第三百九十九話
それからの数日は大輝たちはアントガルたちが考えたアイディアとすり合わせて、それぞれの装備に関する希望の聴取が何度となく行われる。
使う素材との相性もあるため、つけて欲しい能力や細かい注文など話し合いは多岐にわたる。
女性陣が一番こだわったのは、やはり見た目だった。
近接戦闘の多い秋などは、とにかく動きやすさ重視。ただ、露出が多すぎるのは避けてほしいとのことだ。
近接も行い、遠距離からの補助も行うはるなは、とにかく可愛い装備というなんとも抽象的なもので、男性のボグディを困らせる。
可愛いというセンスは人それぞれなため、綺麗さよりも難易度が上がるからだ。
きゃっきゃとはしゃぐ女性陣の中で唯一静かな冬子はローブ系を中心に、魔力を高める効果があればいいというシンプルな注文。
普段から着るものに頓着しない彼女らしい選択だった。
最初は遠慮がちだったリズからは、弓矢の攻撃力や命中力があがるものはできるかという相談が持ちかけられる。
自分がようやく大輝たちをはじめとした勇者パーティで見つけた立ち位置である弓術を伸ばしていきたい気持ちが現れた。
なんだかんだとデザインに関しては全員がうるさく、細かい直しなども含めるとかなりのやりとりを行うこととなった。
だが意外にも、武器の面でアントガルを一番困らせたのは大輝だった。
「アントガルさん、僕の国の武器で刀というものがあるんですが作れますか?」
という質問を彼から受けたからだ。アントガルは刀、と聞いた瞬間、思わずぎくりと身体を揺らして、余計なことを言わないように口数が減る。
「あ、あぁ、刀な……まあ、似たようなものを作ったことはあるが……あれはー……すまん、無理だ」
どう答えたものか悩みながら、動揺したアントガルはどうにも歯切れの悪い微妙な返事を返す。
「それは、どうしてですか? 作り方とかの問題ですか?」
作ったことがあるのならば、と食いつく真剣な様子の大輝を見て、どこか似たような表情を前に見たな、と思いつつ、アントガルは改めて思案するが、それでも作れるとは答えられなかった。
「……まず一つ、素材の問題だ。ここにある、いやこの国で手に入る金属を使っても満足いく刀を作るのは難しいだろう。仮にランクの低いものでいいとなった場合でも、作り手の問題がある……刀となれば俺一人で作ることは無理だ。俺と同クラスの鍛冶職人が必要になる」
職人という点ではボグディもアリサも凄腕だったが、こと武器作りとなるとそうもいかなかった。
「素材と職人……いえ、すいませんでした。武器作りに関しては素人なので、一応確認したかっただけです」
さすがにアントガルと同等の鍛冶職人となるとそうそう見つからないと理解した大輝はやや肩を落とした様子で、すごすごと戻っていく。
「――あれは、あいつがいたから作れたものだからな……」
去っていく大輝の背をじっと見つめたアントガルは、蒼太のことを思い出しながらそう呟いていた。
それ以外では大きく滞ることも、大きな問題が発生することもなく、順調に三人の作業は続いた。
普段から注文の多いボクディとアリサは、大輝たちの注文をこなすためにかなり日程を調整してくれていたようで、日を追うごとに疲労が目に見えて出てくるが、それでもいい装備をつくるという職人のプライドが彼らの背を強く押した。
作業を開始してから、一週間ほど経過したところで、いよいよ全員の装備が完成することとなる。
「……疲れた」
「だね……」
「えぇ……」
哀愁漂う三人の表情からは達成感よりも疲労感が色濃く見てとれた。オリジナルの特注品は本来じかんをかけてつくるものであるため、これだけ早く仕上げたことは異例なことである。それだけでも三人がかなり無茶をして製作してくれたのだと分かる。
「お、お疲れ様です」
作業が全て終わったという連絡を受けた五人は慌てて宿を飛び出して、アントガルの工房へとやってきていた。できあがるまでは何もできることがないため、鍛錬をしたり、街を散策したり、思い思いの時間を過ごしていたようだ。
「あぁ、お前たちの装備はそれぞれ名札があるやつだ。ダイキはここで、女性四人は向こうの部屋で着替えてくるといい」
期待に胸を膨らませた五人の前に並んだ大きな箱。それぞれの装備はこの中に入っており、開けるまでは中身が見えないようになっている。
「わあ、楽しみ! みんな早く行こうよ!」
飛び出すように前に出て自分の箱を持ち上げたはるながみんなを急かすと、女性陣が各自の名前の書かれた箱をワクワクした表情で持ち、奥の部屋へと移動していく。
「……私、少し手伝ってくるわ。一応みんな説明書がついてるけど、初めてだと着替えるの大変かもしれないから」
いまだ顔色は良くないが、アリサは持ち前の細かい気配りで、ふらふらと四人のもとへと向かう。
奥の部屋からは最初の採寸時同様、はしゃぐ女性陣の楽しそうな声が聞こえてきた。
それをちらりと横目に見つつ、大輝は一つ残された箱をじっと見ていた。ドワーフ国最高と言われる職人たちが自分たちのために作ってくれた装備とあって、高揚感と緊張感でないまぜになった表情だった。
「ダイキは……まあ、わかるだろ。とりあえず着てみてくれ」
アントガルの投げやりな言葉に頷いた大輝は残った最後の箱を開ける。目に飛び込んで来た新装備にキラキラと目を輝かせてしばらく眺めたのち、ゆっくりと手に取って装備をひとつひとつ丁寧に身につけていく。
大輝の場合、元々フルプレートメイルを装備していたため、形状自体に大きな変化はなく、ひとりでも身につけることができる。
この世界に来たばかりの頃は戸惑うこともあったが、慣れてしまえば剣道の武具を身に着ける時のように自然と手が動くようになった。
アクセサリもネックレスと、ブレスレット、そして指輪が一つと装着方法に悩むものはなく、すぐに全て着用し終える。
アリサによるデザインはシンプルかつかっこいい洗練されており、普段使いでもいいくらいの素晴らしいものだった。
「すごい……軽いです。動きを邪魔しないし、むしろ装備してるほうが身体が軽いくらいだ」
全てを身に着けた大輝は腕や身体を動かし、その感覚を味わっていた。
これまでの装備もそれなりにしっかりしたものを用意してもらっていたが、今装備しているボグディ渾身の防具は大輝のためだけにあつらえた一級の特注品。それまでの装備からは想像できないほど、身に着けていることが気持ちいいと思えた。
魔力との相性の良い竜鉄を使ってはいるが、重くなっては意味がないと考えたボグディは金属を抽出して塊を作る段階で、そこに浮遊石を混ぜ込んでいる。
浮遊石はその名の通り、浮く作用を持つ石であり、混ぜ込むことで金属の重さを軽減させていた。
これは動きやすさを重視した秋の鎧にも仕込んであるギミックだった。
「力が漲るのは……魔力を使っている?」
鎧を身に着けているほうが身体が軽く感じる理由――それを大輝なりに予想する。それはある意味で当たっていた。
「半分正解――というか恐らくダイキさんは自分の魔力を使っていると思ってるよね? でも、正解は……空気中の魔素を取り入れているんだよ」
この世界には空気中に魔素が含まれている。通常は目視で確認することができないほどの少量であるが、それを吸収することで肉体を強化する作用を持たせていた。
「すごい! あの、これって……」
「そうだね、自分で魔力を流し込めば更に肉体強化を行うことができるよ。もちろん上限はあるけど、それでも今までより格段に動きやすくなっていると思う」
感動したように声を上げる大輝の質問を先読みしたボグディが答え、それを聞いた大輝の顔はおもちゃを前にした少年のようにキラキラと輝いていた。
「すっっっっっっっっっっっごいです!」
前のめりにボグディに迫ってぶんぶんと手を取って感動を伝えようとする大輝の口からすっかりボキャブラリは奪われ、単純な一言で鎧のことを称していた。
「ははっ、それだけ喜んでくれると、作ったかいがあるというものだね。説明書があったと思うけど、アリサが作ったアクセサリ系も強化がついたり、特殊な作用があるみたいだから、うまく使いこなせれば強力な武器になるはずだよ?」
ぱっと手を離したかと思うと、今度は説明書に夢中になる大輝の反応を見て、これだけ喜んでくれたならやってよかったと満足したボグディは自然と笑顔になっていた。
「武器と言えば、この……抜いていいですか?」
餌を前におすわりをしている犬のように期待に満ちた表情の大輝の質問に、今度はアントガルが頷いて返した。
ゆっくりと剣を鞘から引き抜いていく大輝をアントガルはどやっとした表情でニヤリと笑う。
「うわあ……」
感動したように声を漏らしてそれだけ呟くと、大輝は目の前に現れた刀身にすっかり魅入られていた。
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「記憶を取り戻したアラフォー賢者は三度目の人生を生きていく」




