第二百九十七話
前回のあらすじを三行で
エドの戦闘風景
アトラの戦闘風景
ダグラスとブルグも参戦
「くっ! な、なんなんだその爪は! 一応私の剣はそれなりの名剣なんだよ?」
アトラの攻撃を防いだダグラスの剣はそれだけでヒビが入っていた。彼の剣は代々彼の家に伝わってきたものであり、当時の鍛冶師の技術をかき集めて作られた名剣としてその時代の当主たちからずっと受け継がれていた。
『ふむ、こちらの武器はそれなり……ではなく最高の作り手によるものだからな。その程度の剣で耐えられるはずがなかろう』
「それなら仕方ないね……名剣とはいっても結構強い程度のものだったからねえ」
作り手の腕に何の疑問も抱いていないアトラの返答にダグラスは納得していた。
『さて、一発しか攻撃していないが武器がなくなったのでは終了かな?』
アトラの言葉に持っていたひびの入った剣を興味を無くしたように捨てたダグラスは笑顔を見せた。
「終了? 降参なんてしないよ? 私にはまだ武器があるからね!」
次の瞬間、ダグラスの手には炎の剣が握られていた。
『魔法剣!?』
目を見開いたアトラのその反応に彼は満足していた。
「そうだよ、これなら折られることもないからね。本来の戦闘スタイルもこれさ!」
勢いを取り戻すように炎の剣をアトラに向かってふるっていく。
『むう』
攻撃自体は爪で受け止めるが、その剣が纏う炎の余波はアトラまで届いてきた。
「結構熱いだろ? 使い手の僕は熱くないんだよ!」
アトラにダメージが届いていると判断したダグラスは連続で剣撃を放っていく。
その全てを受けきるとアトラは一度大きく後方に飛んで距離をとる。
「あれ? どうしたんだい? もう引き下がるのかい……なんか拍子抜けだよ。残念だな」
ダグラスはもっと楽しめるかと思ったのにと肩を落としていた。
『そうか、それならば楽しめるようにしようじゃないか。アーマーパージ!』
その言葉と共にアトラの身を守っていた白銀の鎧の一部が外れていく。
『これは、防具職人殿がソータ殿に言われて思いついた機能でな……私にも魔力を使った戦い方ができる方法だ!』
防具の剥がれ落ちた部分からふわりと風の翼が現れる。
「翼!? まさか飛べるのか!」
ダグラスはその変化に驚いていたが、それでもまだ自分の優位は変わらないと信じていた。事実、アトラの行動範囲や行動速度は上がったが、それで炎の剣を防げるわけでも、アトラの攻撃方法が増えたわけでもない。
『あぁ、それだけじゃないがな』
左右の爪から一本ずつ引き抜きそれを歯に装着して牙装備に変えていく。これが本来の双牙の使い方だった。
「おぉ、なんか色々できるんだね。だけど爪が牙になったからといって余計この剣を受け止めにくくなっただけじゃないか」
もちろん何の意味もなく蒼太とアントガルがこのような機能をつけるわけがないが、作り手のことを知らないため、つまらないとダグラスは肩をすくめていた。爪の方が相手との距離をとれるため、そのほうが炎の余波を軽減できていたのではないかと彼は考えていたからだ。
しかし、大きな牙を威嚇するように見せたアトラからはなんの返答もなかった。
『ぐるるるるる』
聞こえたのは鳴き声だけだった。
そして次の瞬間、アトラの目は赤に染まり、牙も同様に赤く光っていた。
「な、なんだっていうんだい。そんな目をしても僕は怖くないよ?」
その赤い色が放つ雰囲気に飲まれたダグラスはなんとか強がりを口にするが、アトラの変貌ぶりにどもってしまう。
『ぐるああああああ!!』
アトラは先ほどまでの速度を更に上回る速さでダグラスへと向かってくる。
「ちょ、ちょっと、ちょっと待ってよ!」
あまりの動きの速さにダグラスが慌てた声を出すが、迫りくるアトラの動きは止まらない。そして炎を、更には剣を避けてダグラスの肩をその大きな牙で噛み砕く。
『ぺっ!』
そのままアトラは肩を噛みちぎって口の中に入った血と肉を近くに吐き捨てた。
「うがあ、痛い、ぐうう! なんだよ、なんなんだよ!」
風の翼や大きな牙を装備したアトラの身体能力は最初の時点より爆発的に上昇しており、既にダグラスの手におえるものではなくなっていた。
そして痛みにダグラスがひるんだところを次々と追い打ちをかけるようにアトラが攻撃していく。
「やめ、やめ、もうやめてくれ! 助けて!!」
鋭い牙や爪の連撃にダグラスの身体は既にボロボロになっており、泣き叫んで助けを乞おうとしていた。
『負けを認めるということで良いか?』
「へっ? あ、はい! 助けて下さい!」
殺されると怯えきった彼はもう無我夢中で叫んでいたため、返事が返ってくるとは思っておらず、ダグラスは間抜けな声をあげてしまった。
『ならばこれを首につけろ』
アトラはどこからか謎の首輪を取り出してダグラスへと渡す。
「ひっ、これをつければ見逃してくれますか?」
その問いに無言で頷いたアトラの牙と目の色は相変わらず赤のままだった。
血に染まった口元と相まった雰囲気に畏怖しきったダグラスは言われるがままにそれを装着していく。
『これで相手はひとまず抵抗はできなくなると言っていたな。ソータ殿は極力人を死にはさせないようにと言っていたから約束は守れたな……あちらはどうなっているかな?』
すっかりおとなしくなったダグラスを視認して一息ついたアトラの戦闘はここでひと段落ついた。そして彼は周囲の魔物とギガントサイクロプスを相手に戦っているはずのエドへと視線を向ける。
視線がそれたことを認識したダグラスはそっと首輪を触りながらアトラの隙をついて逃げ出そうと腰を上げた。
『一つ、言っておこう』
その瞬間、背を向けたままのアトラから自身に向かって声をかけられ、ダグラスはびくっと身体が震えた。
『逃げても構わんが、その首輪は決められた方法以外で外そうとすると爆発するらしいぞ。そして外す方法を知っているのは、ソータ殿だけだ』
実際には爆発はせず魔力の使用に反応してその力を抑えるものであり、外す方法も蒼太以外にディーナも職人たちも知っている。しかし、アトラは全ての真実を教えるつもりはなかった。
「うぅ、やはりそんなことがあるのか……ただで見逃してもらえるほど甘くはないよな……」
その言葉を信じたダグラスはがっくりと肩を落としていた。
一方でその頃、エドは周囲の魔物を攻撃しながらギガントサイクロプスとの戦いの最中だった。
当初相手にしていた大勢の魔物たちはかなり数を減らしていた。それは迫ってくるギガントサイクロプスは足元にいる小さな魔物たちに意識を払うことなく蹴散らしているためだった。周囲を見ずにただ一心に目標のエドを追いかけているため、ギガントサイクロプスの足下にいた魔物たちはそのほとんどが一撃で命を失っていた。
「ぶるるる」
その動きを確認しながら駆け出すエド。実は彼は自分でも魔物を倒しつつ、ギガントサイクロプスの動きを上手く誘導して魔物たちを倒させていた。
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