↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の呪いは恋になる  作者: 弓園千尋
第七章 瑠璃
PR
49/55

第1話 王子の目覚め

 健吾さんがこちらに戻ってくるためにしないといけないことでまだ残っているのは、アレクシス王子の体と精神を一緒にしていつ月の王の術式が最終段階に入っても大丈夫なようにすることと、月の王が術式起動の時期を早めるための術式を書き終わってその検証をすること。それが終わればすぐにでも健吾さんはこちらに戻ってこられる。

 アレクシス王子の心と体を一つにする作業は、私の時女の入試合格がわかってすぐに行われた。巧さん一人でも作業はできるけど、他からの邪魔が入らないように、結界を張り巡らした中で作業をしたかったんだって。月の王の術式の書き換えはまだ終わらないけど、とりあえずできることは先にしてしまおう、って。

 なので、私の受験が終わってすぐにその作業を行った。場所は、健吾さんが昔行方不明になった現場である元お寺だったという建物。そこの持ち主は映画監督さんだったんだけど、もう年だからもっと便利なところで暮らすことにしたそうで、売りに出されたその家を、グラハムさんという健吾さんのお父さんのいとこさんが買っていたんだ。健吾さんが戻ってくるときに、恐らくその付近に現れるだろうから、って。

 アレクシス王子の心と体を一つにする場には、そのグラハムさんともう一人、マリアちゃんっていう健吾さんの妹も来た。どことなく健吾さんに似たところのある、とっても綺麗な子。

 マリアちゃんはものすごく緊張している様子だった。ずっとグラハムさんの傍にいて、打ち合わせ中、私や真田が巧さんや司さんにいろいろ指示を受けているのをじっときいていた。

 そしてもう一人、立ち会った人がいる。

 みーちゃんだ。

 みーちゃんは猫の姿で来ていた。式神、なんだけど特別製だそうで、ちょっとした魔物とかは倒せるようになっているんだって。

「王子が目を覚ますまで、この建物の周りの見張りをしておいてやる」

 と言った。

 その家には、元はお寺の本堂だったっていう大きな部屋があった。そこは台所が隣にあって、居間として使われていたらしいんだけど、そこで王子の体と魂を一緒にしよう、って言った。

「この建物自体にも結界は張ってるから、いろんなモノの目を誤魔化しやすいからな」

 巧さんが言う。

 この建物に結界が張ってあることは敷地に足を踏み入れたときにすぐにわかった。そしてその結界は司さんが作ったものだ、っていうのも。神村先生の家にも同じものがあるから。司さんの結界は、静かで、強くって、冷たくはないけど暖かくもない、そういう感触がある。結界って、張った人の個性が出るんだよね。

 建物には、健吾さんを閉じこめていたコンテナが寺に運び込まれていた。健吾さんを助け出した後、楽人の国から借りて、王子の体をそこに入れていたんだって。

 コンテナは今まで別な世界に置いていたのだけど、今日の作業のために運び込んできたんだそう。

 作業に入る直前に、コンテナの蓋が開けられた。

 コンテナに入っていた王子は、黒髪で白い肌の、穏やかそうな感じの人だった。顔立ちは整っていて、なんとなく翼の城の女王に似ているかも。翼の城の女王、っていっても、ナイトレイヴンの上映会で見かけた、女王が宿るために六番目の魔女が作った人形のことなんだけど。

 眠っているように見える王子を、マリアちゃんは食い入るように見ていた。みーちゃんはというと、コンテナの縁にちょこんと座って、眠る王子の顔を満足そうに眺めていたが、ふらりと建物の外に出て行った。多分、話していた通りに見張りに出たんだろう。

 私たちは打ち合わせのとおりに結界を張った。私が一番外を、その中に司さんが、その更に中、コンテナだけを覆うような大きさのものを真田が。

 役割分担を知ったとき、真田は、

「瑠璃さんの結界の中に司さんの結界があって、更に私の結界なんて、本当に添え物じゃないですか」

 と言っていたけど、やる気は満々で、もしものことがあっても最終防衛線は自分が守るから安心してください、と力強く言っていた。

 私たちが結界を張り終わると、王子の胸の上に、巧さんが、王子の精神を凝縮したという綺麗な結晶を置いた。

 そして、魔力を流し込んだ。一瞬で、綺麗な高出力の魔力を。太陽の輝きのような魔力だった。私の一生分の魔力を集めても全然届かないような魔力の量。

 そんな量の魔力も、王子の体とその上に置かれた結晶は一瞬で吸い取った。そして、体全体が金色に光ったかと思うと、王子の体が一度ゆっくり浮かび上がり、そしてまたゆっくりと降りて、光が消え、王子はゆっくりと目を開けた。

 王子は少しの間ぼんやりしているようだったけど、やがて体を起こしていった。何度か手を結んだり開いたりして、感触を確かめているようだった。

「起きたか」

 巧さんが声を掛けた。王子は顔を上げ、巧さんを見る。

「やあ。僕をまた一つにしてくれたんだ。ということは、月の王の継承はもうすぐってことかな」

「まあな。お前の経験値は大分上がっていて、今の月の王が設定したハードルはクリアできてるが、術式のタイマーの方がロックされててな」

「それで僕はまだ月の王になっていないんだ?で、ロックはいつ解除されるの?」

「それを当代の月の王が調整してるところなんだよ。まあ、それまでこっちの世界で普通に生活しろ。そのための準備はしてある」

「普通に生活する、ね。うん、出来ると思うよ。こっちの世界の人間の生活の様子はよく見せてもらったから」

 王子は立ち上がり、コンテナの外に出た。その王子に、マリアちゃんが泣き声を上げながら、王子に駆け寄る。

「アレクシス!」

 王子の腰にすがるようにしてマリアちゃんは泣き続けた。王子は優しい手つきでそんなマリアちゃんの頭を撫でている。私と真田はそれを見て、結界を解除した。

 すると外から、建物の壁をすり抜けるようにしてみーちゃんが入ってきた。マリアちゃんに抱きつかれて身動きがとれない王子の肩の上にふわりと乗る。

「おう、目を覚ましたか」

「うん。おはよ。えっと……」

 王子は困惑したように私と真田を見た。巧が、

「翼の城に行ってた、ミルクティとごまだんごだ。前に話したことがあるだろ」

「ああ、僕の代わりに行った人を守ってくれてた子たちか。こっちに戻ってきてたんだね。良かった」

 ふんわりと王子は私たちにほほえみかけた。私は黙ったままぺこりと頭を下げた。真田も同じく。

 王子は今度は司さんに話しかけようとしたけど、それより前にマリアちゃんが声を上げた。

「アレクシス、だっこ!高い高い!手をつなぐの!」

「ええ、今?」

「今!だって、アレクシス、前に言ったじゃない。体があったらやってあげられるのに、って」

「でももうマリアはそんな小さな子どもじゃないでしょ」

「でも、一度もやってもらってない!」

「んー、困ったなあ」 

 本当に弱ったような表情をしていた王子は、少し考えて、

「じゃあ、ちょっとだけだよ」

 そう言うと、マリアちゃんの腰に手をやって、そのままマリアちゃんの体を高く掲げた。マリアちゃんの体はもう結構大きいけど、全然重そうにはやっていない。ちょっとだけ魔力の気配があるから、多分、魔法をこっそり使ってるのかな。

 私の傍で真田が呟いた。

「魔法の使い方、参考になりますね。あんな風にさりげなく使えばいいのか」

 確かに。

 マリアの体を何度も上げ下ろしした後、王子はマリアを降ろした。

「じゃあ、これで満足したね?」

「えっと、違う、違うの。えっと」

 マリアが何か言おうとすると、王子は少し困り顔で、

「まだ満足しないの?困ったなあ。じゃあ、次はだっこか」

 今度は王子はマリアちゃんを抱え上げた。だっこ、というか、いわゆるお姫様だっこ、だ。マリアちゃんはびっくりしたような顔をしていたけど、すぐに王子の首に抱きついた。

 そんなマリアちゃんをよけるようにして王子の肩から降りてきたみーちゃんが、私たちのところに来て呟いた。

「あー、なんか、良かった、のか?」

「良いんじゃないですかね。マリアさん、王子を助けるためにいろいろと無茶してたんでしょ?」

 真田が言う。みーちゃんは頷いて、

「まあな。そのために親と離れて別の国に行ったんだし。まあ、あれはあいつにとって良かったと思うけどな。でも、王子はどこで過ごすんだ?体があるから、前みたいにどこにでも行ける、とかはないだろ」

「巧の話では、この家に住んで、巧が手伝ってる喫茶店で働かせるって言ってましたよ」

「それって給仕をするってことか?あいつにできるかあ?そんなの生まれてから一度もやったことないだろ」

「見てたらできるようになるんじゃないんです?給仕とまではいかなくても、お客さんから注文をとることくらいはできるでしょ。見た目がいいから、お客さん、増えますよ」

 みーちゃんと真田がそんな話をしている間、私はマリアちゃんを見ていた。王子にずっとしがみついている。とっても嬉しそうで、本当に良かった、って思う。

 グラハムさんが王子に声を掛け、挨拶をし、そしてマリアちゃんを見守ってくれていたことの礼を言った。驚いたことに、健吾さんのお父さん、氷上甚さんからも、感謝をしていることを伝えてほしい、と言われたそう。そっか、健吾さんのお父さんはいろいろと知っているんだ。健吾さんが異世界に行っているのも知っているんだものね。

 王子の今後の話について話そうという段になってもマリアちゃんは王子から離れなかった。そして、王子は月の王になってこの世界から離れるまでは日本で暮らすときいて、泣き始めた。

「なんでアレクシスと一緒にいられないの?」

「前みたいにはいかないよ。今の僕は体があるしね」

 アレクシス王子は苦笑しながら言ったけど、マリアちゃんは納得しない。

「でも、それでもアイルランドに来ることはできるでしょ?何で日本なの?」

「それは、多分、彼がいるから?」

 王子の視線は巧に向く。巧は肩をすくめてみせた。

「まあ、そうだな。俺もいるし、司もいるし。王子のことを怪しむ人間がいたとしても、俺たちがいれば認識阻害とか記憶操作の魔法をかけて、王子の存在そのものを簡単に隠せる」

「何だったら、私たちもいますよ?」

 真田が言う。巧さんは顔を少ししかめて、

「まあなあ。お前のは当てにできるが、瑠璃のはなあ……」

「何か問題が?」

 グラハムさんの素朴な質問に、巧さんは私を見ながら、

「こいつ、相手の意識に干渉する系統の魔法はあんまり得意じゃないんだよ。そういった魔法の解除とかはいいんだが」

「力加減が難しい、って感じかな?」

 司さんがふんわりと訊いてきて、私は思い切り頷いた。だって、今まで相手に認識阻害をかけないといけなかったときって、かなり切羽詰まった場面ばかりだったし、思い切り魔法を相手に掛けないと!っていう感じで、認識阻害とか相手の意識に働きかける魔法って、そういう使い方しか私はできない。

「じゃあ、私が日本に戻る!それで、アレクシスと一緒に暮らすの!」

 マリアちゃんは声を上げて言ったけど、グラハムさんとみーちゃんがなだめていた。

 マリアちゃんはずっとごねていたけど、真田が、アレクシス王子の写真とかこっちでの暮らしぶりをメールで送るから、と言い、巧さんも、ネットでアレクシス王子と直接話せるようにするから、と言うと、ようやく機嫌を直した。

 アレクシス王子と別れるときには、マリアちゃんはぎゅうっとアレクシス王子に抱きついて、

「絶対、絶対、また会うんだから!」

「うん。ネットでまた会おうね?」

 アレクシス王子はにこやかに言った。マリアちゃんは何かを心に決めたみたいな表情で頷いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。