↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の呪いは恋になる  作者: 弓園千尋
第七章 瑠璃
PR
52/55

第4話 ウサギのぬいぐるみ

 高校を合格した後、そのときにはもう私のお母さんになっていた摩耶ちゃんがインターネットができるパソコンを私にくれた。

 それで、私は健吾さんのことをネットで調べるようになっていた。調べたらいろいろな記事が出てきた。

 その中に、お父さんの氷上甚さんが健吾さんについて話しているインタビュー記事があった。うさぎのぬいぐるみが話に出てきたのは、そのうちの一つ。

 それは、健吾さんが行方不明になってから何年か経って書かれた記事だった。テーマは、氷上甚さんが大事にしているもの、で、甚さんは幾つか家族にまつわる品を紹介していた。

 その中に、健吾さんが小さい頃に大事にしていたうさぎのぬいぐるみがあった。健吾さんの亡くなったお母さんが、健吾さんの一歳の誕生日にあげたもので、小さい頃、健吾さんは寝るときにそれがないと寝なかったんだって。それを大事に保管しているんだ、と甚さんは記者に語っていた。

 それを読んで、私は思った。健吾さんがうさぎの姿だった私をずっと傍に置いていたのって、そのぬいぐるみの代わりだったんじゃないか、って。私がウサギだったからあんな風にいつも傍に置いていたのであって、人間の女の子の姿だと、興味ないんじゃないかしら。

 健吾さんが神隠しから戻ってきた、というのは、まずはネットニュースになった。それが翌日の土曜日の夕方頃のこと。テレビは台風のニュースばかりで、健吾さんが戻ってきたことを取り上げることはなかった。

 でも、健吾さんのお父さん、氷上甚さんが日曜日に日本に戻ってきた辺りから風向きが変わった。国際的スターである氷上甚さんが動いたことで海外メディアも注目し始めた。

 氷上甚さんの事務所はノーコメントを貫き、健吾さんもマスコミの前に出ることはなく、時々どこかから戻ってきた健吾さんについての情報が都市伝説みたいにネットで流れたりしていた。戻ってきたとき、行方不明になったときと同じ服装をしていて、それも相まって全く歳を取っていないように見えた、とか。……まあ、それは事実だけど。

 行方不明になっていた間のことについて健吾さんがどう言っているか、は、警察から最初に発表された情報以外には流れてこなかった。警察は健吾さんから聴取した内容として、「気づいたらその場所にいた旨を説明している」としか伝えていなかったけど、それだけでマスコミとかネットは「神隠しだ」と盛り上がっていた。

 でもそれもだんだん収まってきて、三ヶ月経った頃には、健吾さんの神隠しについてネットやテレビで見かけることはほとんどなくなった。健吾さんは表に全然出てこないし、氷上甚さんも何も語らないし、警察からも最初に発表したこと以外何も出てこないし。健吾さんの義理の弟さんがアイドルをやっていたので、そちらに取材が入ったこともあったけど、そちらは繰り返して「何も知らないんです」「どこにいるかも知らないんです」「僕もまだ会っていないんです」と言っているだけだった。

 それは正しい。その頃には健吾さんは海外に出ていたから。通信制の高校に入る手続きをすませてすぐに。何で私がそんなことを知っているかというと、真田から情報が入ってきたから。真田は健吾さんとネットを通じてやりとりをしていた。

 真田からは何度も、私の連絡先を教えていいかと訊かれたけど、私はそれはやんわりと断った。会えないのに、ネットでやりとりしても辛くなるから、って。

 真田からの情報では、健吾さんはアイルランドのグラハムさんのところに行ったということだった。マリアちゃんが預けられているのはまた別の親戚の家で、同じ集落に住んでいてもマリアちゃんとは会うことはないんだって。

「あっちはあっちで大変みたいですよ。同世代の親戚の間で、なんていうか、マウント合戦が起きてるみたいで」

 そんなことを真田が言ったのは、夏休みのある日、真田の家に遊びに行ったときだった。私は夏休み中は東京の摩耶ちゃんの家に行っていて、真田の家からは結構近かったので、よく遊びに行っていた。真田の家では、宿題をしたり、お喋りをしたりしていた。課題が結構多いから、頑張ってやらないとならなかったんだよね。

 私は思わず訊き返した。

「親戚の間でマウント合戦って……何、それ」

「あの一族って、妖精の寵愛を受けているでしょう。で、そのうちの一部が、妖精の寵愛の強さで張り合っているらしくって。で、氷上健吾は妖精の寵愛が強いからってんで、そういう人たちに敵視されてるらしいんですよね。まあ、世代が違うとあからさまに言ってはこないけど、同じ世代だとそれが露骨に出てくるんだそうで」

「でもそれだと、マリアちゃんもなんじゃない?」

 それとも、ちょっと歳が離れてるからまた違うのかな?ううん、マリアちゃんはマリアちゃんで、同じ世代の中でそういう話があるのかも。

 でもそんなことはないらしくて、

「マリアさんは一度ほど妖精の王に連れていかれそうになったじゃないですか。それで別格扱いになっているみたいですよ」

「そうなんだ……。でも、マウントをとろうとしてくるって言っても、口で言われたりするくらいで何かされているわけではないんでしょう?」

「簡単な呪い、っていうか、ちょっとした魔法をかけられる、っていうのはあるみたいですね。かなり微弱なので、魔力で圧をかければ簡単に解除できるみたいですけど。でも、いろいろと鬱陶しいって言ってましたよ。氷上健吾の得意な種類の魔法は使えないから」

 健吾さんが得意にしているのは、強力な風の魔法だ。台風レベルの嵐を簡単に起こすことができる。確かに、あれはこちらではなかなか使えない。翼の城にいたときには、風の魔法の出力を絞るように巧さんが教えてたけど、結局どれくらいできるようになったんだろう。

 そんなこんなで夏休みは過ぎていった。夏休み最終日に私は東京から学校がある鹿鳴市へ戻った。行きもそうだったけど、帰りも真田と一緒に飛行機で移動する。魔法で行き来することもできるけど、摩耶ちゃんが飛行機のチケットを買ってくれていたし、おかしなことはできない。まあ、空港から鹿鳴市までは魔法で転移したけど。

 転移先は司さんの家の庭。司さんとは打ち合わせ済みで、お稽古とかで生徒さんが来ていない時間帯を見計らっての転移だ。勿論、司さんが張っている結界のおかげで、人から見られることはない。

 とりあえず司さんの家のチャイムを鳴らし、普通に挨拶をしておく。司さんと神村先生がいて、二人に東京のお土産を渡した。先生が少し疲れている様子だったのが気になったけど、だったらなおのこと長居はできないから、ちょっと世間話をしてお暇する。

 そして、島へは普通に船で渡った。こういう人の目がある交通機関は使っておかないとけないっていうのが不便だけど、仕方がない。

 一ヶ月以上ぶりに寮に戻り、部屋の窓を開け、荷物を片づける。夕食のときには他の寮生たちとも顔を合わせて、にこやかに挨拶を交わす。

 食後、真田はまた私の部屋に来て、スマホを見ながら言った。

「氷上健吾も明日から通信制の授業が始まるんだそうですよ。アイルランドからネットで授業を受けるそうです」

 そっか。良かった、健吾さん、とりあえずは普通の高校生みたいに過ごせるんだ。

 芸能界への復帰はまだもうちょっと先にするんだっていうのは、早い段階で決まっていた。もう世間は健吾さんが戻ってきた件について騒いだりしてはいないけど、それでもまだ芸能界に戻るには早い、って。完全にほとぼりが覚めるまでは、ネットとかテレビとか、一切の露出はしない、という方針。大体一年経ったくらいから雑誌のモデルを始められたら、って事務所は考えてるんだって。うん、そうしたら絶対に雑誌を買うんだ。だって、健吾さんのことを応援するんだって決めたんだもんね。

 そんなことを考えながら、私は学校に明日持って行く荷物を鞄に入れていっていた。

 と、周りに突然妖精たちが現れた。ものすごい数だ。今日、司さんの家に寄ったからそれでついてきたのかな?妖精たちは相変わらず司さんの家にいる。そして少しこの島までついてくることはある。でもこんな数の妖精が現れたのは初めてだ。

 妖精たちは口々に言った。


 助けて。あの子を助けて。

 あの子を助けて。私たちでは助けられない場所に連れていかれる。


 私は妖精たちに訊いた。

「あの子って誰?助けるってどういうこと?」

 私の声に、真田は初めて妖精たちが現れたことに気付いたようだった。真田は妖精たちの姿は見えても声は聞こえないので、反応が遅れるのは仕方がない。

「何ですか、これ。いつの間に」

「わからない。さっき突然現れて」

 妖精たちは光りはじめた。その光は見る間に増していき、目を開けられないほどまでになったところでいきなり暗くなり、部屋の中が見えるようになった。妖精たちがいなくなったわけではない。代わりに、部屋の片隅にそれまでいなかったモノがいた。

 そこには、妖精の王が立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。