坊や、大人の女はそう簡単に落ちないわよ
食事を楽しんでいると、母上に聞きたいことを思い出した。
「ははうえ」
「どうしましたか?」
優しい音色に自然と頬が緩む。
「ははうえ、ちちうえ。かじょく」
「ぇえ。そうね」
「すてふぁにぃ、かじょく。いる?」
「……え? 私たち家族よ?」
「ここ、かじょくいる?」
婚約者だよって伝わるように誰もいない隣の空間を指さす。
父上は気づいたのか教えてくれた。
「婚約者かな?婚約者なら、いないよ」
「はい」
「あるふぁかしゃ、こんにゃくしゃ?いる?」
「こんやくしゃね。いるよ」
「ふぁ!?」
「数日前に決めたんだ。アルフがあまりにもステフに執着しているからね」
「別に執着なんてしていません」
「前よりも過激になっているのは分かっているのか?」
「そんなつもりは……」
「無いとは言わせん。いい機会だ。今度逢せよう」
「……」
「もし断ると言うのならステフの記憶が戻っても学園には通わせないつもりだ。いいな」
「はい……」
剣呑な雰囲気に私はまた何かやってしまったのかとハラハラする。
「ところで、殿下から銃を頂いたそうだな」
「はい。ステファニーが興味を示したので護身にしようかと」
「男でも扱うのが難しいやつをか?」
「はい」
「銃ならば、女性が携帯しても気づかれることもないでしょう」
「護身なら短剣でいいではないか」
「銃が扱えないようなら短剣でもいいと思います」
「ゆずる気ないな?」
「はい。ステファニーに銃は必要だと考えています」
「その理由は」
「ステファニーが目を輝かせて銃が欲しいと……」
「ステファニーが欲しいと言ったら危険だと思うものも全部与えるのか」
「出来る限りのことはしてあげたい」
「だめだ」
「どうしてです!? 俺にはなんでも与える癖に見目が人と違うから危険だからと家から出さず必要以上に過保護になるのは間違っていると思います!」
「お前の方が過保護だろう。短剣なら許す」
「銃を希望します!」
「だめだと言っているだろう……この話はここまでだ」
「この頑固者!」
「頑固者はどっちだ!」
「アナタ達、毎回言い合うのはどうかと思いましてよ?ステファニーもオロオロして可哀想だわ」
母上の声に二人は静かになる。
そして父上は目を覆って溜息を吐いた。
「分かった。1週間だ。1週間で銃を扱えるようにならなければ銃は殿下にお返しする」
「ありがとうございます」
「男でも扱うことは難しいのだ、せいぜい頑張るようにな」
何を言っているのか分からなかったが私のことを話していたのだろう。
毎回私絡みで喧嘩しているような気がする。
早く会話ができるようにアルファカーサが心配しすぎてシスコンをこれ以上こじらせないようにしようと食後の紅茶を飲みながらのんきに決心する。
部屋に戻って今日習ったことを文字に書きながら口に出して復習する。
しばらくしてノックの音が響く。
はーい。と声をかけて扉を開ければアルファカーサが立っていた。
そういえば、と思い出す。
昼間アルファカーサは自分の事をかっこいいと言ってなかったか?
シスコンのうえにナルシストだったなら目も当てられない。
「入っても?」
「はい」
ソファーに座って息を吐くアルファカーサを見る。
まぁ黙ってればかっこいい。兄妹でなければアイドルみたいに崇拝しただろう。
「おいで」
トントンとソファーを叩かれて距離を離して座る。
「これをね、持ってきたんだ」
いつの間にか手に持っていたオートマチックピストルを見て距離を詰める。
これは私にくれるってことか!テンション上がる!
じっくり見ようと手を伸ばせばスイッとオートマチックピストルを上にあげた。
上にあげられた銃を取ろうとしても避けられる。避けられる。避けられる!
ムキになっていたらアルファカーサを押し倒していた。
慌てて起き上がろうとすれば首に手がまわされグッと顔が近づく。
「クラウス様に、したように、おねだりして?」
「おねだり?」
「そう……。アルフのがほしいと」
うっとりと言われた瞬間、私は頭突きをかましていた。
伸びたアルファカーサの額を撫でて拳銃を取る。
『坊や、大人の女はそう簡単に落ちないわよ』
ふっと銃口に息をふきかけて大人の色気を醸し出してみる。
いやー。これ一回やってみたかったのよね!
そのままにしとくのも可哀想だから掛け布団をかけて勉強の続きを再開した。




