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嫌がらせ少女は大志を抱けない。~めっちゃ強い少女はただ無双する事が出来れば良いなぁって思いました~  作者: せいゆ


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早め早めにするべき その7



 王子、ザルガネアはミナモの前に立ち少し照れた様子でその手を握る。

 その後ろには彼を守る兵士達や、身形の良い着衣を纏った者が複数見える。


「名の知らぬ姫よ、どうか我とこの国を導いていこうぞ」


 ザルガネアは酔っていた。

 恋に目がくらみおかしくなっていると言っていい、そうであってくれと鍛冶屋の親父が祈る。


「前も言ったけど断る。

 そもそも私は根無し草、異世界を渡って旅をするのが本業さ」


 適当にあしらうが、それでも食い下がる事は容易に想像できる。


「ならば我もその旅に同行しようぞ」


「寝言は寝て言え、君はこの国を導く立場ある存在、民あっての王、王あっての民、国をつぶす気ですか?」


「それは…、うぐぐぐ」


「それに珍しいから欲しているんでしょうけど、もう少しこの世界についても目を向けてください。

 この国を治めるのでしたら、まずはその常識も必要となります」


「そこまでこの国を思われる、…やはり我の妻になってほしい」


「お前に言ったんだよ、もう不敬罪でもいいから罪人にしてくれ…」 


「そんな事出来るか」


 ミナモは心の底からめんどくさくなって来たのか、ただただ天を仰ぐ。


「はぁ、…私よりも弱い者に嫁ぐ気はありません、他を当たってください」


 頭をよぎったのは漫画見た言葉、それをそのまま口から吐き出す。


「ならば勝負としよう」


「…はぁ、さっき剣を受け止めたでしょ」


「お主から貰ったこの剣がある」


 それはミナモがここで打った剣だ。

 それを置いて逃げ出したのだが、無駄にシンデレラの様になっている気がした。


(他の班では、その剣がキーになったり、…しねぇか)


 ミナモは現実逃避しながらザルガネアを眺めた。


「我はこれを持ち、舞踏会に出よう、そしてお主に打ち勝ち我の妻になってもらう」


「……すみませんが、私は異世界で舞踏会は交流の為に踊る場所と聞き及んでいるのですが。

 こちらの舞踏会というのは、どの様なものなのでしょうか?」


「うむ、踊るのだ。

 剣を持ち、戦い合う、それは踊りと言えよう」


「…文化が違うからちょっとわからないですね」


 視線を鍛冶屋の親父に向ければ、肩をすくめた。

 鍛冶屋の親父も分からなかったようである。


「ならば覚えるが良い、我が国では舞踏会は剣を持ち戦う、それが舞いの様に綺麗に踊る事なのだ」


「そうですか」


 ミナモは説得が不可能なほど相手がのめり込んでいる事が分かり、さらにやる気をなくした。

 家臣らしきものに視線を向けると、何故か頷き満足していた。


「ではいこうぞ」


 そしてなぜか兵士たちに手厚く担がれ、馬車に押し込まれて城へと連行されていった。


「お主はどの様な世界から来たのだ?」


「どの様な、平凡ですね。

 私と似た様な種族が多く、戦争もあったり、平和であったり」


「戦争か、我が国は平和だが、伝え聞けば他の大陸では起こっていると聞く」


「何処も似たようなもんですねぇ。

 ただ種族が違うだけです、まあ、色んな種族が居るので、主義思想は違いますけど」


「種族か、何処も問題が起きているのか?」


「それは勿論ですよ。

 とは言え、同じ種族同士でも争い合う事だってあるので」


「う、うむ…」


 心当たりがあり、その話題に触れたくない様だ。

 ミナモは適当に話を切り替える事にした。


「…その前に居たのは、全てを焼き尽くす業火の世界や、死者の世界など。

 最近は闇の世界ですかね」


「想像できぬな、…しかし死者の世界とは?」


「文字通り、死んだものが辿り着く世界。

 全てに繋がり、そしていつか帰る場所」


「お主は死んでいるのか?」


「そこで仕事をしているのです、逃げ出した魂を送り返したり、留まる魂の浄化し冥界へと送る」


「そ、そう、で、あったか」


 半信半疑であるが、間違いなくただならぬ存在という事は頷ける。


「何処へでも行けるのだな」


「それは旅人ですので」


「どうやって移動しているのだ?」


「転移魔法とか」


 しかしそこでふとこのイベントの移動について疑問に思った。


(集団で転移とか伝えても仕方ない様な。

 尋ねられたら厄介だし、…そうだ、この手で切り抜けようか)


 ミナモは今回この世界に来た方法について口にする。


「今回この世界に来たのは時空の裂け目に飲み込まれてきました。

 同じような、姿をしている者達も吸い込まれています、何百人かなぁ」


「そ、そんなにか?」


「まあ、私とは違う種族で、強さも下の下ですけど。

 あの赤い雨に打たれただけで溶けて死ぬような脆弱さですよ」


「なんと! 雨に打たれただけでか!?」


 この世界では当たり前の天候で、彼等にはその意味がない為、脅威とは思えていない。


「彼等は脆弱で、森の中で彷徨っている事でしょう」


「お主は無事なのだな」


「全然違う種族なので」


 それを聞いてかザルガネアは少しだけ言葉に詰まらせて尋ねる。


「旅をしているなら、…病魔を破る道具や魔法といったものもあるのではないか」


「王子…」


 傍に居る立派な服を着た男が裾に触れる。

 その話題を表に出して欲しくないのだろう、王子も先程から空気が重くなっていた。


「すまぬ、忘れてくれ」


「別にできますけど」


「ま、まことか!?」


 ザルガネアは詰め寄りその手を掴む。


「しかし、王子」


「良い、我が妃となるのだ、身内の事はいずれ分かる」


「いや、別になるって言ってないし、なんなら治すからそういう妃とか辞めて」


「む、むぅ…」


 しかしそれでもザルガネアは引き下がらない。


「どうしても嫌なのか?」


「王というならば、そこに繋がる障害なども想像できるでしょう。

 おとぎ話のような幸せな結末になる事はできません。

 例え力で従わせようとも、民の心を従わせる事は出来ない様に、必ずその身に何れ返ってきます」


 権力を振りかざせば、心が離れていく。

 そして外部からパッと出の者が入り込めば不信につながる。


「何より、…生まれからは逃れられません。

 その立場に生まれてしまったのでしたら、何時までもついて歩くものです」


「…分かっておる。

 だがお主ならば皆を認める力はあるであろう」


「…振るう力で認められても、禍根は残すものです。

 それだけ異種族が入り込むというのは障害が大きいのです」


「他の世界でもそうなのか?」


「争いが起きました。

 互いに理解しようと手を伸ばした所で、互いに理解できないという結果だけを残し、絶滅まで追いやられ、そしてやっと手を取り合う世界もございました」


「そうなのか…」


「……逆にすんなり受け入れた場所もございましたが」


 そんな会話をしていると、城へと辿り着いた。

 家臣が最初に降り、続いて王子が、最後に手を差し伸べる王子の手を無視して浮かび地面を浮いたまま移動する。

 周りからはその様子に驚かれつつも、城の奥へと。


「…早速で悪いが、頼めないだろうか?」


「……まあ、仕方ないですね」


 ミナモは地面に降り立ち、その扉の前に居る兵士に訝しがりながらも、合図を送るとその扉を開けられる。

 その先に居るのはシースルーの布に囲まれたベッドに眠る人影であった。


「妹なんだ」


 侍女に銘じれば、一礼して部屋を後にする。

 ミナモは一歩踏み出せば、その姿を黒衣へと変わっていった。

 そして近づき、その目を開いて。


「ほぅ…、ふ~ん」


 そこに居たのは竜人、本当の意味で、ミナモが最初に連想した、人間の姿に角や翼、そして尻尾が生えた女性であった。

 腕や足は爬虫類の竜人に近い。

 痩せこけており、息も幽かに聞こえる程度で生きているのが不思議なほどだ。


「知ってるドラゴニュートに似ているね、…なるほど」


「似た様な種族が居るのか? いや、その前にその姿は?」


「私は特性に変化するんだ。

 この形態は人を癒す事に向いていてね」


 目隠しがレンズの様に広がり、そして彼女を眺めた。


「アグレジアン、…君の本当に妹なんだね」


「な、名前まで分かるのか!?」


 名前は侍女にすら知られていない。

 家臣らしき男性も目を見開き驚愕していた。


「なるほど、君が私を見てもそこまで驚かなかった理由はそれか」


 近づき服を脱がしていく。


「ほら、男の子、女性の肌を無暗に見ない」


「し、しかし…」


「まあ、見たいなら良いけど」


 ミナモは彼女背中を見れば、床ずれが起きておりこのままでは腐って行きそうなほどであった。

 しかし他にも隅々まで眺め。


「なるほど、これは呪いだね」


「呪い、…呪いという物があるのか?」


「あれ? この世界に無いの?」


「いや、噂程度には聞いていたが、…存在しているのか」


「これはこの世界に封じられている龍神の呪いだね。

 ふむ、なるほど…」


「竜人?」


「竜とは異なる、龍という上位種、その神だよ。

 ……最近儀式してる?」


「儀式!?」


 王子も家臣も顔を見合わせる。

 ミナモはその様子を一切気にも留めず、再び服を着させた。


「この娘はある意味龍神の寵愛を受けた存在、そしてその巫女としての立場があるみたいだけれど」


 ミナモはもう既にネタバレすら気にも留めない。

 何故ならピンポイントで彼女の治療イコール、物語の核心に迫る話であったのだから。

 おまけに知りたくない情報も次々とみる事になり、ミナモは今回のイベントのやる気は急下降して、殆ど無い。

 すぐに終わらせたい気持ちばかりが先行していた。


「…我が一族にはお主の様に、そしてアグレジアンの様な姿で生まれる者が居る」


「長生きできないんでしょ」


「…む、むぅ」


 全てを見通されており、ミナモは胸元に下げた小瓶を開ける。

 そして現れた蛇が巻き付いた灰の中に、小瓶を傾ける。

 何も入っていないはずだが、光に当たり水の一滴が杯の中へと垂れ下がった。

 杯の中から神聖な色の水が溢れ。


「そい!」


 ミナモはばしゃりと彼女へと水を浴びせる。


「あ!?」


「黙って見とけ」


 そしてミナモは口に含み、彼女の前へ移動し、突然その唇を塞いだ。

 驚嘆している2人は止めようかどうするべきなのか慌てているが、その唇を離して一息ついた。


「ふー、…まったく、面倒なものだ」


「な、ななな、なにを!?」


「寝てれば飲めないだろ。

 杯から直接飲むが良いが、しっかりと魔力で保護して中へ押し込まない限り意味がない」


「お、王子!」


「なんだ?」


「王女様が」


「ぬ? お、おお!?」


 アグレジアンの肌の血色がよくなっていき、がさついていた肌に潤いが戻る。

 失った脂肪が幽かに戻り、髪にも艶が出てくる。

 みるみるうちに健康体へと近づき、アグレジアンがゆっくりと目を開いていく。


「……こ、こ」


 かすれた声が聞こえると、ザルガネアが慌てて近づき呼び掛ける。


「アグレジアン、アグレジアン…!」


「……おに、さま?」


「嗚呼、アグレジアン、良かった、本当に良かった!」


 ザルガネアは抱き着き、意味が分からないアグレジアンが首を傾げながら黙ってそれを受け入れていた。

 そして落ち着きを取り戻し、アグレジアンが周りを見回してミナモの方を眺める。

 その姿を見て驚き、慌ててその身を起こした。


「そちらの御方は、…わたくしと同じ?」


「どうも、私は異世界から来た、……まあ、医者です」


「そ、そうでしたの、…異世界」


 ここではない世界、自分と同じような人物がいる。

 その事実はアグレジアンに心に強く刺激を、そして夢を見てしまった。


「この御方がアグレジアンの呪いを解いたのだ。

 …本当に、本当に良かった」


「お兄様、少し強い、です」


「ああ、すまない」


 再び抱きしめるザルガネアであったが、慌てて離れてぎこちなく微笑む。


「あ、まだ呪いは完璧に解けてないよ」


「そ、そうなのか?」


「龍神の方を何とかしないと、完璧に解けたとは言えないから」


「龍神?」


「この世界に封じられている神様。

 君のその姿もその龍神の影響なんだ」


「わたくしの、この姿…」


 ミナモは姿を変えて兎の姿へ戻った。

 その姿に驚かれるが、ミナモは龍神について話し続ける。


「ある理由で封じて、それでも仕え、奉仕する事を君達の一族に課せている。

 君の様な姿の子が生まれるのもその一つ、巫女として舞を踊り、供物をささげる、んだけど」


「…いくつか前の世代で途絶えた儀式だ」


「それが剣舞という舞踏会に姿を変えたんだろうね。

 まあそれでも少しは効果があったみたいだけど」


「つまり、…儀式が途絶えたからアグレジアンや先代達が早死にを?」


「それも一つの影響だね。

 というか君とかにも影響が出てない?」


「…それは」


「お、王子?」


「やっぱり」


 ミナモを肩をすくめる。

 そしてザルガネアに近づき、そのままベッドへ倒れさせる。


「な、なにを?」


 ザルガネアは、頭の中にアグレジアンにやったような事をミナモからされるという直感を感じる。

 乱暴され、そして口づけされ…。

 しかしミナモは残った杯の中の液体を被せ、そして無理矢理杯を近づき口の中に流し込んだ。


「うっ」


「お、王子!?」


 ザルガネアの身体から活力が漲る。

 まるで生まれ変わったかのように溢れ出る力に驚愕しながら身を起こした。


「こ、これは、…な。なんと、…不調が、嘘の様だ」


 家臣たちも知らない不調、家臣は驚きながらも、回復した事に一先ず喜ぶ。


「良かった、よく分からなかったですが、本当に良かった…」


「…しかし、口づけではないのだな、アグレジアンには口づけだったのに…」


「あ? 意識があるのにするわけないだろ」


「では意識を失えばしてくれるのか?」


「自分で飲めよ」


「…わたくし、…口づけ?」


 アグレジアンは目を輝かせていた。

 そのまなざしは憧れ、そしてそれ以上に熱いものを感じる。


「お、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「名乗る名はない、名無しとでも呼んでくれ」


「名無し様…」


「ぬ、ならば、…名無し殿、我の妻になってくれ」


「ならねぇよ。

 はぁ、ってかまだ龍神が解決してないんだ、そっちをどうにかしない事には終わらん」


「そ、そうか…」


「つうわけで儀式で封印解いてしばき倒す」


「……相手は神ぞ?」


「私も神だが」


「…ぬ?」


「龍神撃破RTAは~じま~るよ~。

 計測タイムは今から、はいよ~いスタート、いくぞー」


 ミナモはやる気なさそうに拳を突き上げる。

 釣られた他の三人も首を傾げならこぶしを突き上げた。


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