コル sideリアラスタ
ダルサスは挑発するものの、前に出ようとはしない。
護衛騎士としての職務は忘れていないみたいだ。
それに、『女神の理』があるから、手を出した方は神罰が下る。
人同士の身体的な暴力行為は、女神の理に反する。
神殿騎士でも、それは同じだ。神殿騎士の特権のようなものは存在するけれど、今はその時じゃ無い。
お互いに手は出せないのは同じ。
「やっちまえ」
どこかの三流芝居のような典型的な号令の下に、破落戸達が、ダルサスに襲いかかる。
対するダスサスは、相手を迎え撃つ体制をとった。
ダルサスは怠惰な男だ。無駄な事は極力しない。そのダルサスが構えの姿勢をとるという事は、相手の攻撃がダルサスに入る可能性がある事を示唆していた。
本来なら女神の理が発動すれば、【拒否】され、ダルサスに当たりすらしない。構えすら必要ないのだ。普段のダルサスなら平然と優雅な出立ちで、微動だにしない。
なんなら、薄ら笑いを浮かべて「馬鹿は困る」と、見下すくらいするだろう。
破落戸とダルサスの剣が交わる。
本来であれば、この時点で、破落戸に神罰が下るはずだが、破落戸の手の甲にある審判印【シイル】は、反応しない。
破落戸どもがニヤリと笑みを浮かべ更なる追い討ちをかけていく。
ダスサスは、相手が理に反しても神罰が下らないことがわかったので、自分から仕掛けていく。
ダスサスが、仕掛けても神罰が下る事はない。
そして、危なげなく、顔色を変える事なく、次々と破落戸を鎮めていく。
「バカな……」
驚愕の表情に変わるダビッドをよそに、ダスサスは、それ程時間を置かず、数十人はいた全ての破落戸を鎮めた。
「さて、余興はもう終わりかしら?」
私は、余裕のある笑みでダビッドを追い詰める。
ダビッドは、ころりと態度を変えた。
「そっ、そうだ。これはちょっとした余興であって、世の中は、こういった荒くれ者がいるから注意を促そうと思っただけで」
「そうでしたの? あまり面白くありませんでしたわ。
私も忙しい身ですから、後処理は、さっさと終わらせましょう」
苦しい言い訳をするダビッドに、私は破落戸達が入ってきた扉とは別の扉に視線を向けると、ノック後に、金髪の青年を先頭に10人ほどの騎士の格好をした者達が入ってきた。
先程の破落戸とは違い、ダスサスの神殿騎士の服装よりも華美では無いが、実用的な肩や胸当てに金属プレートを身につけ、しっかりと手入れが行き届いている清潔感のある騎士達だ。
その姿を見たダビッドは、驚愕の表情になる。
「コル……」
「まさか覚えていたとは、驚きだ」
ダビッドが呟くように出た名前に、入ってきた青年、コルは苦笑いを浮かべた。
コルは金髪に蒼瞳の青年だ。
体格は、筋肉質で大柄だが、顔つきがどことなくダビッドに似ている。そう言うと本人は嫌がるだろうけど。
それもそのはず、コルは、ダビッドが気まぐれに手をつけた獣人の女性との間に生まれた子だ。
半分しか獣人の血が入っていないためか、耳の形は人間だし、尻尾もない、少し大柄なだけだ。
ダビッドの好色は、ここまで酷かった。
ただ、10人以上子供がいる中で、コルの事を覚えていたのは意外だったが。
コルは、私の下まで来て最敬礼をした後、ダビッドの方へ近づく。ダビッドは、自身にも礼を尽くすのだろうと思っていたが対応は違った。
コルは、入ってきた扉を指し、ダビッドに命じた。
「ランソワー子爵、お帰りはあちらだ」
「は?」
ダビッドの間の抜けた声が響く。数秒してから何を言われたかを理解したダビッドは、憤怒の表情になる。
「お前は何を言っているのかわかっているのか?
ここは私の屋敷だ。
それに辺境伯だ。獣人風情が間違えるな。
ああ、獣人にすらなれなかった半獣か」
怒りを露わにしながらも、コルを見下すダビッドに対し、それ以上にコルの態度が豹変する。
コルの目の光彩に黄金の線が放射状に現れた。
獣人は、怒ると目が獣化して光彩に黄金の線が入り、強化される。
獣人ぽさがないコルの唯一の獣化であるが、これがかなり強力だ。
ほとんどの人が太刀打ち出来ないほど強靭になるのだった。
この場の雰囲気をコルの威圧が支配した。




