覚悟しているフリをしていた
チュートリアルダンジョンは軽症の怪我人を出したが無事終了し、各グループは騎士から講評を受けていた。
アルファカーサもあれから落ち着きを取り戻し痛い目で見られているが気にした様子もない。
それでいいのか次期宰相よ。
ダンジョンから訓練場に移動し、これから模擬戦が始まる。
相手はイグナーツ。騎士団では第一分隊が模擬戦の相手をしてくれていたので今日もそうなるのかと思っていたがアルファカーサの言動に譲り合っていた。
「ステファニーは銃をAまでランク下げろ」
イグナーツに言われてAまで下げて、もしやこれはとイグナーツを見れば銃を使用していいとの事だった。
いつもなら、被害が酷くAまで下げたところで人に当たれば腕を吹き飛ばすことだって可能な程の威力だ。
それを使用してもいいという事は当たるつもりは無いという事、舐められているとカチンとくる。
魔導師様は皇帝、バリアを展開する。これで銃が壁や人に当たることはない。流石魔導師様である。
「準備ができ次第始めるぞ」
「はいですわ」
イグナーツは火属性。全部水属性に変えた銃を両手に持つ。
全力火力の短期決戦。長引けば勝てる確率は0になる。
勝てるとは思っていないがやるからには勝ちたい。
勝てなくても1発は当てたいとイグナーツを睨むように見てみれば余裕綽々な態度で余計イラッとした。
慣れないハイヒールとニーハイソックスを脱いで準備ができたと声をかければ、イグナーツは刃が潰れた斧を担いでバリア内に入ってきた。
先手必勝。
『ペンタクルの5展開!』
土魔法を展開しながら銃を発砲する。
器用に避けながら斧がブーメランのように飛んできた。
屈んで避けると目の前にはイグナーツ。
急いで銃を発砲するも目の前にはイグナーツはいなくなっていて後ろから斧が振り下ろされる気配がして慌てて横に転がる。
『解除』
人間の域を超えている。アルファカーサや父上も人間の域を超えていると思ったが、イグナーツと対戦すれば二人はまだまだだと認識が改められる。
頭を振って雑念を取り払う。余計なことを考えて勝てる相手じゃない。
詠唱をやめて機をうかがっているとイグナーツも止まる。
私が仕掛けないと攻撃するつもりはないらしい。
減った分を銃に補充しながら真正面から突っ込む。
『ソードの2解放! 解除!』
地面に手をつけると体は勢いよく空に舞い降下する。
体をひねりながら発砲しイグナーツの背後を取ろうとしたら腕を掴まれて地面に叩きつけられた。
息がつまり目がカチカチと光る。
負けたくない!
急いで発砲すればイグナーツは離れた。
目をしばたかせながら私も距離を取る。
実際の戦闘ならここで死んでいる。
呼吸を整えてまた真正面から突っ込んで蹴りをしかける。
掴まれた足を重点にして勢いよく足を振り上げ、遠心力を利用して首に足を絡ませてそのまま地面に叩きつけた。
さほどダメージは与えられなかったものの初めて攻撃が当たった。
今度は私が離れようと立ち上がると寝転がっているイグナーツに足首を掴まれペロリと足裏を舐められた。
ビックリしすぎてイグナーツの顔面を勢いよく踏む。
緩んだ手から急いで離れて距離を取れば私の血でイグナーツの顔には足跡がくっきりと残っていた。
先ほどまで余裕綽々だったイグナーツの雰囲気が変わった瞬間、私は投げ飛ばされて斧が首筋に当てられていた。
一瞬だった。
「まいったですわ」
力の差がここまで違うことに悔しかった。
全然通用しない。
「魔導師様、治療を」
イグナーツの言葉に魔導師様はバリアを解いて私の足を治療してくれた。
魔導師様にお礼を言いイグナーツに向き合う。
「ステファニー・ファリムス」
「はい」
「魔法の応用には驚かされたが、俺に攻撃を当てる気が微塵も感じられなかった」
「……」
「俺を殺すつもりでやらなければお前は俺に勝つことはない。分かっているだろう……人を殺す覚悟がないのなら足手纏いだ。騎士団には必要ない」
ぐるりと見渡して皆に聞かせるようにイグナーツは言った。
アルファカーサ達が魔法を使ったとき覚悟したつもりだったのにイグナーツと戦って言われて気づかされた。
覚悟しているフリをしていた。
もし、ここでイグナーツの体に向けて発砲しろと言われてもできないだろう。
平和な世界で生きてきたんだ、人を殺す覚悟なんて簡単にできるわけがない。
自分で決めたことを反故にするのか、今更何言ってるんだと自嘲する。
魔導師様は私に分かるようにゆっくりと言う。
「貴女はこれから人に狙われる事が多くなるわ。自分を守る為に人を殺すこともでてくるはずよ。そのときになって殺せませんでは生き抜く事なんてできないわ。それなら屋敷の中に引きこもってくれる方がありがたいわね。屋敷の中なら警備を増やせばいいだけだもの。ヴェールをはずし外に出ると決めた以上、自分の身は自分で守りなさい」
「はい」
「まだ引き返すことはできるわ。よくよく考える事ね」
「ありがとございます」
魔導師様は私の頭を撫でるとソフィーナのもとへ向かった。
頬を力いっぱい叩いてイグナーツに詰め寄る。
「自分の身は自分で守りなさいですわ!」
「? そうだな?」
「頑張るしますですわ!」
「なるほど。俺と結婚すれば今以上に守れる。どうだ今晩」
「1回と言わず3回死んだらいいと思いますよイグナーツ・ヘンセル団長」
「未来のお義兄さんは俺より弱いんですから引っ込んでた方がいいですよ?」
「貴方が義弟? 止めてくださいよ虫唾が走る」
バチバチと火花が散っている二人に巻き込まれるのは勘弁だと皆の輪に戻る。
人を殺すとかまだ覚悟が出来てないがそれでも私のせいで誰かが傷つくのを見たくない。
イグナーツよりも誰よりも強くなって大切な人を傷つけないように守れるようになろうと決意する。
今度こそ決意が揺らがないように模擬戦を開始した二人のもとに走って乱入する。
徐々に乱入者が増え、生徒対騎士団という構図になったのは言うまでもない。




