第2話 意外なところにファンがいる?
「早速だが、風の王子の件、母上にバレた。それで、ごまだんごに連絡を取りたい。可能か」
魔女オリザがそう言ったとき、真田とのビデオ通話は繋がったままだった。ディスプレイの中に映っていた真田の表情が変わるのがわかった。
巧は怪訝そうに魔女オリザに訊く。
「確かにあいつはこっちに戻ってきてはいるが、女王にバレたからあいつに連絡を取りたいってのが、意味がわからん」
「そうよ、姉様。第一、何でバレたの。どこまでバレたの」
ヌビエラが怯えた様子で言う。多分、自分が作ったモノのせいでアレクシス王子の精神体までもが眠りについていることまで女王にバレていたらどうしようっていう心配なんだろうな。
魔女オリザは怪訝そうに、
「どこまで、って。風の王子が楽人の国の者たちによって特別な箱に入れられて拉致されて、箱自体は連中が国に帰るための転移魔法が不十分だった時に城のそばの峡谷のどこかに落ちたままになっている、っていうことがバレたんだが。しかも、連中の逃走に下の二人が関与しているってこととかな。他にもまだ何かあるのか。というか、お前、知っていたのか。お前が旅に出てから起きた出来事だが」
「それは、ほら、こうして若芽の君とこちらで出会いましたので、それで話をききました」
「なるほど。まあそういうことで、風の王子が大変な目に遭っていることが母上にバレた。ミイヤの呪いのおかげで風の王子は生きていることがわかって、母上はかなり安堵しておられたが、責任をとって姉妹全員で事に当たれと仰せだ」
「なるほどな。でも、どうやってバレたんだ」
巧が訊く。僕も同感。
魔女オリザは言った。
「楽人の国から預かっていた戦士が、母上に是非に話したいことがあると言ってきて、それで母上は話をきく場を設けたんだ。城に来てすぐの戦士に対してそういう面談の場を設けることはよくあることで、そういう場には我々姉妹も呼ばれる。それで、いつものように同席したら、風の王子に対して自分の国が何をしたのかという懺悔を始めてな」
「あらまあ、姉妹たちは皆びっくりしたでしょうねえ」
ヌビエラがおっとりと言った。
「ああ。大抵の戦士が、訓練のことについて話すか、城の環境について話すか、自分の国と翼の城との将来の関係性について話すか、そういった話題を出してくるのに、自分の国のしでかした悪事について話し出すんだからな」
「そいつは、何で女王にそんな話をしたんだ。自分の国が不利になることだろう。どうかすると、城にいる自分の処遇にも影響が出かねない」
当然の質問を巧がした。ヌビエラも、
「そうですわよねえ。もしかしたら、自身も風の王子の誘拐の関与を疑われるかもしれないのに。あら、まさか自分も片棒を担いでいるのに、しれっと無害そうな顔をして母様に申し立ててきたとかじゃないでしょうね?」
「犯行の場に戦士自身がいなかったのは、過去視の魔法で確認済みだ。あと、そいつが母様に自分の国のしでかしたことを言ってきた動機もわかってる。そいつ自身が望みを言ったからな」
「望み?」
「ああ。翼の城の力を使って峡谷に落ちた箱が引き上げられたら、中に入っている風の王子の遺体を自分にくれ、と。入れられて三日を過ぎたら生命維持の機能は切れるが、体の腐敗は進まないので、是非観賞用に欲しいんだそうな」
「はあああああああああ?」
ディスプレイに繋いだスピーカーから、音割れ上等、といった感じの真田の叫び声が聞こえた。
真田だった。真田はものすごく大きな叫び声をあげた後、
「そんなの認められるわけないじゃないですか。何言ってるんですか!」
さすがにこの声で、魔女オリザも真田ことごまだんごの存在に気づいたらしい。声が聞こえた方、ビデオ通話中のディスプレイを見た。
「ごまだんご?そこにいたのか。気配を感じなかった」
「どうも、ご無沙汰してます。機械を通じてこの場にいるんで、それで気配がなかったんだと思いますよ。で、何なんですか、そのふざけた女は。女、でいいですよね。今、話に出てきたのって、あのピンク髪の女ですよね?ラフィーンとかいいましたか」
「ああ。楽人の国の王の従姉妹ということだったな。楽人の国から送り込まれただけあって、歌を使った魔法の使い手としては強力だ。ただ、自らが斬りこんでいくというよりは、他の奴のサポートにつくタイプだな」
巧がそこで短く切るように話に入った。
「そんなことはどうでもいい。それじゃ何か、そいつは健吾が箱の中でもう死んでいると思っていて、その死体を譲り受けたいと翼の城の女王に申し出たってことか」
その表情からは、理解しがたい、と考えているのがありありとわかった。僕もちょっとわからないと思った。健吾さんは確かに容姿がいいけど、そこまでして手元に置いておきたいものなのかな。
ヌビエラがまたしみじみと言う。
「もしかしたら、風の王子の容姿は、楽人の国の者たちの基準ではこのうえないものなのかもしれませんねえ。勿論、私たちから見てもあの子は素敵ですけど、死体まで保管しておきたいとまでは思わないですわ」
すると、魔女オリザが言った。
「そうだった、それも理由を言っていた。楽人の国の王が風の王子をさらってくるように言った動機と同じなんだが。何でも、ナイトレイヴンの鴫沢レンを手元に置きたい、とか」
「はあああああああああ?」
また真田が叫び声を上げる。僕も巧もびっくりして目をぱちくりさせ、思わずお互いの顔を見た。
僕は巧に訊く。
「何でナイトレイヴンを楽人の国の人たちが知ってるわけ?」
「わからん。全くわからん」
しかし、真田が言った。
「そう言えば、妙だなと思ったんですよね。あのピンク髪の女も含めたいろんな世界の戦士たちを受け入れる儀式の後に式典が催されたでしょう。健吾さんがいなくなった日のことですけど。あのとき、楽人の国の使節団が、自分たちの感謝の気持ちだっていうんで演奏した曲の中に、ナイトレイヴンの曲がいくつか含まれていて。鴫沢レンのFight to the Endなんかアレンジそのままで、何で、って思ったんですけど」
「楽人の国は音楽に貪欲ときいたことはあるけど、他の国にまで曲を集めに行ったりするものかな?」
僕の独り言に、魔女オリザが言った。
「連中は翼の城に戦士を預けには来るが、異なる世界との行き来はそれしかしていないと思う。方法を知らない、というか、それをできる能力がある奴が生まれない。翼の城とは、行き来するための設備があるから来ているというだけで」
「じゃあ、たまたまそういう魔法に巻き込まれたりして行き来できた人がいたのかもしれないですね。健吾さんだって、この世界にはそういう魔法も設備ももともとないのに、月の王の術式に巻き込まれて体ごと翼の城に渡りましたから」
魔女オリザをまっすぐに見て僕が言うと、魔女オリザは巧に訊いた。
「若芽の君、この者は?」
「俺のダチだ、気にすんな。それで、楽人の国が健吾をさらった理由も同じってことでいいのか。そもそも使節団は最初からそのつもりで翼の城に来たのか」
「そのつもり、というのは、風の王子をさらうつもりで、ということか?いや、そうではなかったらしい。これまでの伝統通りに次の宮廷戦士団長の候補である戦士を送り届けた先で風の王子に出くわして、使節団の一人が、その、ナイトレイヴンの鴫沢レンがいる、と王に通信魔法で伝えたらしい」
「あー、いろいろおかしいだろ。王とラフィーン以外の奴もナイトレイヴンを知ってるってことか?それに、そんなにほいほい王と通信魔法で繋げられるものかよ。世界の境を越えて通信するとか、よくやる」
「何故楽人の国の者たちがナイトレイヴンというモノを知っていたかはわからん。ただ、使節団にいた、鴫沢レンに気づいた使節団員というのが王の幼なじみで、それが通信魔法に長けていたらしい。それで風の王子のことが直接王に伝わり、王が連れてこいと言い、そしてさらった、と」
「何でいきなりさらうってことになるんだ。箱に入れて連れていくっていうのだっておかしいだろ」
「まあ、風の王子のこの城での立場をきいて、普通に連れて行きたいと女王に言っても無理だと思ったのかもしれないな。それと、あちらとしては、あのコンテナに人を入れて運ぶのは普通のことらしい。もともと国許から翼の城に戦士を連れてくるのにも、戦士のコンディションを保つことを目的としてそのコンテナに入れて連れてきていたからな。行きで空になった箱にモノを詰めて連れて行くだけの話だったんだろう」
そこで、ヌビエラがしみじみ言った。
「楽人の国っていうのはたがが外れたときには突き進んで極端なことをすることがありますものねえ。でも、どうして楽人の国の戦士は何を考えて自分の国の失点を告げ口するような真似をしたんでしょう。王のいとことはいえ、国での自分の立場は間違いなく悪くなるでしょうに」
「どうかな。王の希望を自身の希望として話しただけかもしれない」
なるほど。国として良くなかった行いは謝罪し、王としてはただただ頭を下げるけど、臣下を使って欲しいものは手に入れる、と。
真田は鼻息を荒くしながら、
「まあ、鴫沢レンのとんでもない強火ファンが異世界にもいることはわかりました。それで、どうして私に連絡を取りたかったんです?その話に何で私が関係してくるのかわからないんですけど」
「そうだったな、そのことを言わないとならなかった。お前には、ナイトレイヴンが何なのか、鴫沢レンがどういうものか、母上に説明に来てほしいんだが」
え、どういうこと?




