第1話 氷上健吾の居場所
巧に言われて地蔵堂に僕を訪ねてきた少女、木下瑠璃さんはそこで話し終えた。僕と巧が卒業した第三中学校の三年生だそうだ。土曜日なのに制服を着てきている。まじめなのかな?
庭にいた妖精たちが集まってきて、瑠璃の話に耳を傾けていた。そして、瑠璃は妖精の姿が見えているようだった。自分の周りに寄ってきて、視界に映ろうとする妖精たちを目で追っている。もしかして妖精たちと会話が出来たりするんだろうか。
瑠璃は僕の視線に気がついて、はにかむように微笑んだ。
「すみません。えっと、その」
「妖精たちが見えるんだね?声も聞こえるの?」
「はい。この子たち、健吾さんの周りにいた子たちと同じ子たちなんですね」
「うん。元は同じところにいた子たちだね。で、キミたちがこちらに戻ってきたときにみーちゃんがついてきたって言ってたけど、彼は今、どこにいるの?」
「私と真田……えっと、ごまだんごがこっちに戻ったのを見届けて、どこかに行きました。また来るからって言ってたけど、その後、一度も会っていません」
訊くと、瑠璃がこちらに戻ってきた、つまり事故から意識を回復したのは二ヶ月前のことだそうで。
僕はため息をつくのをやめられなかった。みーちゃんはマリアとの連絡係もすることになっていたのに、もう結構な期間、こちらに顔を見せない。巧を早く起こすためには魔力が必要だ。それは健吾さんの妹のマリアから供給されるはずなのに今途絶えていて、どうなっているのか状況を確認したかったのに。
「あの……すみません」
瑠璃がおずおずと言った。僕は微笑を顔に浮かべてみせる。
「いや、ごめんね?ちょっと彼に巧のことで相談したいことがあって。最近こっちに来たのかなって、ちょっと期待してしまった」
「あの、巧さん、やっぱり問題が?」
「やっぱりって?」
「私たちがあちらの世界を出たとき、結構大変な状況で。健吾さんの居場所に見当はついたけど、でも健吾さんを引き揚げることはできないし、どうやって助けようって頭を悩ませてたところに二番目の魔女が来て、私たちを批難しはじめて。魔法のぶつけあいが始まるかもっていう感じだったんです」
「ちょっと待って。さっきも、健吾さんの居場所は城の外で、どこかも見当はついてるけどたどり着くのが難しいって言っていたよね。それってどういう状況なの。何で健吾さんはそんなことになったの。というか、健吾さんは本当に無事なの。キミはさっき、健吾さんが生きているのは確かだっていうようなことを言っていたけど、城の外は城の中とは違って死ぬこともあるんだよ?」
瑠璃さんは頷いた。
「はい。健吾さんは城の外にある砂漠の縁の峡谷の中に落とされたんです。そこは城の外だけど女王の不死の魔法が効いている場所で、空間そのものが不安定で、何もないように見えるけど迷宮みたいになっているんだそうです。そこに落ち込んだモノは見つからないとかで、昔から不都合なモノの捨て場として使われたりもしていたそうで」
「生きている人間がそこから出てくるのも難しい?」
「外から呼ぶ人がいれば出られるらしいんですけど、健吾さんは魔法のかかった箱に封じられていて」
「誰がそんなことを」
「犯人は楽人の国の使節団だっていうのは魔法で調べました。健吾さんが連れ去られた現場の目撃者というのはいなくて、過去を見られる魔法を使ったんですけど」
「そんな魔法の使い手がよく見つけられたね」
その魔法を使える人は珍しい。僕は使えるけど、僕が知る限りでは、あとは巧くらいだ。
すると瑠璃は、
「あの、私、その魔法、使えるんです。でも不安定で、見られるときとそうでないときとがあって。そのときは過去の時点に焦点が合うまでに時間がかかってしまったんです。一度焦点が合ったらものすごくよく見えるんですけど、一部始終がわかったときにはもう犯人は国に帰った後で」
瑠璃の話では、楽人の国の使節団は健吾さんを封じた箱ごと国に戻ろうとしたけど、扉の起動が不十分で城の外の渓谷に転移した。そこで魔物に襲われて、渓谷に荷物全部を落として逃げ惑っていたところを城の防衛隊に助けられ、彼らはそのまま、被害者面をして再度城にある扉を使い、国に帰ったのだという。
「峡谷に落ちて、箱自体は無事なの?」
箱が無事じゃなかったら、中の健吾さんも無事じゃないだろう。でも、そこは確認済みらしくて、
「箱は無事です。国宝を入れるような、世界の終わりが来ても滅びることはないっていう箱だそうなので。」
「何でそんなのを持ってきてたの」
「訓練生をそれに入れて連れてきたんだそうです。翼の城に預けるまでに何かあってはいけないから、って」
答えながら、瑠璃は目を伏せた。その目から一筋、涙が流れ落ちた。




