第四百二話
「……とりあえず、色々あったもののみんな装備が揃ってよかったわね」
この流れはまずいと強引に秋は自分がやらかしたことをサラリと流して、まとめに入っていた。
「ま、まあ、確かに色々あったけど……」
気まずそうな表情の大輝はチラリと地面にあいた穴に視線を送る。
「それでも装備ができたのはよかったよ。これで強力な敵と戦うことができるね」
そして視線を仲間たちに戻した大輝のまとめに対しては、みんなが納得していた。
「……まあ、裏庭のことはいい。あとで俺のほうでなんとかしておこう。――それよりお前さんたちはこれからどうするんだ? 仲間は十分いる、装備も揃った――次はなにをする?」
腕組みをしたアントガルはこれから裏庭を直さなければいけないことに頭を痛めていたが、とりあえずその件はおいておくことにして、これからの動向について質問をする。
「僕たちの目的は魔王を倒すことです。ただ、その前に各地で魔素が濃い地域が増えてきているので、それをなんとかしたいと思っています」
真剣な表情で大輝がアントガルの問いに答える。
これは、ただ魔王討伐という本題を後回しにしているわけではない。
「なるほどな、だがその魔素が濃い地域というのが魔王の仕業だとしたら、さっさと魔王討伐に向かったほうがいいんじゃないのか?」
アントガルの疑問は当然のものであり、はるなやリズもなんで魔王のところに先にいかないのかな? と疑問に思っていた。
「さっきの秋を見てもわかるように、僕たちはまだこの装備を使いこなすことができてない。だけど、ただ漫然と訓練をするには時間がもったいない。だから、各地の問題を解決しながら力をつけていくというのが一番いいんじゃないかと考えています」
新しい装備に手を当てて真面目な表情で語る大輝の言葉に、職人三人は頷いていた。
「うむ、いい判断だと思う。俺たちが作った装備を身に着けたからといって、いきなり強い相手に勝てるわけじゃない。装備はあくまで道具。その道具を使う人間が強く、そして装備に慣れないことには戦力アップはのぞめない。むしろ装備に振りまされることになる」
アントガルと大輝の言葉は、秋の心にぐさぐさと刺さっていた。落ち込んだ目線の先に広がる自身が作り出した悲惨な光景がさらに彼女の心を追い立てる。
「で、でも秋ちゃんもあれだけの攻撃を使えるんだから、強くなってるよね! うんうんっ」
わたわたと手を振るはるながなんとかフォローしようとするが、秋は未だいたたまれない様子でいる。
「確かに威力は強かったが、仲間と一緒に戦う時にあれでは仲間まで傷つけてしまうことになる。一人だけ近接戦闘ということならいいんだろうが、大輝もいるからなあ」
これまたアントガルの正論に秋はがっくりとうなだれる。
「ちょ、ちょっとアントガルさん! 秋ちゃん大丈夫だよー、よしよし」
豊満な胸で包み込むように抱き着いたはるなが秋の頭を撫でつつ慰めるが、彼女はなかなか立ち直れずにいる。
「す、すまん。言いすぎたな。……だが、とにかく力を引き出すことはできたから、あとは制御できれば戦闘で使い物になるだろ」
ついいつもの調子で言い過ぎたことを反省したアントガルは頭を掻きながらぎこちなく言葉をかける。
ぐいぐいと両脇にいたアリサとボグディから肘でつつかれて困ったように居心地悪そうだ。
「――秋、そんなことじゃ近衛に勝てないよ?」
この空気を打ち破るように、大輝は一番効果があるであろう言葉をぼそりと口にする。
決して大きな声ではなかったその言葉で、秋は勢いよく顔を上げる。突然の動きにはるなは驚いて固まっていた。
「……近衛」
その時、蒼太の後姿を脳裏に浮かべて思い出した秋に強い思いが宿る。
「みんな口止めされているのかなんなのかわからないけど、近衛と知り合いなことは確かだ。あいつが何を考えて、どうして僕たちに助力してくれるのかはわからないけど……多分あいつは強い」
これまでのみんなの反応を見て、最初は分かっていなかった大輝も徐々に蒼太の存在を感じ取っていた。それがわかってからというもの、きっと自分たちが足元にも及ばないくらい強いのではないかと思えたのだ。
硬い表情をした大輝は、教室でいつも冷静に佇んでいた同級生の姿を頭に浮かべた。
「――それだけの力があるのに、直接仲間にならないのは多分何か理由があるんだと思う」
少し下に目線を向けている冬子は表情を変えずに、蒼太のことを庇うような発言をした。
「っ、何を!」
弾かれるように声を荒らげた秋は元々蒼太に対して思うところがあったため、その肩を持つような発言をする冬子をぎろりと睨み付けてしまう。
「私は客観的な事実を述べただけ。彼は高校に入って部活を辞めたりと、あなたが気に食わないようなことをした。そして、今回の召喚でも一人でどこかにいってしまった。――でも、それは本当に悪いこと? 彼にも事情があるとは思えないの?」
じっと秋を目線で射抜いた冬子の表情は変わらないが、内には熱い思いがあり、それを彼女へとぶつけていく。
「な、なにを……」
あまりに真剣な様子の冬子に動揺した秋はなんとかそれだけ口にする。
「何も……ただそう思っただけ。実際に色々とその事情を話さない彼にも問題があると思うけど」
すいっと目線を逸らした冬子の言葉に、大輝と秋は考えこんでしまう。しばしこの部屋を沈黙が包んだ。
「うーん、うちは近衛君は悪い人じゃないと思うなあ!」
空気を打ち破るかのようなはるなの言葉は、みんなの視線を集める。
「だって、だってだよ? 今回装備を作ってくれたのとかも、多分近衛君が色々動いてくれたからなんでしょ? 王様たちの反応的に、獣人の国でも多分そんな感じだと思うの。きっと表には出てこれない、でも力は貸してくれる。それでいいんじゃないかなー? そもそも魔王討伐の依頼を受けたのはうちらなんだから、それを近衛君にどうこう言うのは筋が違うと思うなあ」
口元に人差し指を当てつつ、まじめなことを次々に口にするはるなに対して、みんなは驚いていた。
「は、はるなが……」
「すごくまともなことを……」
「明日、槍が降るかも」
動揺交じりの大輝、秋、そして冷静にツッコむ冬子の反応に、不機嫌そうにはるなは頬を膨らませてぷりぷりと怒る。
「もう! うちだって色々考えているんだからねっ!」
事実こちらの世界に来てからは、はるなは考えるのを仲間だけに任せ、色々と奔放に振る舞っていたが、自分なりに考えていたようだ。
わーわー騒ぎ始める一同をアントガルたち職人三人とリズは少し離れて眺めていた。
「みなさん仲がよろしくて良いことです」
上品に手を合わせて嬉しそうに微笑むリズ。彼らをこちらの世界に呼び寄せた彼女は勇者としての重圧に押しつぶされてしまわないかずっと不安に思っているため、こうして楽しそうにはしゃいでいる彼らを見るのは安心するようだった。
「……あいつもこいつらのバックアップするの大変だなあ」
「彼がいないほうが、この四人はチームワークがいいのかもねぇ」
「いたらいたで、色々問題が起きそうだからこのままがいいのかしらね」
腕組みをするアントガル、苦笑交じりのボグディ、頬に手を当てているアリサ。
三人は蒼太がこの場所にいた場合を想像して、思わず困ったように笑ってしまった。
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