第二百九十六話
前回のあらすじを三行で
本郷との再会
ダークエルフ
魔族の女
蒼太たちが最上階につく、しばし前。
『ふむ、エド殿の戦闘能力はやはり高いな』
アトラは目の前にいる魔物を爪で一掃しながらエドの戦い振りを確認していた。
「ヒヒーン!」
彼の動きはただの馬のそれではなく、一人の戦士のものだった。蹄による攻撃は一撃で魔物を葬り去っていく。そして、すぐに距離をとり別の魔物に対峙する。
その戦い振りはまるで戦い慣れしているかのようであった。実際はそんなことはなかったが、蒼太たちの戦いを見る機会があった彼は自分なりに戦いを研究しており、自分であればどう動くか、どう動けばいいのかとシミュレーションを重ねていた。それだけの賢さがエドにはあった。
更に付け加えるなら、エドのために蒼太たちが用意した装備が強力なものであった。
まずは蹄鉄。彼の蹄に装着されたそれは蒼太たちの武器と同様の素材で作られている。彼の脚力による威力を更に高め、魔物を一撃で倒せるほどの威力を生み出している。
また、胴に装着されているアーマーは彼の身を更に黒く染めたような漆黒色で装着者の傷の自動回復機能がついており、動きに制限を付けないように重さを感じさせない作りになっている。
耳輪がアクセサリとして装着されているが、これには風の魔力が込められており、走る際に風を自動的に生み出して走る速度をあげていた。
『危ない!』
アトラが叫んだ理由は魔法を使う魔物が生み出した火の矢がエド目がけて放たれたためだった。
「ぶるるる」
しかし、それはエドに届く前にかき消されていた。彼の防具類は魔力をこめることで魔法の障壁を作る機能を持っていた。この機能は蒼太が必ずつけるようにと口を酸っぱくして職人に依頼していた。
元々エドが内包している魔力はかなり高く、蒼太はそれに気づいていたため、旅の途中魔力を使い切るようエドに教え込み、その上限をさらに引き上げていた。
『さすが』
アトラは自然な動きで慌てずに対処したエド、そしてこの芸当ができると見抜いていた蒼太の二人に賞賛の言葉を口にした。
一方で同じく戦闘中のアトラも襲い来る魔物に適切な対処をみせている。防御力の低い魔物が密集していると判断した場合には、突進による攻撃で一気に迎撃し、個で強力な魔物は蒼太たちに作ってもらった『双牙』という名の爪装備で切り裂いていく。
『これらを作ってもらったことに感謝せねばならないな』
本来の自分の力を何倍にも高めてくれる装備にアトラは感謝していた。
彼が装備している白銀の鎧の効果はエドと同様傷の自動回復能力が付与されており、アクセサリである足輪には彼の走力を生かすために素早さをあげる力が付与されていた。
「くっそ、あいつらなんなんだよ! 動物のくせしやがって!!」
フードの男ことブルグはその様子を見て苛立っていた。
「そうですねえ、さすが我らが主に認められた者の仲間といったところでしょうか」
ダグラスは一体は魔物ですよという言葉を飲み込んで、別の言葉をブルグに返した。
「くそっ! それが生意気だっていうんだよ! 認められてる? ふざけるな! エルダード様のことを一番わかってるのは僕たちだけだ!!」
気をつかったダグラスの言葉はブルグの怒りを高める結果となってしまった。
「やれやれ、仕方ないですね。私たちもでましょう……それと、戦力の出し惜しみはしないで下さいね」
「ぐっ、お前分かってたのか。よーし出そうじゃないか。ひ、ヒヒヒッ、あいつを使えばあの動物たちも一巻の終わりだ」
比較的冷静なダグラスは剣を抜きアトラへと向かい、その場に残ったブルグはとっておきの魔物を呼び出していた。
蒼太たちに敗れたサイクロプス、それを更に強化したギガントサイクロプスが彼のとっておきの切り札だった。召喚されたギガントサイクロプスが大きな体躯で一歩踏み出すたびに砂埃と軽い地震のような振動が辺りに起こる。
「いけ、そしてあいつらを蹂躙するんだ!」
びしっと指をさしたブルグの言うあいつらには、エドとアトラを倒せずにいる魔物たちも含まれていた。
「やれやれ私まで巻き込むつもりですかね?」
走り出したダグラスは目的のために敵味方見境なく突っ込ませようとしているブルグにあきれている様子だった。
「そんなだから、側近として近くに呼んでもらえないんですよ!」
ダグラスは彼への不満を口にしながらアトラに斬りかかっていく。その剣をアトラはなんなく爪で受け止めていた。
『貴様が私の相手か』
「そういうことになりますね、満足してもらえるようがんばりますよ。とりあえず」
ダグラスは、防がれた剣をさらに押し込みエドたちから距離を取るように誘導していく。
「あれに巻き込まれると面倒です、ここから離れましょう!」
ギガントサイクロプスはその名の通りサイクロプスよりも遥かに巨大であり、戦っている最中に巻き込まれかねないため、ダグラスは戦いの余波がとどかない場所まで移動した。
「抵抗しないのですね? てっきり馬君を一人にさせまいとすると思っていましたよ」
『その言葉には疑問を持たざるをえないな、なぜ私がエド殿を心配する必要がある?』
対峙するダグラスを真っすぐ見ているアトラは純粋に疑問を持ったため、彼にそう問いかけた。
「えっ、いや、だって……あなたは上位の魔物でしょう? ならば一人でも我々と渡り合えると思います、しかし馬君……エド君でしたか。彼は魔物でもなんでもない普通の馬ですよね? というか、そもそも馬に自由に戦わせるという発想が思い浮かびませんよ」
予想外の反応に一瞬狼狽えたダグラスは彼自身、アトラの言葉には疑問しか持てなかった。
『ふむ、見解の相違というやつだな。はっきり言っておくが、エド殿はただの馬ではないぞ? 彼は私より強い。だから、私ごときがエド殿の心配をするのは失礼にあたってしまう』
それこそ過大評価なのでは? そう思ったダグラスだったが、アトラの表情が真剣なものであったためもしかしたら、と考えを変えていく。
「では、本当に?」
その質問に答えるほどアトラは心を許してはおらず、代わりに飛びかかりながらの爪による一撃をダグラスへと放った。
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