第二百九十八話
前回のあらすじを三行で
ダグラスの炎の剣
狂化したアトラ
ギガントサイクロプスと戦うエド
ギガントサイクロプスは依然としてエドを追いかけていた。
自分で出した魔物を含めて自身がどんどん追い詰められている状況に、フードの男ブルグはそれを見てイライラしていた。
「そんな馬なんか、早くぶっ潰せよ!!」
その声はギガントサイクロプスの耳に届いていたが、彼もいつまでたってもエドを捕まえられないことに焦りを見せている。
「グルアアアア!!」
そして、走る速度をあげてエドへと追いすがろうとした。
「ヒヒーン!」
しかし鍛えられた脚力を持つエドに走ることでかなうはずもなく、その距離は徐々に離されていく。
「くそ! くそ! くそ!!」
ブルグは自分の思うようにうまくいかないと更に苛立ちを募らせていた。
「ぶるるる」
しかし、そこでエドが足を止めてギガントサイクロプスに向かい合う形になる。ブルグは訝しげな表情でそれを見た。
「なんだ? あいつに勝てるとでも思っているのか? 生意気なんだよおおおおお! チャンスだ! 行っけー、サイクロプス!!」
「グオオオオオ!!」
その言葉にギガントサイクロプスは雄たけびをあげて、エドへと大きな拳を振り下ろした。
エドはそれをひらりと避けるとその巨大な腕を駆け上がっていく。それに気づいたギガントサイクロプスは慌てて腕を引こうとするが、腕が動いた瞬間、動くなと言わんばかりにエドは強く腕を踏みつける。
「ガアアア!?」
その一撃は重く、腕に蹄鉄のあとを残してそのまま腕を蹴り飛ばした。エドは蹴り飛ばした勢いそのままに少し離れた地面へと華麗に着地する。
ギガントサイクロプスは予想外の蹴りの強さに思わずその場でたたらを踏む。
「なんなんだ、あの馬は!?」
ブルグもその様子を見て驚いていた。
「グ、グルア?」
ギガントサイクロプスもエドのあまりの強さに驚きを隠せないでいた。
「ヒヒーン!」
蹴り飛ばして距離が離れていたエドだったが、行くぞ! といった表情でいななくと再び強く地面を蹴りギガントサイクロプスへと向かっていく。
「グ、グオオオ!」
「おい! さっさと倒せよ!」
一瞬その勢いにひるみそうになるが、ブルグの檄を受けたギガントサイクロプスは一歩踏み出して先ほどよりも速い一撃を繰り出した。ところがそれもエドにはかすりもしない。
「グオオオ!」
しかし、ギガントサイクロプスはそうくることを想定しており、避けた方向を腕で薙ぎ払った。腕の勢いで土煙が上がり、一瞬エドの周囲が見えなくなる。
土煙の中、エドは避けきれずにその腕が彼に衝突する。
「グ、グア?」
ようやく攻撃が当たったと感じたギガントサイクロプスはそこで何かがおかしいことに気付いた。
自分の腕が何かに、いやエドに衝突したのは理解している。しかし、その腕がそれにぶつかった瞬間に動きを止められていた。
「ぶるるる」
その時、ぶわりと風が吹いて土煙が晴れた。そこにはエドは涼しい顔のまま鎧でその腕を止めているのが見えた。
彼の鎧には魔力の障壁を作るほかにももう一つの機能がついていた。その鎧は受けた衝撃を吸収することができる。全ての攻撃とまではいかないが、今回のような物理的な力による攻撃には特に強い耐性を持っている。
「ヒヒーン!!」
そして、魔力を流すことでその衝撃を相手にはじき返すことができたのだ。
「グアアアアア!」
エドのいななきと共にその機能が発動され、ギガントサイクロプスは自分で放った一撃で反対に吹き飛ばされることとなった。
「あ、あの馬なんなんだよ……」
ブルグはふがいない自分の部下である魔物に対する怒りよりも、エドに対する驚きが勝っていた。
何とか起き上がるギガントサイクロプスだったが、エドの圧倒的なまでの強さを前に既に戦意を喪失しかけていた。それでもなんとか命令を遂行しなければと彼が繰り出した攻撃をひらりと避けながら、エドは相手の腕へと攻撃を繰り出している。そして時にはギガントサイクロプスの攻撃を鎧で受け止めたかと思えば、それをそのまま相手に撃ち返していた。
攻撃が当たらない、当たっても受け止められる。そして、相手の攻撃力は巨体である自分に対しても効果的であり、実際に今現在ダメージを負ってしまっている。
通常の魔物でも本能的に自分が劣勢であることを悟るだろう。だがギガントサイクロプスは進化した魔物であり、知能もサイクロプス種としては高いほうであるため、厳しい現状を把握したうえで自分の立場を理解していた。
「おい、びびってるんじゃないだろうな!」
ブルグは戦意を喪失しかけているギガントサイクロプスの様子に気付いて怒りの声をぶつける。
「グルルゥ」
そして自分には無理だと情けない声をブルグへと返した。これが彼の逆鱗に触れたようだった。
「このっ! やってやる、そんな情けない気持ち吹き飛ばしてやるよ!」
そう宣言するとギガントサイクロプスへと駆け寄り、右手をあてて何かを唱えた。
すると、ギガントサイクロプスは無言で立ち上がる。
その目は紫色に変わっており、皮膚の色も徐々に赤に染まっていく。
これは先ほどのアトラに似た状態であり、狂化された状態だった。最大の違いとしてアトラはあの状態でも自我を保っており、こちらは自我を一切失った暴走状態ということだった。
「グアアアアアアアアアアア!」
ギガントサイクロプスは先ほどまでの声をはるかに上回る大きさの雄たけびをあげると、ただがむしゃらにエドを倒すことだけ考えまっすぐ向かっていった。
その様子にブルグは満足したようににやりと笑うとその向かっていく先を見た。
敵へと勢いよく向かっていくその速度も先ほどまでの動きをはるかに上回っていた。
エドは避けようとするが、ギガントサイクロプスの拳はその動きを追跡するように向かってくる。そして、その一撃は直撃することとなる。狂化された状態での攻撃は鎧でも全てを吸収しきることができずにエドはそのまま吹き飛ばされてしまう。
「ヒヒーン!!」
その声は悲鳴のようでもあった。
「あ、あの」
『なんだ?』
その様子を離れたところから見ていたダグラスがアトラへと声をかける。
「や、やばくないですか? ぴ、ピンチだと思うんですが……助けにいかなくていいんですか?」
ダグラスはなぜか吹き飛ばされたエドのことを気遣っていた。
『先ほども言っただろう。エド殿の心配をするほうが失礼にあたる、とな』
それだけ言うと、ダグラスへと視線を向けたアトラは再びエドたちの戦いに目を向けた。
「そ、そうですか……」
ダグラスの目にはそうは見えず、なぜ頑なに動こうとしないのか疑問に思っていた。
『そら、見ていろ』
何一つエドがやられることを心配していないアトラが顔で指し示した先には、力強く立ち上がったエドがいた。
「あ、あれを喰らって立てるのか!?」
ダグラスはエドが何事もなく立ち上がっていることに驚いた。
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