第三百九十八話
「じゃあとりあえず、みんなの希望の確認と採寸をしていこう。悪いが女性陣はアリサのほうで頼む。男のダイキはボグディのほうでやってくれ。俺は金属や木材の準備をしてくる」
軽く手を叩いて大輝たちの意識を引き戻したアントガルが中心となって話を進めていく。
蒼太と出会う前の彼であったら、面倒臭い、やりたくないという気持ちが先行しただろう。しかし、自信を取り戻した今の彼は請け負った仕事に対しては真摯な態度で臨んでいる。
「「了解」」
幼馴染の二人はそんな彼の姿を嬉しそうな表情で見て、声を揃えて返事を返し、それぞれの作業にわかれていった。
「それじゃ、女性陣はついてきて。あっちの応接室に行ってるから――覗いたらぶっ殺すわよ」
女性陣を先に歩かせて一番後ろでちらりと振り返ったアリサの表情はにっこりと満面の笑みだったが、最後の言葉には強い力が込められており、大輝とボクディは全身に戦慄が走っていた。
きゃっきゃとはしゃぐ女性陣の声が応接室に消えると室内はしんと静まり返る。
「……えっと、それじゃあダイキ、僕たちはここでサイズを測ろう。その間に君がどんな防具を望んでいるのか聞かせて欲しい」
寸法を測る道具片手にこちらも気を取り直して作業に入っていく。
ボグディは一行の中でも、しっかりとした鎧を身に纏っている大輝のことを一番気にしていた。これ以上の防具を作るとなり、ボクディは気合が入っている。
「そうですね……最前線に立って戦うことが多いので、まずは単純に防御力が高いこと。それから剣をつかっての戦闘スタイルなので、それでいて動きやすさも確保したいです」
ともすれば相反しそうな二つの希望。
あちこちのサイズを測るボクディの動きに素直についていきながら大輝は思いついたことを話していく。せっかく素晴らしい腕の職人に作ってもらうからには一生ものと思えるほどの装備を作り上げたかったからだ。
だが大輝も内心ではだいぶ無茶なことを言っているなあという実感があり、少し申し訳なさそうな表情をしている。
その一方でそんな彼の要望を聞いたボグディはわくわくしているような笑顔になっていた。
「――なるほど、頑丈であり、動きやすくもある、と。他にはこうして欲しいという希望はあるかい?」
その上、ボグディは追加の要望があるかどうか確認してくる。サラサラとメモを取りつつ、次のサイズ計測に移っており、軽い調子で大輝の要望をもっと聞きだそうとしていた。
「えっと、他にも言って大丈夫なんですか……?」
そもそもの要望が無茶であるため、これ以上何かを言って機嫌を悪くされても困るなぁと大輝は内心思っていた。彼の中で職人というのはとても気難しく、一度機嫌を損ねるとなかなか仕事をしない者がいるというイメージがあったため、不安そうにしている。
「もちろんだよ。知っているかもしれないけど、僕とアントガルとアリサ――僕たち三人は千年前の伝説の勇者の子孫なんだ。だから、勇者の君たちが身に着ける装備ってなれば、できる限りの要望には全力で応えたいと思ってる。恐らくはアリサもアントガルも同じだと思うから、これもできますか、くらいの気持ちでめいいっぱいわがままを言うといいと思うよ――さあ、これで全て測り終わった。結構大きいね」
さらりとした口調で要望を聞きだしながら大輝の採寸を終えたボグディは穏やかな笑顔でそれらをメモしていく。
武器やアクセサリでは防具ほど身体の細かい数値は必要ないかもしれないが、その情報を共有できるように二人の分のメモも用意していた。
彼ら三人の気持ちを思わぬところで聞いた大輝は感謝の気持ちを込めつつ、まだ遠慮がちではあったが、更なる自身の希望をボグディに伝えていった。
それを終えた頃にアントガルが持てるだけたくさんの金属を運んで工房へ戻ってきた。
「人数が多いからとりあえず竜鉄はあるだけ持ってきた。その他のレア金属も持ってきたが、さすがに前の時ほどの量や種類はないな……まぁ、なんとかなるか?」
よいしょとそれらをテーブルに並べながら、鎧などで最も多くの金属を使うと考えられるボグディに確認する。
「うちの工房にもあるからそれでなんとかなると思うよ。アリサのほうも……多分大丈夫だと思うけど」
ちらりと視線を応接室のある廊下に送りながら答えるが、そちらからは女子五人がキャッキャッとはしゃぐ声が聞こえてきていた。人数が多いのもあってかまだ採寸等は終わっていないようだ。
「まあ、あっちのことはあいつに任せるとして、武器はどんなものが欲しいか希望はあるのか?」
既に大輝の防具に対する要望を聞きだしているボグディは金属の選別に移っていく。適当に椅子に腰かけたアントガルは武器についての大輝の意見を聴取しはじめた。
「そうですねえ、切れ味は鋭いほうがいいです。ただ、結構固い魔物と戦ったりとかもあるので、強度も十分ほしいです」
さっきボグディに伝えた時のように、切れ味鋭く、かつ強度も上げるという難題をふっかける。具体的な金属については詳しくないため、こうあって欲しいという理想を上げていく。
「なるほどな……魔法も使うんだったら武器に魔力を流しやすいほうがいいな。ってことはミスリルかオリハルコンあたりが……いや、でも在庫があったかどうか」
腕組みをしてぶつぶつ言いながら考え込むアントガルの中では色々と構想が浮かんできていた。
「――あっ、そうだ。武器の種別は片手剣、もしくは両手剣にして下さい」
思い出したように大輝は自分の戦闘スタイルから考えて、使い慣れた武器で戦ったほうがしっくりくると判断してそうつけたす。
「おーけーおーけー。あー……重量は常識的な範囲内だったら大丈夫か? 軽いものにするのも可能だが、それだとどうしても強度の面で問題が出てきてしまうからな」
確認するように問いかけるアントガルに、問題ないと大輝は大きく頷く。
「もちろんです。重さに関しては俺のほうで使い慣れていけばいいし、筋力を強化すればいいわけですからね」
自分に合わせてもらうばかりではなく、武器を使いこなすためにも自分自身を鍛えたいという大輝の気持ちを聞いて、アントガルはにやりと笑う。
「いい根性だ。――ボグディ、防具の方も手伝うから俺の武器のほうも手伝ってくれ」
以前は蒼太という強力な相方がいたが、今回はそれがおらず、自分と同等に作業をできる職人の心当たりがボグディしかいなかったため、誘いをかける。
「僕のほうは雇ってる職人がいるけど……まあ仕方ない、アントガルが手伝ってくれたほうがクオリティも上がりそうだしね」
「おう、頼んだぞ!」
なんだかんだ受け入れるボクディと二カッとわらうアントガル。互いの利害は一致して、二人は力強い握手を交わしていた。
「あらなーに? 二人で握手なんてしちゃって。こっちは採寸終わったわよ。一応データは渡すけど……あ、ダイキは見ちゃダメよ? 女の秘密を覗いたら酷いことになるんだから。ねー」
うふふと笑いながら応接室を出てきたアリサは既に女性陣と意気投合しているようだった。和気あいあいと採寸や打ち合わせを楽しんだようで、後から出てきたメンバーもみんな笑顔だ。
「それじゃあ、ダイキのデータもアリサに一応渡しておくよ。金属はアントガルがこれだけ色々持ってきてくれてるけど、どうする? 僕は自分の工房からも材料を出すつもりではいるけど……」
「そうねえ、自分で加工したもののほうが使いやすいから私もそうするわ。一応もらっていくけどね」
慣れた様子でアリサは金属の山のもとへと向かった物色していく。こうして互いのやりやすいように、それぞれ気を遣わずにやるのがこの三人のスタイルだった。
「……あ、あの、聞きづらかったのでなかなか言い出せなかったんですけど……その、お金のほうはおいくらほどで……?」
素人ながら並べられたすごそうな素材たちを見た大輝が恐る恐る質問すると、振り返ったアントガルが答えと同時に指で丸を作っていた。
「タダで構わない」
「……はっ?」
さすがにタダと言われて驚いた大輝は間抜けな表情になってしまう。後ろにいた女性陣も信じられないといった表情だ。
「魔王をちゃんと倒してほしいから金は要らない。俺たちはある程度、懐は潤っているからな。そのかわりしっかり倒してこいよ?」
この辺りは先に工房に呼びつけた時点で、三人の間で話をつけていたのだ。だからこそアントガルは胸を張ってそう言い切った。他の二人も同意するように頷いている。
「――あ、ありがとうございますっ!」
感激したように顔を輝かせた大輝は大きな声で礼を言い、深々と頭を下げる。慌てたように他の四人もそれにならう。
しかし、職人三人の表情は微妙なものだった。
(((すでにソータからもらっているとは言えないよなあ……)))
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「記憶を取り戻したアラフォー賢者は三度目の人生を生きていく」




