第13話 温かい料理
「今日はこの辺りの地方の食材を使って俺の世界の料理を作ってみた。セフォル村周辺の地域は本当に寒いから、温かい料理にしてみたぞ」
「……前々回のように変な食材は使っておらぬじゃろうな?」
まだ睾丸料理のことを根に持っていたみたいだ。あの食材も普通においしかったんだけれどなあ。
「今回は魔物の普通の部位だ。とはいえ、俺も初めて食べる魔物だから、味の方は保証できないけれどな」
「むう。前回のキノコのようにおいしければいいのじゃがな……」
今回村でもらった食材は前回訪れた時には時期的に得られない食材だったらしい。俺も初めて食べる食材だから、どんな味がするのかわからない。
ルミナダケはかなり当たりの食材だったが、果たして今回はどうだろうな?
「……随分と真っ赤じゃな。もしかして辛いのかのう?」
「いや、この赤色はビーツという野菜の色だから大丈夫だ」
今日の料理はロシアやウクライナあたりの伝統的なスープであるボルシチを参考に作ってみた。
この異世界にも元の世界に存在した野菜が数多く存在している。前世ではいろんな国の野菜を見てきたわけだが、このビーツという野菜は茎も中身もすべて鮮やかな赤紫色に染まっている野菜なので俺の印象にもよく残っていた。
ビーツは栄養豊富で昔から食べる輸血や飲む輸血と呼ばれている。ちなみに和名は火焔菜と呼ぶらしいので、こちらは格好良くて覚えていたな。
鍋に一口大に切った肉と野菜と水を入れてじっくりと煮込みながらアクを取り除き、別のフライパンで細切りにして炒めたビーツと他の野菜やトマトソースを加えてさらに煮込んで完成だ。
ビーツは赤色の着色料としても使われるくらい真っ赤なので、トマトソースと合わせて鮮やかな赤色のスープが出来上がる。
「それじゃあ、いただきます!」
「いただきますなのじゃ!」
食材やセフォル村のみんなに感謝をしつつ、両手を合わせた。
「おおっ、独特な風味じゃがいけるのじゃ! 肉は口の中に入れると柔らかくトロリと溶けていき、野菜の酸味と甘みに肉の旨みが加わって温まるのう!」
「うん。味もいいけれど、身体全体がぽかぽかと温まるぞ」
鮮やかな赤色のスープを口へと運ぶと、ビーツのほのかな甘みと土っぽい独特の風味が口の中に広がり、そこにトマトの酸味とじっくりと煮込まれたタマネギのまろやかさが舌の上に広がった。
じっくりと煮込んで柔らかくなった肉がじゅわっとした旨みを放ち、ジャガイモはホクホクとした食感でスープと絡みつく。
この空間は先ほどまでいた場所とは異なって温かいが、身体はまだ冷え切っていたので、このボルシチの温かさが身体全体に沁みわたっていく。なるほど、初めて作ってみたが、確かにこれは寒い地域で好まれる料理だ。
ボルシチにはサワークリームなどを合わせてもおいしいらしいけれど、残念ながらそれは持っていないので実に惜しい。
「この肉も柔らかくてうまいのう。これはなんの肉なのじゃ?」
「これはブラックスノーベアの腹と背中の部分だ。俺も初めて食べるけれど、脂がたっぷりでトロリとしていて本当にうまいな」
前回はブリザードラビットという肉をいただいたが、それ以上においしかった。当たり前だが同じ村を訪れてもその時々である食材がまったく異なる。
寒い地方ということで、この地方で暮らす魔物は他の魔物よりも皮下脂肪が多く、肉に脂がのっているのかもしれない。そういえば俺がさっき襲われた魔物はクマ型の魔物だったし、もしかするとこのブラックスノーベアだったのかもしれない。
「ふむ、こちらの世界の食材とガクトの世界の料理を合わせるとこのような味になるのじゃな。ぜひこういった料理も広めてほしいのじゃ!」
「ああ、そうだな。俺も詳しいレシピを知っているわけじゃないけれど、ビーツを使った料理として載せておくよ」
また近くの街に寄って掲示板におすすめ記事を張る際にレシピもあわせて載せておくとしよう。
ボルシチは家庭料理でもあるためそれぞれの家によって味や食材が異なるから、俺流のボルシチということで。
「さて、せっかくだからこいつもいただかないとな」
「むっ、それはなんなのじゃ?」
「こいつはセフォル村でもらったルナベリルという酒だ。せっかくなら地元の酒もいただかないとな」
「妾も欲しいのじゃ!」
「……いや、こいつは酒精がかなり強いぞ」
「うむ、問題ないのじゃ!」
「………………」
少女姿ではあるが、女神だから年齢は置いておこう。しかしさっき仕事をサボッていると言っていた気がする。
まあ、この女神はいつもこんな感じだ。さすがに女神が酔っ払うことはないだろうから、酔っ払ったとしても女神の部下に任せるとしよう。




