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魔女の呪いは恋になる  作者: 弓園千尋
第五章 瑠璃
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第6話 司の提案

「あー、あれだな。人魚姫、だっけか。こっちの世界の物語で見たんだが。それに似てるな」

 みーちゃんが言った。何の気なしに言ったのだろうけど、私は固まる。そうだ、人魚姫だ。真田が言ってた。まるで人魚姫みたいですね、って。私は人魚姫の物語はあまり知らない。アニメとか絵本とか、そういうので知らないのかと真田に訊かれたけど、うちはそういうのに縁がなかったから。こちらに戻った後、調べようと思えばいくらでも調べられたけど、調べなかった。あまりに核心をついていたら嫌だから。

 司さんが不思議そうにみーちゃんを見て、

「何で人魚姫なんて知ってるの」

「いや、マリアが俺とか王子に絵本の読み聞かせっての?それをやってくれたりしたんだが、そのうちの一冊でな」

「私、その物語、知りませんわ。どんなお話ですの?」

「あー、えっとだな、人魚っていう海の中に生きているモノが陸に住む王子に恋をするんだな。で、王子のことが好きすぎて人間になりたいって思うんだよ。そのために魔女と取引をして、美しい声と引き替えに人間になる薬をもらうんだ」

「あら、そうですの。確かに似ていますわねえ。それでそのお姫様は王子と会えるんです?薬をもらって人間になれても、王子と会えなかったら意味がないですわ」

「会えるよ。でも、声が出ないから話せないし、恋仲っぽいところまでいくけど結局王子は他の女を選んで結婚する、っていう。それで人魚姫は死んでしまうんだよな」

「どうして死ぬんです?そこに死ぬ要素があります?」

「確か、魔女との取引の中で、王子の愛を得られなかったら海の泡になって死んでしまう、とかいうのが条件としてあったんじゃないかな」

「それは納得ですわ。声を差し出しただけでは、確かに釣り合いが……いいええ、それはお話の中の魔女ですものね。ミイヤ姉様はもっと心がおおらかですよ」

 ヌビエラは乾いた笑いをした。でもそのせいで、やっぱり巧さんや司さんたちの視線が疑い深げなものなっていた。それが私にちらちらと向く。でも私はそれをいなすとか、そういう余裕はない。みーちゃんが話した人魚姫の結末にとらわれていたから。そうか、それで真田は言っていたんだ。人形姫みたいだ、と。

 でも、全然違うよ。魔女と取引したからといって、その結果どうなったからといって、私が泡になって消えることはない。だから、そこまで悲劇的にはならないよ?

「それじゃ、目的も果たしたし、帰るか。帰りは転移魔法を使えよ」

 巧さんが私に言う。司さんが気遣わしげに、

「僕の家の庭に転移できる?疲れたんだったら、やめようか?」

「いえ、やります」

 転移魔法は、翼の城にいた頃に数え切れないほど使った。健吾さんも真田も得意じゃなかったから。だから、大丈夫。もっと大変な状況のときだって、私は間違えずに使えたから。

 そして、私たちは無事に司さんの家の庭に転移した。ヤスオは手のひらサイズになっていた。

 ヌビエラが言った。

「それでは、次はアレクシスの体と精神を一つにしないとならないですわねえ。それが出来たら、鍵の制作にとりかかりますわ。ただ、すぐにはできませんけど」

「どれくらいかかる?」

 巧さんの問いに、ヌビエラは少し考えて、

「そうですね……翼の城の時間で、一年くらい後、ですかしら」

「そんなにかかるのかよ!」

 巧さんが声を上げる。うん、気持ちはわかる。それって、こっちの時間でも一年くらい、ってことだから。

 ヌビエラは困ったように、

「だって、仕方がないですわ。材料が一年に一度しか手に入らないんですもの。クエヌキ草の花からとった蜜蝋で型をとらないとならないから」

 クエヌキ草の季節は春らしい。咲いた後、密をとって、それを蝋にして、型を作って、とやっていると、最短でも夏にはなっているんだとか。

 なので、一年後、とヌビエラは言ったのだ。

「その蜜蝋でないといけないんですか?」

 私が訊くと、ヌビエラは困ったように、

「そうなの。クエヌキ草からとった蜜蝋には特殊な効果があって。それでコンテナの魔力に作用して開けるんですよ。コンテナの鍵穴に鍵の形が合っているだけではだめなのよね。形を合わせるだけなら、できる人はそれなりにいるとは思うのだけど」

「まあ、そんなにがっかりすんな。月の王の術式が起動して王子と健吾の入れ替えが起こるのは二、三年とか先なんだろ。それまでには鍵ができるんだから、いいんじゃないか」

 みーちゃんが言う。と、そこで司さんが言った。

「それなんだけど、もっと起動時期が早まるようにできないかなって思ってるんだよね」

「おい、お前、まさかもう改造した後とか言うんじゃないよな?」

 巧さんが少し焦ったように言う。司さんは肩を竦めて見せた。

「してないよ。元通りに復旧してるだけ。でも、術式を見れば見るほど何とかなるんじゃないかっていう気がして。だってあれ、一定の期間を設定しているように見えるけど、よくよく調べたら、術を組んだ本人のところで期間を変えられる仕様になってるよ?」

「……ルエットはそんなこと言ってなかったぞ」

「多分、ルエットは術式のその辺りは見るのも危ないと思って見てないんじゃないかな。一つ間違ったら術式全体の作用に影響しそうな箇所だから」

「お前はまた、危ないことをやってんじゃねえよ」

 巧さんは呆れたように言う。

 私はおそるおそる司さんに訊いてみた。

「それで、あの、月の王の術式って、発動を早められるんですか。健吾さん、少しでも早く帰ってこられた方がいいと思うんです」

「そうだね。でも、そのためには、今の月の王に会いに行かないと。さっきも言った通り、術式の起動時期を変えようと思ったら、術者である月の王の意思が必要だから」


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