世界のオーロラか!」
テントの外に出ても真っ暗なのは変わらない。だが、空に先ほどまでなかった淡く光り輝く光のカーテンが現れていた。
緑、紫、青、赤、様々な色が混じり合い、揺らめき、移り変わりながら漆黒の天空へと広がっていく。音はなく、ただ静寂の暗闇の中で光のカーテンが広がり、消えてはまた現れる。
俺はその幻想的な光景を目の前にして、呼吸をすることすらも忘れてしばらくの間魅入っていた。
「前世では見ることができなかったオーロラを、まさか異世界で初めて見ることができるとはな!」
アイスランドやカナダで有名なオーロラだが、俺はその地域を訪れた際に運悪く見ることができなかった。オーロラは気候だけでなく太陽光や磁気も関わってくるから、どうしても運だよりになる。
死ぬまでに一度は見たいと思っていたこの光景を異世界で見ることができたことに感謝をしよう。また次の機会に見ようと思っていても、俺のように死んでしまえばそれまでだからな。人生は悔いのないように生きていかなければならない。俺の場合はこの世界に転生させてもらったが、普通は一度きりの人生だ。
「これほどまで空一面に現れるとはな。明け方だけしか見られないとことといい、厳密には前世のオーロラとは少し違うのかもしれない」
極夜みたく科学的に証明されている事象がこの異世界でも起こることはあるが、確か地球のオーロラは別に明け方でなくとも見えたはずだし、色合いなんかも写真や動画で見たオーロラとは少し異なる。
この世界には魔力もあることだし、異世界版のオーロラなのかもな。
テントの中から椅子とテーブルを引っ張り出し、温かい飲み物で身体を温めながら、俺はしばらくの間この幻想的な光景を目の前に心を奪われていた。
「さて、そろそろ行くか。本当にすばらしい景色だったな」
時計がないから分からないが、もしかすると1時間以上この場に留まり続けていたかもしれない。
とはいえ、さすがに身体が冷えてきたことだし、多めに持ってきていた温かい飲み物も尽きたので、そろそろ戻らなければならない。テントを撤収し、荷物をバックパックに収納してバックパックを背負う。
帰りは瞬間転移スキルを使用すれば一瞬だ。またこの時期になったらここを訪れるとしよう。
「んん?」
いざスキルを使用して帰還しようとした時、天空に揺らめく巨大なオーロラの端に動く影を捉えた。初めはオーロラの瞬きかとも思ったが、その影は不規則的な光のカーテンの中を高速で飛翔していく。
「……ははっ、そりゃここは異世界だもんな」
――高速で空を舞う影、それはドラゴンだった。
全身に纏った白銀の鱗がオーロラの光を反射して煌めいている。その大きな翼を広げてオーロラの中を自由自在に飛び回り、まるでオーロラとダンスを踊っているみたいな幻想的な動きだ。巨大で人を食らう種類も多いドラゴンだが、むしろ今のその姿は神々しく美しさすら感じさせる。
そしてそのドラゴンはすぐに俺の視界から消えていった。まるで一瞬だけの夢のような光景だったが、今の光景は俺の記憶へと深く刻まれた。
「あれがエルドさんの言っていたブリザルグドラゴンか。まさか本当に見られるとは思っていなかったぞ」
この土地の守り神のような存在である白銀色の鱗を持った巨大なドラゴン。
エルドさんから聞いた話によると、あのドラゴンは人を襲うことはなく、この地域で獰猛な魔物であるフロストワイバーンを主食としているありがたい存在らしい。むしろ出会えれば幸運な魔物のようだ。
ダイビングをしている時にマンタやウミガメに出会えればラッキーみたいなものだな。それがドラゴンなのはスケールがデカいというべきか、異世界クオリティというべきなのかはわからんが、とにかく運が良かった。
前世では観光名所でよく雨に降られた俺だが、この異世界に来てからはいろいろと運に恵まれているらしい。
「最後にいいものが見られたし、今度来る時は防寒装備をもっと整えてから来るとしよう」
セフォル村も良い村だったし、またここにはお邪魔させてもらうとしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「よし、買い物も終わったし、ぼちぼち行くか」
異世界のオーロラを見たあとはセフォル村から一番近くにある街へ移動して宿でぐっすりと寝たあと、いつものようにおすすめレビューを書き上げ、印刷をして商業ギルドと冒険者ギルドへ掲示してもらった。
市場で買い物をして、移動の準備をしてきた。
これからとある依頼を受けにこの国の王都へと移動する。




