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魔女の呪いは恋になる  作者: 弓園千尋
第六章 司
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第4話 大上映会の企画

 魔女オリザは言った。ナイトレイヴンを最初から最後まで皆で見よう、と。皆、というのは、翼の城の女王と七人の魔女たち、健吾さん。更には楽人の国の王とその幼なじみ。解説役にごまだんごまで呼ぶ、と。

「何で楽人の国の王を?」

 僕が訊ねると、魔女オリザは少し肩を竦めてみせた。

「今回の件を受けて、王自身を召喚すべき、との意見が出ていてな。それでだ」

「楽人の国は、知らぬ存ぜぬを通しているときいていたのですが」

「そうだな。ただ、それは我ら魔女からの問い合わせだったからという可能性がある。母上が使者を立てて訊ねたら、あっさりと認めるのではないかな」

「まだ直接楽人の国に訊ねてはいないの?」

 ヌビエラの問いに、オリザは頷いた。

「ああ。ラフィーンが母上に白状してからまだ半日程度だ。今、楽人の国に使者を送るべく、カイサ姉様が調整しているところだろう」

「そうなの。じゃあ、使者に言付けることを増やしても間に合うわね?」

「言付ける?」

「そう。みんなでナイトレイヴンを見ましょう、っていうお誘いも一緒にするのよ。それと、箱の機能についても質問ね。場所がわかるような機能がついていませんか、って。それがわかったら、鴫沢レンも一緒にナイトレイヴンを見ることができるんですけど、って」

 巧がヌビエラに訊く。

「お前、あの箱の基本設計に関わってたって言ってたよな。そのときには何もついていなかったのか」

「ええ、だから言ってるの。追加設計はなかったのか、って。あれを作った人間は、国にとっての宝を入れるために作るんだ、って言ってたのよ。私だったら、もしものときのために最低限、発信機能をつけるわ。楽人の国の王に正面切って訊けば、そういうの、教えてもらえないかしらね。場所さえわかれば、母様が何とかできるでしょ」

「確かに、楽人の国が協力すれば、鍵の問題も片づくな」

 魔女オリザは考え込むようにしながら言った。

「うん、わかった。その線でカイス姉様に話してみよう。ヌビエラ、お前も帰ってこい」

「え、私も?あらいやだわ、私、まだこっちの世界でやらないといけない用事が」

「お前が自分が作ったものを落として、若芽の君とアレクシスを危険な目に遭わせたのは、母上はとっくに承知だ。二人が回復可能な状態だからすぐに呼び戻さなかっただけで。だが、今こうなってもまだ逃げるとなると、母上の怒りは大きくなるぞ」

「はあーい。わかりました。ああでも、ヤスオは置いていっていい?月の王の宮殿に若芽の君が行くときについていったら、アレクシスが月の王になった後も場所がわかって会いに行けるでしょう?」

 魔女オリザは、ヌビエラの肩に乗っていたヤスオを見た。

「お前、それでいいのか。一人でこの世界に残るということになるが」

「んー、僕、帰りたい。だってずっと一人でこっちの世界で頑張ってたのに」

 ヤスオはヌビエラの肩の上で、イヤイヤと首を振る。

 巧はそれを見て言った。

「今の話の流れだと、術式のことで今の月の王に会いに行くのは、楽人の国との交渉結果が見えてからでも遅くない感じだからな。行く前には声を掛けてやるよ。ヤスオを連れていけばいいんだろ?」

 そんな感じで話はまとまった。楽人の国には、健吾さんをさらったことの真意と箱の機能に場所を特定する機能とかついていないかということの問い合わせをし、更に、ナイトレイヴンの上映会をするので王も翼の城まで見に来ないか、という誘いを伝えることになった。

 で、その席には巧だけじゃなくて真田と瑠璃も呼ばれ、何故か僕も呼ばれるという。

「僕はてっきり留守番と思ってたんだけど」

 だって、こっちの世界で座標の役目をしないといけないと思うんだ。

 僕がそう言うと、みーちゃんがふさふさのしっぽをふりふりしながら、

「そんなもん、どうとでもなる。俺が行き帰り、送ってやるから。何だったら、俺の部下をつけてやってもいい」

「部下?」

「おうよ。俺は国ではそれなりの役目を担ってるからな」

 まあ、神人の国の使節団の一員に選ばれるくらいだし、それは意外でもなんでもないけど、

「まさか、みーちゃんも翼の城に来るつもりなの?それで前に戦闘になったんでしょ?」

「あー、いや、そうだけど。でも、ナイトレイヴンって、さっきのヤツだろ?あれ、俺も見てみたいんだよな」

 すると、それをきいていた巧が言った。

「だったら、お前はここで見ていけばいいだろ。で、俺と司があっちに行っている間、留守番を頼む。司の代わりにこっちで座標の役目もやってほしい」

「おお、そういうことなら任せろ。ナイトレイヴンもその間に見まくってやるぜ。ああでもお前、ちょっと変装とかしていけよ。そのままだと、女王の関心を引くかもしれないからな」

 みーちゃんは僕に言い、巧は顔をしかめる。

 それをきいていた魔女オリザが言った。

「確かにその者は母上の興味を引くかもしれんが、若芽の君の友人とわかっていて母上が手を出すことはないだろう。何より、母上はまだ麗しの君に執心だからな」

「うへえ、それはききたくなかったなあ」

 みーちゃんは顔をしかめた。

 そして、魔女たちとヤスオが帰った後、みーちゃんも、ちょっと自分の国に行って、こっちに本格的に滞在するための準備をしてくる、と言って帰っていった。

 皆がいなくなった後、僕は巧に訊いた。

「巧は、僕をあっちの世界に連れていきたくないんじゃないかって思ってた」

「んー?まあ、そうだなあ。本当は、連れていくのはちょっと、と思ってはいるんだけど、ルエットがな」

「ルエット?彼が何か?」

「あいつ、月の王の三代目だろ。で、前任の二代目から、月の王の術式の原型を書いた者に見せてほしい、って、何やら預かってるらしいんだ。あいつが翼の城にいるのもそれが理由で」

「どういうこと?」

 僕は訊ねる。巧は少し顔をしかめながら、

「二代目から預かっているモノってのがかなり古くて、安定した環境に置いておかないと崩れるらしいんだ。翼の城はそういう意味での環境は抜群にいいからな。そのために、あいつは翼の城にいる。それと、二代目は、術式の原型を書いた者の魂は転生していつか翼の城に戦士として来るに違いない、とか言い残したらしくって。それで、そいつの魂を持ったヤツが来るのを待ってるんだ」

 うーん、二代目って何でそんなに術式の原型を書いた術者にこだわってるんだろう。それって、入船司のことだけど、僕、その世界では無名の人間だったんだよ?そんな人間に対して、翼の城に戦士として来るに違いない、とか、そんなこと思わないでしょ。

「二代目はどうなったの?月の王になったんだから、不老になるもんでしょ」

 そして寿命は関係なくなる。

「そうなんだけど、そいつが俺から月の王を引き継いだときにはもうかなりの年寄りで。ルエットが引き継ぐまで頑張ったけど、引き継いだ後、気力がもたない、って眠りについた。体は絶対安全な場所に保管されていて、生きてはいるんだが、冬眠状態というか。いつ目を覚ますかは本人次第っていうか。精神体だけでうろついてるのには時たま出くわしてるんだが」

「もしかして、その二代目の体が保管されている場所にアレクシス王子の体も置いてる?」

「ああ。安全な場所だからな」

「どこなの?」

 巧はあっさりと教えてくれた。どうせ行くことになるんだし、と。答えをきいて僕は納得。確かに、巧が自由に出入りできるし、安全だし。

「でも、よくそこに置けたね?術式の効果で修行中だから、送り込まれた先の世界からは抜け出せないはずなのに」

「術式の起動による修行は精神だけが受けたのでいいってのが早い段階でわかってたからな。それで、保管場所を決めた。父親の傍なら、安心だろ」

 そう、巧はアレクシス王子の体を、月の王の宮殿に保管していたんだ。修行に際しては、トレード相手である健吾さんが戻ってくるまでは、送り込まれた先であるこの世界からは移動できない筈なんだけど、術式自体は精神体に埋め込まれているから、肉体の方はその制約は受けない、と。

 なるほどね。

「まあ、とにかく、そういうわけだから、俺たちは前みたいに生活しながら、翼の城からの連絡を待とうぜ。もしかしたら、楽人の国は女王自身からの使者にも全否定かもしれないけどな」

 まあね。でも、そのときはそのときだよ。また考えればいい。僕はとりあえずアレクシス王子の術式の修理に全力を尽くすから。

 そして、魔女たちが帰って一週間ほどした後、うちにひょっこりとヤスオがやってきた。

 そのときは瑠璃が勉強のために来ることになっていて、応接間を冷やしておこうと思って部屋に入ったところ、窓を軽くかりかりとひっかく音がした。それで、外を見ると、ヤスオがいた。ネズミくらいの大きさで、部屋の窓の桟に懸命にのっかるようにして、僕の気を引こうと頑張っていた。

 僕は窓を開け、ヤスオに手をさしのべた。ヤスオは僕の手のひらの上に普通に乗っかってきた。僕は窓を閉め、ヤスオを部屋のソファの上に置いた。

「こんにちは。よくここに来られたね?」

 僕が声を掛けると、小さな男の子の声で念話が返ってきた。

「僕、道を覚えるの、得意なんだ。それでおばちゃんをいっつも案内してるんだから」

 なるほど。大人がしっかりしていないと、傍にいる子どもがしっかりするらしい。

「それで、今日はどうしたの?巧を呼んだ方がいいかな。巧は今ちょっと出かけてるんだけど」

 巧はこっちに戻って以降、昼間は毎日地蔵堂に手伝いに行ってる。地元の同年代の子たちからは「不良がいる店」とか言われてるけど、お母さんと同年代とか大人世代にとっては、かっこいい男の子がいる洒落た雰囲気の古民家カフェ、だからね。一度、ローカル局が取材に来たとき、巧にも是非VTRに映ってほしい、とスタッフが熱心に言ってきたらしいけど、巧はそれは苦笑いで返して、絶対に映らなかった。多分、こっそり魔法も使って相手の意識を誤魔化したりして逃げ切ったんだと思う。

 ヤスオは首を横にぶんぶんと振って、

「ううん、いい。あなたに伝えたら、若芽の君にも伝わるでしょ?あのね、経過報告です。楽人の国の王は、風の王子の誘拐について正式に謝罪しました。誘拐に使った箱に追跡機能がついていることも教えてくれて、箱の場所がわかったので、今は引き上げ作業に入ってます。女王は、向こうの謝罪と、箱の機能についての情報開示を受けて、今回の件は水に流す、と言っています。それで、箱を引き上げて、中から風の王子を助けたら、みんなでナイトレイヴンを見ましょう、ってことになって。今、ヌビエラおばちゃんとルエット師で、あちらで魔力を電気に変えるための道具を作ってるところです」

 えっと、それって、ナイトレイヴンをみんなで見ようっていう、ヌビエラの思いつきが実現するってこと?


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