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魔女の呪いは恋になる  作者: 弓園千尋
第七章 瑠璃
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第3話 王子の帰還

 巧さんは、六月の第三金曜日に月の王の術式を起動させると決めた、と言った。

 その日だと、グラハムさんの会社の株主総会がちょうど終わった翌日らしい。毎年、グラハムさんは自分の会社の株主総会が終わったらその足でこちらに来て、あの元映画監督の家に行っているんだそうで、そのタイミングで健吾さんが戻れば、グラハムさんが健吾さんを保護しても自然に見えるからその日に決めた、っていうのが一つ目の理由。

 そして二つ目は、天気予報。今、南の海の方で台風の卵がいくつもできているのだけど、巧さんの読みだとそのうちの一つか二つは日本に、しかも首都圏に行くんだって。

「そのタイミングで健吾をこっちに戻せば、警察から健吾の帰還が発表されたとしても、全国ネットのテレビ局は動けないだろ」

「でも、台風が来なかったら?」

 私は訊いた。みんな同じことを思うんじゃないかなと思ったけど、他の誰もそんなことは思わないようだった。真田は、少し渋いような顔をしていたけど何も言わず、司さんはただほほえむだけ。アレクシス王子に至っては、

「それは、来るんでしょ」

 と当たり前のように言う。私は混乱したけど、でもそれ以上そのことについて話をするのはやめた。巧さんが、健吾さんが戻ってきたその場に立ち会いたいか、と私と真田に訊いてきたから。巧さんと司さんは最初から立ち会うつもりでいるけど、私たちはどうするか、と。

 真田はすぐに、

「行きます!その場にいたことは、マスコミとかには明らかにされないんですよね?」

「ああ。俺たちのことだって、外には言わないし。瑠璃は?」

「行きますよね、瑠璃さん」

 当然、という顔をして真田は私に訊いてきたけど、私はちょっと笑ってみせてから言った。

「えっと……私は遠慮しとく、かな。学校の課題とかあるし、万が一誰かに見られたら困るし」

「そんなの、記憶操作で何とかなるでしょ。そもそも戻ってくるところから認識阻害とか幻影魔法とかで誤魔化すんでしょ?」

 真田の問いに、司さんは頷きながら、

「勿論。あの家の敷地全体を結界で覆うから。でも、そうだね、もしかしたら健吾さんがその範囲外に戻ってしまう可能性もあるから、上空からの見張りを瑠璃さんにはお願いできないかな。学校の課題は僕が見てあげるから。それならいいでしょ?」

 優しく微笑みながら言われると、断ることはできない。

 真田も頷いて、

「そうですね。術式起動の時間は指定できても、戻る場所をピンポイントで指定できないんですもんね。わかりました、私もその任務にあたります。予想される誤差は、最大数十メートル範囲ですか」

「そこまでずれないように、みーちゃんが補助の道具を用意してくれてるけど、万が一があるといけないからね。瑠璃さん、よろしくね?」

 司さんはまた優しくほほえんだ。私は頷いた。

 


 そして、その日が来た。夜の八時に月の王の術式は起動し、アレクシス王子は健吾さんがいなくなった地蔵様の前から翼の城へ戻っていった。そして健吾さんも、こちらに戻ってきた。後できいた話だと、アレクシス王子がこの世界から旅立っていった場所から数メートルずれたところに戻ってきたんだって。

 私は真田と上空で飛行魔法を使って待機していたから、その様子は見えなかった。司さんの結界の効果は完璧で、家の敷地は完全に視界がブロックされていた。

 そうと知ったのは、私と真田のスマホに、メッセージが入ったから。健吾さんが無事に戻った、会いに来ないか、って司さんから。

 真田は「行きます!」とメッセージを返してたけど、そんな真田に私は言った。

「私、帰るね」

「え?会っていかないんですか?」

「うん。健吾さん、無事に戻って来られたんでしょう?なら、いいんじゃないかな」

 そして私は転移魔法で寮に戻った。戻ってから気がついた。あ、真田を置いてきちゃった、って。真田は転移魔法、あんまり得意じゃないから、大抵私がやってあげるんだよね。でもまあ、いいか。司さんが送ってくれるでしょ。

 一時間も経たないうちに、真田は戻ってきた。真田は心配そうに、

「氷上健吾、確かに戻ってきてました。一応今から警察にも連絡を入れて、そっちの事情聴取が終わったらそのままこの土地を離れるということなんですが。もしかしたらほとぼりが覚めるまで日本を離れるかもって。本当に会わなくて良かったんですか?」

「うん、大丈夫。健吾さんもいろいろと今から大変で忙しいだろうし。時間をとらせたら悪いから」

「いやだって、そんなときだからこそ、翼の城で一緒だった私たちがいた方がいいんじゃないかって。この国を離れるまでに、会いに行きましょうよ」

「んー、でも……、ごめん。会ったらきっと、私、泣いて離れられなくなっちゃうと思う。だから、行かないの。ごめんね?」

「でも」

「代わりに、真田が行ってくれたらいいから。お願い」

 真田は、健吾さんに会いに行かなかった。私に気を遣っているんだと思う。

 健吾さんがいつこの土地を離れるかは、健吾さんから真田に連絡が入った。真田は、健吾さんがこちらに戻ってきたときに健吾さんと連絡先を交換していて、やりとりをしていた。

 真田は私に再度訊いてきた。

「本当にいいんですか?瑠璃さんに会えたら、氷上健吾は喜ぶと思いますよ?」

 うん、本当に気を遣わせてごめんね?

 でも、健吾さんは、ウサギの姿じゃなくなった私には興味ないんじゃないかなあ。翼の城で私をずっと傍においてくれたのは、私がウサギの姿だったからだと思う。

 小さな子どもの頃に彼が持っていたっていう、ウサギのぬいぐるみがわりだったんだと思うの。


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