第四百三話
それからリズたちに見守られつつ、蒼太について色々と意見を言い合っていた大輝たちだったが、結局のところこの場にいない人間に対してあれこれ言うのは不毛であるということで話が落ち着いた。
「――あの、本当にお礼はいらないんですか?」
不安そうな表情で大輝が代表してアントガルたちに質問する。
「あぁ、今回、俺たちの仕事に対しては国から報酬が出る。何せ、王様からの紹介で俺たち腕利きの職人が拘束されたわけだからな。……あぁ、別に今回の仕事に関しては面白かったから、やらされたという気持ちはない。そこだけは勘違いしないでくれると助かる」
前半の言葉がきついことに気づいたアントガルは慌てて後半の言葉を付け足した。彼も自身の口の悪さをフォローしようとしているようだ。
「はい、そう言ってもらえると……助かります。ドワーフの国のトップクラスの職人さんにフルセットで装備を用意してもらったとなっては、かなりの金額になると思うので……」
困ったように笑いながら大輝はアントガルたちに感謝する。前情報と合わせて自身の装備を見て、これを作ってもらうのは相当高いのは想像に難くなかったからだ。
「はっはっは、確かにガッツリと装備を作ったからなあ。しかも全てオーダーメイドで素材もかなり希少なものを使ったから――金額にしたら家が数件建つかもしれないな!」
アントガルは豪快に大笑いしながらざっくりとした計算をする。彼らしいアバウトな表現だったが、この世界でも家を建てるには相当な金額が動くため、大輝たちの目を丸くさせる。王家の人間であるリズでさえ、その値段を想像して背筋に冷たいものがよぎるほどだ。
「……タダでよかった」
しみじみと秋は腰にある自分の剣に手をあてながらそう呟いた。
「それだけあったら、ドーナツが何百個買えるんだろう……」
口元に指先を当てたはるなはお金をなぜかドーナツに換算していたが、冬子は心の中で「何百じゃきかない……」とつぶやいていた。
「どー、なつ?」
はるなの口から聞きなれない言葉が出てきたため、アリサが反応する。本能で美味しそうなものだと判断したようだ。
「うんっ、よく学校の帰りにドーナツ屋さんに寄ったんだよ!」
にぱーっと笑顔ではるなが答えるが、そもそもアリサが疑問に思っているのは、ドーナツとはなんなのか? というものであるため、彼女はずれた返答をしたことになる。はるなの天然ぶりはこの数日で知ったアリサであるため、深く突っ込みはしないが、思わず苦笑いを浮かべている。
「ドーナツというのは……」
そこへ冬子が正しい情報をアリサに伝えていく。基本的なものから必要性の高くない情報まで冬子は淡々とした口調ながらつらつらと語っていく。
話を聞いている内にそれが美味しいスイーツだと知ったアリサはぐいぐい質問を繰り返し、はるなもくわわって熱いドーナツトークが繰り広げられた。
「――ま、まあ、あっちの話はおいておくとして、そんな金額の装備をタダでもらうというのはちょっと心苦しいというか、なんというか……」
女性陣の話題から目を逸らした大輝が申し訳なさそうな表情で言う。正義感の強い彼にとって、何かを無償でしてあげるのは何の疑問も抱くことはないが、逆にしてもらう立場になると途端にうろたえてしまうのだ。
「あー、もー、だーかーらー! いいんだよ! ……ったく、男のくせにみみっちいことをいつまでもグチグチと! 遠慮するくらいだったら、ちゃっちゃと魔王を倒して世界を平和にしてくれ! それが装備に対する報酬だ!」
大輝の煮え切らない態度にしびれを切らしたアントガルは、大輝の背中をバシンと叩いた。
「っ、ぐああ! うっ、は、はい! 絶対に魔王を倒してきます!」
衝撃をうけて変な声を出しながらたたらを踏んで数歩前によろよろと動いた大輝だったが、顔を上げて返した言葉は強い意思のこもったものだった。
「おう、頼んだぞ!」
大輝の表情を見てニッと笑ったアントガルは腕組みをしてその背中を押す。
完全にアントガルに乗せられた形だったが、大輝の表情はスッキリとしたものになっていた。
「それで、お前たちは次、どこに行くんだ? 各地の問題を解決すると言っていたが、それにしても目的地くらいはあるんだろ?」
アントガルのその質問に、急にへたれた表情になった大輝は視線を逸らしていた。
「えっと、それは、その……」
うろうろと視線を動かしながら、何も考えていなかった大輝の頬に汗がつたっていく。
「はぁ? ……お前何も考えてなかったのか?」
思わずアントガルがあきれ顔になるが、すぐに話に割り込んできた秋とリズがサポートに入る。
「大丈夫よ、私とリズであたりはつけてあるから」
「ですです。一応ドワーフの国の周辺の怪しいエリアも調べましたし、他の国の情報も少しずつ集めていますので」
自信たっぷりの秋と、優しく微笑むリズ。自身の知らない内に進んでいた状況を聞いた大輝は驚いていた。
「い、一体いつの間に……」
大輝は装備のことしか考えていなかったが、自由行動の間、他の面々はそれぞれ情報収集などに勤しんでいた。
秋とリズは酒場やギルドに顔を出して周辺地域の最新の情報を。
これは愛想のよいリズと思い切りのいい秋のコンビが冒険者たちの心を掴み、次々と情報をゲットしていた。
彼女たちが現れた日は売り上げが伸びるため、いつ来るかと待ち遠しがられていたようだ。
冬子は街にある本を探し求めてふらふらと。
ドワーフの国の人たちは本に対する熱は低く、冬子は街の片隅に追いやられていた本屋や管理の甘い街の小さな図書館に通い詰めることとなった。本の大切さを語る冬子と意気投合した街の司書が嬉し涙を浮かべていたという。
はるなは美味しい店を探してブラブラと。
日本ではなじみ深い米を見つけてはしゃいだり、他にも寒い土地ならではの保存食や甘いものなどを食べ歩きしていた。
彼女が店先で美味しそうに食べている姿を見た街の人が次々と店に駆け込み、その日は即日完売したといううわさも出た。
こうして女性陣はそれぞれが自由時間に目的をもって行動していた。
「まあ、大輝が装備のことだけ考えてずーっと工房に入り浸っている間、私たちはみんな色々と街をまわっていたの。私とリズと冬子はお城の蔵書なんかも見せてもらっていたのよ?」
大輝を呆れたように見ながらため息をつく秋は、自分がいないと彼は本当にダメだと改めてしっかりしなければと思い直していた。
実は城の蔵書の中でめぼしいものは、ほとんど蒼太が持っていってしまったことを秋たちは知らない。
「へー、みんなすごいなあ。僕なんてどんな武器がいいか、どんな防具なら戦いやすいか、そんなことしか考えていなかったよ。それこそみんなが出かけているのにも気づかないくらいに……」
ふにゃりと笑いながら、大輝はここ最近の生活を思い出して、そういえばみんなの姿が見当たらなかったなと考えていた。
「ふふっ、いいんだよー? だいくんは戦いに集中してー、それ以外のことはうちらが色々立ち回るから大丈夫!」
ドーナツの話が終わったのか、会話に戻ってきたはるなは、ピースサインを作りながらそう言って胸を張っていた。
「……はるな、いいことを言ってるようだけど、この数日であなたがしたことって美味しい店を探すことだけだからね。あなたのおかげで美味しい店でご飯食べられたけど……そういうのは今の流れで言うことじゃないからね」
ドヤ顔をしていたはるなは、そう言われながら秋にジト目で見られて、すごすごと下がっていった。
「はははっ、やっぱりみんな頼もしいね。うん、僕たちはパーティなんだから僕ができないことをみんながやってくれる。逆に僕がみんなのことを支える時もある――そういうもんだよね」
二人のやりとりに思わず笑ってしまった大輝は、心の重みが軽くなったのを感じていた。
「いい仲間だな。これなら、きっといい冒険ができるだろうさ。がんばれよ!」
「はい!」
明るい表情で顔を上げた大輝はアントガルの言葉に大きな声で返事をする。
女性陣はそんな大輝のことを微笑ましく見守っていた。
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