第三百五十話
大輝たち勇者パーティが魔物たちが最も多い場所へと突っ込んでいき、敵を食い止めているおかげで最初は動揺していた他の冒険者たちもなんとか立て直すことができていた。
「てやあああああああ!」
戦っていく内に大輝の気迫はどんどん高まりを見せ、鋭くなる剣技で魔物を次々に倒していく。
それは他のメンバーも同じであり、秋もはるなも冬子も、さらにはリズもが自分の持つ力以上の力を発揮していた。
魔素が濃いことが原因で魔物が強化されていたり、凶暴化されている。それが勇者パーティにも近いことが起きているようだった。いつもより動きが良くなっていくのを彼らもうっすらと感じ取っていた。
「降りそそげ、“アイスレイン”!」
大輝たちが前衛組が魔物から距離をとった一瞬を狙って冬子が範囲魔法を放つ。氷の矢が雨となって魔物たちへと突き刺さっていく。
矢が命中した魔物は足を止めていく。そこを狙って大輝と秋がひるんだ魔物目がけ斬りつけていく。
それで倒しきれなかった魔物に向かってはるながメイスで、リズが矢で攻撃をする。
再び距離をとったところで、冬子が範囲魔法を放つ。
この繰り返しによって、徐々に魔物の数を減らしていく最前線は安定した戦いを見せる。更にその安定度を増すために、ガルギスもいつの間にか最前線に加わっていた。
「あんたらやっぱり強いな。まだまだ成長しそうだし、これから先が楽しみだ!」
目の前にいた魔物を勢いよく吹き飛ばしたガルギスは大きな声で五人に話しかけながら、更に魔物を倒していく。彼が現れてからの敵の減少率はすさまじいものだった。
「す、すごい」
圧倒されるように大輝はガルギスの戦い方を見て驚いていた。向かい来る魔物の攻撃を最小限の動きで避けて、がら空きの場所へ素早く攻撃を繰り出していく。
最小で最大の戦果をあげる戦い方は思わず大輝が見惚れてしまうほどだった。
「大輝! まだ戦いの最中よ!」
そこに秋から檄が飛ぶ。彼女もまたガルギスの戦いに見惚れそうになった一人だった。だが状況が状況なだけに耐えていただけなのだ。
「わ、わかってるよ!」
ハッと我に返った大輝は慌てて返事をすると、魔物へ視線を戻して戦いに集中していく。
前線は大輝たちの活躍によってようやく終わりを見せる。そして側方はカルロスたち赤い一撃のメンバーが担当して安定した戦いぶりを見せていた。
後方はその彼らが撃ち漏らした敵が来る程度で、落ち着きを取り戻した残りの冒険者たちでも戦うことができる程度のものだった。回復魔法が使えるものは各場所に散らばり、援護をしていく。
「これなら……」
「大輝、それ以上は危険!」
これならいけそうだ。そう口にしようとした大輝のことをぴしゃりと冬子が注意する。
しかし、この注意は遅かったようだった。
魔物と闘いながらも徐々に前進していた。それがゆえに視線の先に広がる異様な光景を目にする。
「……あれは?」
訝しげな表情を浮かべて疑問を口にしたのはリズ。
彼女は魔素を見る力が他の者に比べて若干優れていた。その彼女が目にしたのは、魔素だまりともいえるようなねっとりと絡みつくような重たさを感じさせるほどの濃い魔素だった。
「まずい、みんな下がれ!」
それはガルギスの言葉だった。これまでの経験が彼に警鐘を鳴らしていた。
キングクラスの魔物がいたことでこの森の危険性は十分にわかっていたが、その警鐘が告げるのはこのままではそれ以上の脅威と戦うことになってしまうというものだった。
「おいおい、ガルギスさん。いい感じなんだから奥に向かおうぜ?」
弱腰になったガルギスの肩を呆れたように押しのけた赤い一撃のメンバーの一人が先に進もうとする。慌てて止めようとするももう遅かった。
十歩ほど先行しただろうか。そこで彼は突然崩れ落ちた。
彼は肩口から斜めに切られ、どさりと胴体が落ちていく。血が噴き出す間もなかった。
警戒するように気を張っていた大輝たちはそれを見て、ごくりと唾を飲む。
正確にはそれを行ったものを見てだった。
「……あれは、なんだ?」
信じられないものを見るような眼差しを向け、大輝はそう口にした。だがそれに答えられう物がここにはいなかった。
何故ならばそこにいたのはこれまでに見たことのない魔物だったからだ。
「形はオーク、みたいですね」
これまでに大輝たちが何度か戦ったオーク。しかし、そのどれとも様相が異なっている。目の前にいるそれは全てが真っ黒で、目や口があるのかどうかもわからないほどだった。
目を離せなくなるほどの異形の存在にリズの弓を握る手が強くなる。
そして、オークの武器といえば槍が主だったが、黒オークが持っているのは大きな剣だった。
「こいつは、亜種なのか?」
それはガルギスの言葉だった。通常ではありえないような別系統の進化を遂げた魔物のことを亜種ということがある。自分が今まで見たことのない存在に呆然と言葉が漏れた。
「違うと思う」
はっきりと断言するような発言はこの中で最も多くの本を読んでいる冬子だった。
「どういうこと?」
「亜種というのは、本来の進化とは別の形の進化を遂げた個体のことをいう。でも、あれは形だけでいえばジェネラルオークとの差異はない。あれは種として異なるというより、元々ジェネラルオークだったものが何かしらの影響を受けたのだと思う」
目の前の黒オークを見て冬子は冷静に分析する。彼女の知識はそれこそ図書館レベルで蓄積されており、それこそ彼女の発言に信憑性を持たせ、大輝たちは冬子の分析力を強く信じていた。
「なるほどな。嬢ちゃん、よく見てるな」
考えるよりも行動派のガルギスは高い分析力を持つ冬子のことを褒めるが、それでも視線は黒オークからそらすことなく、いつでも戦えるように構えている。
「そうなると怪しいのはあの手にしている大剣だね」
よく見てみれば大剣から、より嫌な気配がするのを大輝は感じ取った。人からすると大剣のサイズだったが、黒オークのサイズからすると片手剣といったほうがしっくりくるようなものだった。
「まずは僕が!」
ここでじっとしていても事態は動かないと判断した大輝が剣を構え、飛び出すように黒オークへと走っていく。
「まて!」
「大輝っ!!」
見た目からして普通ではない相手に飛び込むのは危険だと焦ったようにガルギスと秋が止めるが、その声が大輝の耳に届くころには既に互いの攻撃の間合いに入り込んでいた。
ぼおっと立っていた黒オークが目の前に飛びこんできた大輝に向けて大剣を振り下ろす。その速度はオーク種のそれをはるかに超越しており、すさまじい速さと威力で大輝に迫っていく。あまりの速さに避けきれないと目を見開いた大輝。
しかし、それは寸前で何かに弾かれることとなる。
「だいくん! 無茶しないで!」
それははるなが張った光の障壁だった。大輝を守るように張られた障壁は見事に剣を防いでみせたのだ。間一髪で守られた大輝は仲間がいる心強さを感じ取った。
「ありがとう! ……せいっ!」
剣が弾かれたことで隙ができた黒オーク。このチャンスを逃すまいと大輝はその胴体を横なぎに真っ二つにする。
「……やったか?」
すっぱりと胴体が真っ二つにされた黒オークを見てぐっと眉を寄せながらガルギスが呟いた。
「グオオオオ!」
だが大輝に斬られた部分はすぐに修復されて何事もなかったかのように再び大輝へと襲いかかる。
「くそっ!」
先ほど攻撃してからすぐに黒オークが復活してしまったせいで、体勢が崩れている大輝はなんとか身体をひねって攻撃を避けようとする。
しかし、攻撃を避けきれずに黒オークの大剣が右の足をかすめてしまう。当たりどころが悪かったのか、傷口から鮮血が噴き出した。
「ぐうっ!」
「大輝!!!」
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