第三百五十一話
「だいくん!」
「大輝!」
「ダイキ様!」
はるな、秋、リズが焦ったように声を荒らげ、大輝に向かって声をかける。いち早く駆けつけたいという気持ちと共に三人の胸中には動揺が広がっていたが、そんな中でも冬子は一人冷静に状況を見ていた。
「“サンダーアロー”!」
そして狙いすましたように鋭く雷の矢を放ち、黒オークに命中させる。そのダメージもすぐに回復するが、それでも一瞬の隙を作ることに成功する。
「“フレアアロー”! “アイスアロー”!」
そして、回復する間も与えないと言わんばかりに立て続けに初期魔法を連発していく。初期魔法と言えども勇者である冬子にかかれば威力は倍増し、黒オークは襲いかかる魔法を受け止めることしかできずにいた。
それは大輝が逃げる時間を作った。
「ぐっ……はあはあ……くそっ!」
黒オークの横を息を切らしながら大輝は走り抜け、なんとか仲間のもとへと戻ってくる。するとすぐにはるなが障壁を張っていく。
「ダイキ様、傷を見せて下さい!」
障壁の内側ではリズはすぐさま大輝の治療にとりかかる。幸いにも傷は浅く、彼女の魔法に寄って怪我もすぐに治っていく。
「冬子、ありがとう。あなたが冷静で助かったわ」
「ん、気にしない。持ちつ持たれつ」
焦っていた自分に気付いた秋は冬子に感謝の言葉をかける。だがそれになんでもないと返す冬子。このあたりは、長年の付き合いであるがゆえのやりとりだった。
「おい、一時的にしのいだがピンチは変わっていないことを忘れるなよ」
ガルギスは黒オークの動きに注視していた。冬子による魔法の猛攻撃が落ち着いたことで黒オークも態勢を整えつつあった。
「あぁ、もちろんだ……みんな構えるぞ!」
リーダーである大輝が復活したことで、仲間の士気がもとに戻る。
「でも、どうしたらいいのかしら。みた感じ、剣による攻撃も魔法も効果がないみたいだけど……」
前衛で秋は武器を構えつつ、先ほどの大輝や冬子の攻撃によるダメージが全くないのを見て考え込むように呟いた。
「その問いに対する回答その一、ひたすら攻撃を続けてみるってな!!」
何を馬鹿なことを、そう秋が言おうとした時には弾丸のようにガルギスは走り出していた。
「喰らえ!」
一人、敵目前へと飛び出していったガルギスは黒オークに向かって無数の拳を繰り出していく。その間に黒オークも大剣で攻撃を繰り出すが、ガルギスは攻撃位置を次々に変えて攻撃をしているため、黒オークはそれに対応ができていなかった。
「こいつはやばいな!」
だが連続攻撃しているガルギスの額には次第に汗が浮かんできていた。攻撃による疲労ではなく、これだけの数の攻撃を繰り出し、その全てが直撃しているというのに全くといっていいほど手ごたえがなかった。
ガルギスの素早い動きに翻弄はされているが、黒オークには全く効いていなかったのだ。
「秋、行くぞ! 冬子、はるなは援護を、リズは弓で追加攻撃をよろしく!」
いよいよガルギスに任せるだけでなく、大輝たち勇者パーティも動き始める。
大輝と秋はガルギスの邪魔にならないように合間を縫って黒オークへと攻撃をしていく。
後衛に構えている冬子は魔法による攻撃を、はるなは黒オークの邪魔をするように援護魔法を使う。リズの矢も次々に命中していく。連携のとれた動きは黒オークに反撃の隙を与えることはない。
「はぁ、はぁ……これはキリがないな」
彼らも加わって攻撃を続けるが、未だ黒オークはダメージをくらっている様子がなかった。一方の大輝たちは徐々に疲弊してきている。
「おい、デカイ一撃を撃つから一旦引け!」
何かを変えなければならないと考えたガルギスが大輝たちに叫ぶように指示を出した。
「わかった!」
「了解!」
ガルギスの実力を信じている大輝と秋は、後方に跳躍して黒オークから距離をとる。
「てやああああああ!」
その場で構えたガルギスの拳に魔力が集まっていくのを大輝たちは見ていた。そして黒オークに向けてその魔力のこもった強力な拳が勢いよく撃ち込まれた。
だがこれもまた手ごたえを感じなかったため、眉をひそめたガルギスもすぐさま黒オークから距離をとった。
「ガアアアア!」
攻撃を受けた黒オークが一度雄たけびをあげたため、効果があったかとも思われたがそこにいたのは今まで蓄積された攻撃も含めてどんどんと傷が塞がっていく黒オークの姿だった。もう少しすれば完全に回復して元の状態に戻って行くだろうことは誰もが予想できた。
「あれでもダメなのか……どうする?」
このまま戦ってもじり貧になるだけだと考えたガルギスが大輝に確認する。
戦い続けるか、引いて逃げるか、何か新しい手があるか。その選択をパーティリーダーである大輝に尋ねた。
「冬子、何かわかったことはある?」
そこですぐに大輝が冬子に尋ねたのには理由があった。先ほど、魔法が効かないとわかった冬子はあえて魔法を使わずに、黒オークの特徴について調べていた。
「……いくつかある。私の魔法もみんなの攻撃も効かない。あれは闇の力をうけたオークが別のものへと変異している。恐らくだけど、光魔法であったとしても強力な魔剣であったとしても効果がないことは変わらないと思う」
淡々と告げられたそれは絶望的な情報だけだった。皆の顔が一気に悔しげに歪む。
「何かいい手はないのか!」
苛立ち交じりにガルギスは声をあげる。それはダメージが回復したらすぐに黒オークがこちらへ向かってくると予想がついていたためだった。その時に打つ手がないなど信じたくなかったのだ。
「手、というか。可能性がある作戦は一つ思いついた」
冬子はぴんと指を一本立てている。その言葉に全員が聞き漏らさないように耳に神経をとがらせる。
「どうすればいい?」
冬子が思いついたのであれば、きっと現状を打破できるものであるだろうと思い、大輝が質問した。
「あのオーク、攻撃を受けてもすぐに回復するのは実体がないようなものだからだと思う。だからこの先もオークに攻撃するのは無駄。でもあの剣は違うと思う。つまり、あの武器を攻撃するのがいい」
一気に全員の視線が黒オークが持つ大剣に集まる。そうすると大剣から放たれる嫌な気配がより強まったように感じた。
「わかった!」
大輝はそれだけ返すと剣を握り、黒オークへ向かって走り出す。もちろん狙いはあの大剣だった。
「いくわよ!」
それは秋も同様であり、息の合った攻撃で二人はオークに迫っていく。
「せやあああ!」
大輝は動きに隙を作らせるために、足へと攻撃を加える。すぐに回復する程度の傷だったが、足を一瞬とはいえ失わせることでバランスを崩させることに成功する。
「いくわよ!」
秋はぐらりとゆらいだ黒オークの大剣を持っている腕を斬りはらう。身体と腕が黒いモヤのようなものでかろうじてつながっている様子だが、回復するまでは武器は持てない。
大きな金属音を立てて大剣が地面に落ちる。
「“ライトニングランス”!」
後方から冬子が雷の中位魔法を大剣に向かって放った。
「グギャアアアア!」
正に今ここに雷が落ちたように魔法が命中すると、剣にバチバチと大きな雷を流す。それは効果があったようで、大剣が苦しそうに叫び声をあげていた。
「あれが本体か!」
その声を確認したガルギスはハッとしたように大剣にかけより、魔力を込めて拳による一撃を振り下ろした。
「ガアアアアアア!」
強い一撃を受けた大剣は更に苦しそうな声をあげる。
確実にダメージが入っていると全員の気持ちが一致した瞬間だった。
「止めだ!」
恐らくは普通の大剣ではなく、魔物であるこの魔剣。そこに大輝はユニークスキル『魔を断つ剣』を使いながら攻撃する。光を纏ったその攻撃が決まると、大剣からは声が聞こえなくなった。大剣が纏っていた嫌な気配も消え去り、そこに残ったのはただの壊れた大剣だった。
「今度こそ、やったのかな……」
大剣が壊された瞬間、黒オークの姿がかき消えたのを確認して、乱れた呼吸を整えながら大輝が呟いた。
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