第6話 健吾さんがいなくなった日の出来事2
ルエットさんが健吾さんの居場所を探すための探査魔法を使った。対象はこの城の全部。でも、見つからなかった。
この結果を受けて、巧さんの顔つきが険しくなった。ルエットさんも難しい顔をしている。
「これはどういうことでしょう。まさか、城の外に出た?」
「だが、今は普段と違って他の国の使者が集まっている。彼らを守るために、城の出入りはほぼ出来なくなっている筈だ」
「それはそうですが、説明がつきません。初代もやってみられますか」
「俺がか?俺がやると、いろんなものをなぎ倒すように探査をするようになるからな。魔女に嫌味を言われる。そうだ、お前がやってみるか」
巧さんは私を見た。私は言った。
「でも私のは力が弱いから難しいと思う。今、ちょうど魔女が戦ってるんでしょう。だったらなおのこと」
「それもそうか。あー、こんなときに司がいたらなあ」
司さんの名前はこのとき初めてきいた。誰だろう、と思ったけど、それを訊ねることはできなかった。野バラの庭の入り口にある呼び鈴が鳴って、私の意識がそちらに向いたから。
それは、人が来たときに先触れをする魔法の呼び鈴だった。付与魔法が得意なルエットさんが暇つぶしに作ったものだけど、とても便利だった。呼び鈴の鳴り方は三種類あって、私たちみたいな健吾さんの味方というか仲間が来たときは微かに、でも軽やかに鳴る。魔女が来たときには高くて澄んだ音が鳴る。それ以外の存在が来たときは、銅鑼のような音が鳴る。
このときには、高くて澄んだ音だった。魔女が来たとわかって、私たちは身構えた。女王の娘たちのことを魔女と呼ぶのだけど、魔女は何をするかわからないから。
このとき来たのは、聖女というあだ名で呼ばれる、女王の末娘だった。青く輝く髪を持った彼女は、庭の中にいた私たちを見て言った。
「良かった、あなたたちがここにいて。王子がどこにいるか、あなたたち、知らない?」
魔女たちも、この頃には健吾さんのことを王子と呼んでいた。
ルエットさんが答える。
「わからないんです。どうしましたか」
「楽人の国の客人たちがどうしても帰りたいと言っていて、あちらの世界へ繋がる扉を開けないといけないの。でも、その役目を果たせる者たちは今、広間の戦いの影響を他に広げないための結界作りに参加していて。手があいているのは王子だけなの」
他の世界への扉を開くのには純粋で強大な魔力が必要だ。健吾さんは扉の開け閉めをするときに、風の魔法を使って扉に魔力を与える役目を担っていた。
「王子は戻っていないんですよ」
「そう……それは困ったわね。ルエット、あなた、お願いできて?」
「断りますよ。俺には無理です。あなたがやったらいいんじゃないですか、ルレア」
ルエットさんが言うと、聖女ルレアは頬を膨らませた。
「意地悪なことを言うのね、ルエット。あの扉は一つの属性だけが含まれる魔力を好むの。私のはいろいろ混じっているからだめなのよ」
「俺のだって結構混じってますよ」
「でもあなたは魔力操作が得意じゃない。一つの属性だけの魔力に練り直すこともできるでしょう?」
「それをやると魔力の出力が落ちて、扉の開閉には足りなくなってしまう」
「じゃあ……そちらの方はどうかしら」
そわそわした様子でルレアは巧さんを見た。巧さんはまともにルレアと目を合わせようとはせず、
「断る。こっちはこっちで取り込み中だ。楽人の国は待たせればいいだろう」
「……そう。そんなウサギに構っている暇はあるのに、私のお願いはきいてくれないのね?」
「知るか」
吐き捨てるように言う巧さんの傍で、ルエットさんが言った。
「ルレア、これ以上この方に言い募るようでしたら、本当に女王に報告しないとならなくなる。おわかりですね?」
「わかったわ。ティアナと力を合わせて何とかするから」
ティアナというのは女王の六番目の娘で、ルレアとは双子だ。二人で力を合わせて魔力を使うと、属性のない透明な魔力を出すことができるときいているので、それで扉を開くのだろう。
ルレアがいなくなった後、ダメもとで私が探査魔法を使ってみた。でもやっぱり駄目だった。魔女と神人の戦いの圧が強すぎて、私の魔法は吹き飛ばされてしまった。巧さんによると、元いた世界でなら十分に通用するのだけど、この世界だと他の魔法が強すぎてなかなか通りにくいのだって。
じゃあ次には巧さんが、魔女に嫌味を言われる覚悟で探査魔法を使ってみるか、となったとき、また庭の入り口の呼び鈴が鳴った。さっきと同じ、高く澄んだ音だった。
また魔女が来たのか、と思って私は警戒した。ルエットさんが出迎えに行く。
ルエットさんが案内してきたのは、オリザという女王の三番目の娘だった。この人が、健吾さんによく剣の試合を申し込んできた魔女だ。褐色の肌に銀色の髪を逆立て、ぴったりとした黒い上下に身を包み、銀色の細い剣を二本、銀色のベルトに挟んでいる。
オリザは巧さんをまっすぐに見て言った。
「助けを頼みたい。神人と姉の争いに割って入ってほしい」




