肉体に一目惚れしました
宰相に娘が銃を扱うから立ち会ってほしいと言われ、未だ扱うことができる人間がいない状況なのに小娘がムリだろと思いながらも宰相に頼まれては断りきれないと騎士副総団長のグライエと第一分隊長のリンドヴァルを引き連れてファリムス公爵家へ赴いた。
先に来ていたクラウス殿下に挨拶をし宰相と話をしていたら公爵令嬢は堂々とやってきた。
が、それも最初だけで徐々に頭を下げていく。
宰相が挨拶を述べると公爵令嬢は緊張した面持ちで顔をあげ拙い言葉を紡いだ。
毒を盛られ言葉、記憶を失ったと宰相が嘆いていたのを思い出す。
捕らえられたのは男で、公爵令嬢に好意を寄せていたが学園に通う事を知って自分のそばから離れるのは許さないと暴挙にでたらしい。
男は血走った目で公爵令嬢との妄想を語っていた。愛し合っていた、結婚を約束していたと。その他色々と言っていたが付き合うのもめんどくさいと適当に受け流していた。
宰相は公爵令嬢につけていたメイドに確認を取って事実無根だと男を処刑した。
公爵令嬢は男が処刑されたことを知らないだろうし知りたくもないだろう。
男が妄想するのも無理はないと綺麗に最敬礼をする公爵令嬢をじっくり見る。
髪はヴェールで包まれ顔の輪郭がハッキリと分かる。知的な顔、豊満な体が際立つスラッとしたドレスを身にまとい幼い子が喋るように言葉を紡ぐアンバランスさに、無茶苦茶に汚したらどうなるのだろうかと想像せずにはいられない。
グライエも面白そうに目を細めて見ていた。幾人もの女と関係を持っている男に惚れでもしたら不幸になるのは目に見えている。それともグライエが公爵令嬢に本気で惚れたなら、不真面目な男も変わるだろうかと思案する。
リンドヴァルの様子を窺うが、なんの変化もない。リンドヴァルには妹がいる。妹と同じ年齢の子どもにどうこうしたいという気持ちがないのだろう。
興味が無いのかと聞いたなら自分のように性的な目を向ける方がどうかしていると言われそうだ。
公爵令嬢の集中を妨げない為か皆無言で射撃場に向かう。
モンスターを殺したことも人を傷つけたこともないであろう公爵令嬢が1週間の練習如きでなにができるのか期待しないで見ていたら片手だけで銃を構えようとしていた。
俺でも両手で構えなければ衝撃を吸収しきれないのに、何を血迷ったのか危険だと声をかけたが妖艶な笑みが返ってきた。
ゴクリと喉が鳴る音が聞こえた。
攻略令嬢から目が離せない。
前を向いて息を吐いた瞬間、先ほどまでの頼りなさげな表情が嘘のように一変し獲物は逃がさないと眼光が鋭くなった。
体に鳥肌が立つ。この目に捕らえられたら逃げられる気がしない。少しでも動けば殺されるかもしれない、不覚にもそんな感覚に襲われた。
銃の音にハッと顔を的に向ければ、粉々に砕けていく的に唖然とする。
弾から魔力を感じると同時にあんな壊れ方をしたのを初めて見た。
振り返った公爵令嬢はしてやったりと微笑んだ。
一番に声を上げたのは銃を開発したウェイトだった。
興奮したように公爵令嬢の手をとってブンブン手を振っている。
「聞きたいことがある……のですが」
そう声をかければキョトンとした表情が返ってきた。
言葉を待っても返ってくることはない。困った顔をした公爵令嬢はメイドを呼ぶ。
「めりさ」
「はい。ステファニー様」
「すてふぁにぃ。わかる、ない。いう、ねがうましゅ」
「かしこまりました。ヘンセル様、僭越ながら私がご説明してもよろしいでしょうか?」
「ああ。頼む」
メイドが説明するには、昨日弾倉が空になったあとしばし考え魔法を弾倉に入れたという。
それまでは両手を使って鉛を撃っていたらしい。
にわかに信じがたい。見せてほしいと頼めば頷いてくれた。
不思議な言葉が紡がれると銃に魔法が吸収されていく。
この銃が特殊なのか、公爵令嬢が特殊なのか。
ウェイトがビックリしているのを見るに後者なのだろう。
魔法が入った銃を手渡され遠くの地面を目がけて撃った。
抉られた地面と銃を何度も見る。
反動が一切感じられない。
ウェイトに渡して撃たせれば声にならない悲鳴を上げた。
グライエとリンドヴァルも交互に撃っていた。
信じられないと表情を浮かべている宰相に近づいて声をかける。
「俺が判断する必要はないと考えますが」
「分かっている……」
「俺が言いたいことも分かりますよね宰相殿」
「……断る」
「令嬢は銃を扱う事ができるただ一人の人間です。騎士団にください」
「断ると言っている」
「俺は宰相殿にお願いしているのです」
「……」
「宰相殿、俺を呼んだって事はこういう事も想定していたでしょう」
「分かっている。だがな娘が戦いに身を置くというものは……」
公爵令嬢を見ながら「つらいものだな」と弱弱しい声で呟いた。
「学園に入るまでは銃の指導者として騎士団で指導して頂きたいのですが。少しずつ騎士団での活動を知り戦う事ができないと判断すればこちらも無理は言わないつもりです」
「あぁ」
「早速明日からお願いしますね」
「あぁ」
「俺を令嬢の婚約者にして下さってもいいんですよ」
「あぁ、あ゛ッ!?」
「騎士団では初の女性でしょう?俺の婚約者なら手を出すものはいませんよ」
「流石に12も離れているのは可哀想だろ」
「俺は騎士団1強い男ですよ。彼女を狙うヤツらから守るのは俺しかいないと思うのですがね」
「好意を寄せているのか」
「そうですね。一目惚れです」
肉体に一目惚れしました。なんて言ったらぶん殴られるのは目に見えている。
答えは出ているはずなのに考えさせてくれという宰相に内心苦笑いした。
総じて娘をもつ男達は巣立っていこうとする娘に葛藤するのだ。
俺にもそんな日がくるのかと、想像できない未来に目を閉じる。
それでも、公爵令嬢との子は可愛いのだろうと思いを馳せた。
宰相は公爵令嬢とグライエ達を呼ぶと挨拶するように声をかける。
先ほどの挨拶とは打って変わり明るい声が耳を擽る。
公爵令嬢が分かりやすく単語をかみ砕いて説明している宰相に、こうすれば伝わりやすいのかと関心する。
説明を聞いている公爵令嬢は目を輝かせていく。
あぁ。可愛いな。
無意識に零れた言葉に顔を隠すように叩いた。
視線が痛い。指の隙間から睨めばニヤニヤと面白そうに口を歪めるグライエと目が合う。
その言葉を聞いたからなのか、宰相は俺を婚約者候補だと言った。
「こにゃくしゃこうほ?」という声に、この可愛い生物をどうしてくれようかと天を仰いだ。
はっきり言おう俺はステファニー・ファリムスに骨抜きにされた。
俺の遅い初恋が幕をあける。




