ダビッドの誤算 sideリアラスタ
「お前達っ!!
最初からグルだったんだな!!
コルは俺への復讐か? あれだけ目をかけてやったというのに!!」
ダビッドは、私とコルが結託して陥れたと言っているが、契約書を読み、同意したのはダビッドだ。
たとえ、私とコルが知り合いであったとしても契約には関係がない。
激昂するダビッドに、コルは冷ややかな視線を向けた。
「目をかけていたのではなく、痛めつけていただけでしょう?
ランソワー子爵に受けた暴力は、今でも鮮明に覚えていますからね。
なんなら今から同じ事をして差し上げましょうか?」
「ひっ……!!
半獣が、生き残り、成人できただけで幸運だろう……?」
コルの言葉は丁寧だが、目に深い闇が宿る。
ダビッドは、コルの言動に震え上がった。
どうやら暴力をおこなった自覚がある様だ。
さっきまでの高圧的な態度を改めて、弱腰になる。
怠惰な生活をしていたダビッドが、屈強な体をしているコルに敵うはずもない。
本当に小物だ。子爵としての器もない。
ダビッドが助けたわけでは無いが、コルが生き残れたのは幸運というのは間違いない。
10年前までは、半獣の死亡率は、9割を超えていた。
それは、10年前までは半獣は、人間にも獣人にも属さない種族だったから。つまり女神の加護が無い。
それが、わかっているから、たとえ愛しあう人間と獣人の夫婦がいたとしても、子供を作る様な事はしなかった。
つまり、以前は半獣の子が産まれるということ自体が、何かしらの深い闇があるという事を示唆していた。
その様な環境で生まれた半獣の子供は、加護が無い上に弱い立場である事は必然だ。
それ故に暴力の捌け口とされ、殆どが成人する前に命を落としていた。
私とコルが出会ったのは神殿に入ってすぐの頃。
偶然の出会いだった。
当時のコルは、今の屈強な姿とは異なり、痩せ細り今にも折れそうな貧弱な体だった。そこらじゅうに暴力の後があり、瀕死状態だった。
私が保護し、半獣の子供達を重複種族にする法改正しなれければ、コルは生きていなかっただろうし、今でも多くの半獣が命を落としていただろう。
「そうですね。私が、リアラスタ様に出会えた事は、人生最大の幸運でした」
私が、昔を思い出していると、コルも同じ事を考えていたみたいだ。
私に敬愛の表情を浮かべ、にこりと笑う。
10年前の法改正から、コルは私を崇拝する様になった。
前世も含め、その様な態度で接してきた人などいなかったから、物凄く戸惑った。
私はやめて欲しいと言ったけど、自分の心の拠り所だからと言われ、少しずつ受け入れる様になってはいる。
けど、落ち着かない。
先程の絶対零度の視線とは大違いで思わず笑ってしまった。
「……これは詐欺だ!!
守法人ともあろう者が騙したのだな!
これは契約不履行だ!!」
ランソワー子爵は、コルと話しても埒が明かないと思ったのだろう。
ランソワー子爵は、ターゲットを、私に変えた。
契約不履行は、契約に重大な欠陥があったり、契約の履行が困難な場合に行う制度だ。
守法人がそんな事をすれば、守法人としての立場を剥奪されるだろう。
ただし、今回は契約に重大な欠陥は見受けられないし、履行が困難な状況にもない。
つまり契約は無効にはできない。
「契約不履行には、なりませんね
特に不備はございません」
「私に不利な契約じゃないか!!」
「どこがでしょう?
ランソワー子爵はトラアナ地区に隣接する魔の森の脅威から逃れられるのですから不利なことは無いでしょう?」
「それは必要なことだが……子爵となれば……補助金がなくなる」
ダビッドが気にしていたのは補助金の様だ。
「魔の森に接しているからこその国からの莫大な補助金ですからね。
ランソワー子爵は、それを別の遊戯に横領していた様ですけど。わかっていたはずでは?」
「それは……」
「私を脅して、取り上げるつもりだったのかしら?」
「……」
どうやら図星の様だ。
トラアナ地区と隣接する魔の森への対策費用として国から補助金が出ている。
普通に考えれば、トラアナ地区を割譲した時点でダビッドがもらえるはずがない。
先程の破落戸を使って、私から補助金をも、取り上げようとしていたのかと思うと本当に呆れた奴だ。




