第4話 翼の城で暮らす
私と相棒のごまだんごは、健吾さんに助けられてから何年も平和に暮らしていた。ごまだんごは、元は私と同じ世界から来た人間の女の子で、私の一つ上の高校生だそうで、真田、と名乗った。なので、ここからは、真田、と呼ぶ。真田は私と歳が一つ違いということだった。私たちは健吾さんを守るためにいつも話し合って動いた。そしてそのために私たちは魔法を身につけた。
私と真田と健吾さんは一緒に翼の城の野バラが生い茂る庭で暮らしていた。庭の主はもともとはルエットさんだけど、この人は気の向くままにいなくなったりしたので、一緒に暮らしたというのとはちょっと違う。
そして、巧さんが時々訪ねてきた。最初に会ったときは子どもの姿で、私は「巧くん」って呼んでいた。健吾さんもそう呼んでいたし。でも、ルエットさんが「敬意が足りない」って言い続けていたし、巧さんがもの凄い魔法を使うところを見る機会があって、健吾さんが「巧さん」呼びに改めたのを見て、私もそうすることにした。そんなことがあっても、真田は「巧」呼びで一貫してたけど。巧さんの姿は、私たちと会うごとに成長していた。
巧さんは最近になってずっと翼の城に居続けていて、その後から、「みーちゃん」っていう白い猫に似たモノが巧さんを訪ねてきたりしてたけど、真田によると、みーちゃんは生き物ではなくて式神なんだとか。
真田は私と同じ世界から来たのに、どうしてかそういうのに詳しかった。私が不思議がっていると、あちらの世界にもいろいろあるんですよ、と真田は言った。
巧さんは、私たちが翼の城に来てすぐ、健吾さんが仕事でいないとき、私と真田がどうして翼の城に来たのかを私たちに教えてくれた。世界の波に魂だけが呑まれてこっちに来たんだって。そして、私たちは肉体を離れたときから二、三週間くらい後の時点に戻れるだろうって。それまで、あっちの世界の私たちは意識不明で病院で寝てる筈だって。
その話をきいたとき、真田が真っ先に訊いた。
「それじゃ、氷上健吾はどうなるんですか。あの人、私たちの世界で行方不明になって、もう九年とか経っているんですよ」
そう、真田は健吾さんのことを知ってた。ファンなんだって。
巧さんは頷いた。
「あいつは体ごとこっちに来たから、ちょっと違うんだよ。こことはまた別の世界で行われてる大魔法に巻き込まれて」
「それで九年、ですか。私たちは二、三週間ここで我慢して暮らせばいいけど、氷上健吾の方はちょっと過酷じゃないですかね」
真田の言葉に、巧さんは少し考えて、
「お前、もしかして勘違いしてるな?お前たちがここで暮らすのはそんな短期間じゃないぞ。お前たちは今、六年くらい時間を遡ってこっちの世界に来てるから、多分同じくらいの時間をこっちの世界で過ごすことになるだろ」
「はあああああ?」
真田は声を上げた。
といっても、心の声だけど。ウサギと猫になった私たちは人間みたいに声を出せなくて、こういう会話は心の声で交わしていた。巧やルエットさんともそうやって話してた。健吾さんはそういう魔法は全然できなかったから、最後まで話はできなかったんだけど。
「安心しろ、さっきも言ったように、向こうの世界では二、三週間だから」
「そう言われても安心できませんよ。社会的、肉体的には問題ないとしても、精神的には問題があるでしょう。こっちで何かあって精神が壊れたりしたらどうするんですか」
「んー、そうだな。お前たちの今の体って、いわば魂そのものだからな。それが傷ついたら確かに問題あるな。じゃ、とりあえず守護の魔法を掛けておくか。それで万全とは言わないが、余程のことがなければ大丈夫だろ。それに、お前らも魔法の修行をすればいい。結界魔法とか」
「私たちも魔法が使えるんですか?」
「ああ。一度あちらの世界の肉体の枷から外れてるからな。簡単に使えるようになると思うぞ」
「それは……魅力的ですね」
真田の声から喜びの感情が溢れていた。が、すぐに顔を引き締めて、
「氷上健吾は大丈夫なんでしょうね?体ごと来てるってことは、体がやられたらマズいってことでしょう」
「それは大丈夫だ。この城では歳はとらないし、たとえ戦闘とかで死んでも翌日には生き返る。そういう魔法があいつには掛けられてるから」
さらりと巧さんは言い、翼の城がどんなところかを教えてくれた。
凄い場所に来たな、というのが私の感想。そして私の隣で真田は、体が無事だからって、人の死が死ではないという光景を見続けていたら精神は無事ではすまないのでは、とかぶつぶつ言っていた。
実際、一緒に生活し始めた頃、健吾さんは巧さんに話していた。
「毎日目の前で起きていることといったら、人の体が傷ついたり、あるいは死んだりして、でも翌朝には復活してくるっていう、とんでもないことなんだよ?その悲惨さを誰かに話して共有したくても誰もいないし、ルエットだってあんなだし」
それでかなり精神的に参っていたらしい。でも、私たちが来て、とっても助かったって言っていた。私たちがちゃんと話をきいてくれるから、って。言葉が通じなくても、目を見て、側にいるだけでありがたいんだって。
そう言われて、私はとても嬉しかった。私も、健吾さんに、私を助けてくれてありがとう、って言いたかった。そう、ずっと言いたかった。
でも、できないままに私は健吾さんと別れた。魔女との取引があったから、仕方ないことなんだけど。
それはともかくとして、私たちは健吾さんと一緒に翼の城で暮らした。一緒に食事をして、一緒に寝て、時々健吾さんにお風呂に入れてもらって。私はいつも健吾さんの傍にいた。真田は城の中とかを見て回って、でもすぐに私たちの元に戻ってきた。私はいつでも健吾さんを結界で守れるよう備えていたし、真田がいつもうろちょろしていたのは、常に健吾さんに危険がないか調べていたためで。健吾さんも自分で戦ったし、三人は良いチームだったと思う。
私たちか健吾さんが元の世界に戻るまで、私たちは一緒にいる筈だった。
だけど、私たちが一緒に暮らしはじめて六年が経った頃、健吾さんはいなくなった。




