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魔女の呪いは恋になる  作者: 弓園千尋
第五章 瑠璃
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第2話 魔女のクラフト

 巧さんも司さんもみーちゃんも、画面の中に映っていた三人も、ヌビエラを見た。ヌビエラは皆の視線を集めていることに気づいていないようだった。少し考えた後、何かに思い至ったようで、心の底から喜びの表情を見せた。

「ああ、わかりました!私が落としたモノのことを言っているんですね?探していたんですよ、入れていた袋に穴があいていて、そこから落としてしまったので。この世界で落としたのは間違いないのだけど、誰かに拾われて、使われたらどうしよう、って。それで、ライトとナイフはどこにあるんですか?」

「消えた」

 ため息混じりに巧さんが言うと、ヌビエラは今度はびっくりしたような表情になり、

「消えた?どういうことです?あれが消えるなんて、とんでもない魔力とぶつかったりしたらそういうこともあるかもしれませんけど、この世界で

そんなことってまず起こらないでしょう」

「ライトの方は、俺とぶつかって消えた。ナイフの方はこいつの……司の結界にぶつかって消えた」

 巧さんが言うと、ヌビエラは納得したように何度も頷いていた。

「なるほど、それなら納得がいきますわ。あなたとぶつかったのなら、そういうことにもなるでしょうし、そちらの方もこの家の結界を張った方ということなら、そこまで強固な結界も張れるでしょう。それで、ぶつかったというのはどういう意味です?誰かがぶつけてきたということですよね?あれに自動的に動くような機能はつけていないので」

 巧さんの傍に立っていた司さんが言う。

「あなたの言う通りですよ、五番目の魔女。あの光る玉を僕に投げつけてきた人がいて、巧はそれを庇って怪我を負ったんです。結界で防御したのも同じ人間に攻撃されたからで」

 そして私を見ながら、

「ごめんね、どうして巧が魔女のクラフトにやられたのか、今まで詳しいことを説明してなかったから驚いたよね」

 そう言って、司さんは詳しいことを教えてくれた。健吾さんのままははが魔女のクラフトを拾って、それを持って巧さんを殺しにこの家に来たこと。司さんに最初に見つかって、健吾さんのままははは光る玉を司さんに投げつけてきたこと。その玉はものすごい威力があって、不意をつかれて動けなかった司さんを巧さんが護り、深いダメージを負って眠りに就いたこと。

 健吾さんのままはははナイフも持っていて、今度はそれで巧さんを刺そうとしたけど、それは司さんが結界で弾いて、その余波が居合わせた健吾さんの妹に及びそうになったけど、それはアレクシス王子が身を挺して護って、それで王子も眠りにつくことになったんだって。

 後のことは、私がきかされていた通りだった。巧さんを起こすためには魔力が必要で、それを集めるために健吾さんの妹にアイルランドに行ってもらった、と。

 もしかして、画面に映ってる綺麗な子が健吾さんの妹なのかな。

 話をきいて、ヌビエラはにっこりとほほえんで巧さんに言った。

「良かったですわ、あのライトにぶつかったのがあなたで。ほかの人だったら、一瞬で蒸発してしまったでしょうから。被害は最小限でした」

「確かにそうかもしれんが、そもそもお前さんがクラフトを落とさなければ良かったんだろ。というか、何でこの世界に来てるんだ」

 巧さんが訊いたが、ヌビエラが答えるより先にみーちゃんが、

「おい、そんなことよりこいつをどうするか決めようぜ。俺もいかんせん握力がだな」

 と、襟首をつかんでいたモノを目で示す。

「ああ、そっか。まずはそっちか。お前、もうマリアに手を出すなよ。代わりをさらうこともあきらめろ。それと、奪ってたマリアの心は全部返せ。まだ少しかけらを持ってるだろ、お前」

 画面の中に映っていた老女の表情が少し強ばった。が、次の瞬間には無表情になる。

 妖精の王が何か言った。私には何かはききとれなかった。それは別にいいの。多分、私が聞く必要のないことだから。

 巧さんと妖精の王の間でやりとりがなされ、妖精の王は巧さんが出した条件を全て呑んだらしかった。みーちゃんが手を離すと、妖精の王はゆっくり姿を消した。妖精たちも半分くらいがそれについていく。

「さて、次はお前さんだな」

 巧さんはヌビエラに向き直る。それを司さんがやんわりと言った。

「とりあえず、場所を移そう。通話はもう切ることにして」

 そして私たちは応接間に移った。巧さんの対面のソファにヌビエラは座ると、隣に座るように私を手招きした。巧さんは無反応だったけど、司さんが頷いてみせたので、私はヌビエラの隣に座った。司さんは巧さんの隣に座り、みーちゃんが上座に座る。

 早速と巧さんがヌビエラに訊いた。

「それで、何でお前さんはこの世界に来てるんだ」

「弟に会いに来たんです。弟は父親の跡を継ぐための修行でこの世界に来ているんですけど、久しぶりに会いたくなって。翼の城に身代わりの子はいるけど、そんなんじゃなくて、本当の弟に。でも、見つからなくって。この世界をさまよっているうちに、一緒に来ていた甥っこともはぐれて、クラフトまで落として。本当に、あの子、どこにいるんです?知りません?」

「あの子、っていうのは、王子のことですか、甥ごさんのことですか」

 司さんが訊ねる。ヌビエラは困ったような表情になりながら、

「両方ですわ。弟の見た目はこちらの世界で馴染むのにとっても良さそうなので、あまりひどい目には遭ってないと思うんですよね、いろいろと器用な子ですし。でも、甥っこはちょっと見た目がこちらの世界では珍しいので、いじめられたりしていないか心配で。勿論、隠行の術は心得ているので、隠れることは苦労しないですけど、それでも小心者なので、ちょっと驚いたりしたりすると、術が解けてしまうんです」

「甥っていうと、一番目の魔女の……何番目の子だ」

 巧さんが少し顔をしかめながら言う。ヌビエラは頷いた。

「何番目、というのは私もわからないですわねえ。姉もわかってないかも?姉は次から次に子どもを産むから。まあ、最初の頃に姉が産んだうちの一人ですわ、多分。一番引っ込み思案だけど、気が優しくて、私の方向音痴をいつも助けてくれるんですよ。ヤスオって言うんですけど」

「こちらの世界では珍しい、ってどんな見た目なんです?」

 司さんが訊くと、ヌビエラは手提げ袋の中から小さなコンパクトを取り出し、それを開いて、その上に小さな映像を浮かび上がらせた。これもきっと魔法の道具なんだろうな。

 そしてそこに浮かんでいたモノの姿は、

「……アリクイ?」

 私は呟き、それでちょっと思い浮かんだことがあって、司さんに言った。

「あの、私たちが世界の波に呑まれる寸前、真田は学校がある島でオオアリクイと戦った、って言ってたんですけど」

 司さんは驚いたような表情を、巧さんは苦々しい表情をした。みーちゃんがあっさりと、

「じゃあ、ごまだんごが戦った相手ってのが、このヤスオってことか?」

「かも、しれません……」

「あら、まあ。じゃあ、ヤスオは今どこに?その場所にまだいるんでしょうか?」

 ヌビエラが喜びの声を上げる。巧さんはそれを手で制して、

「まだ喜ぶのは早いぞ。真田がそいつと戦ってからもう結構な時間が過ぎてる。それに、真田が戦った相手が本当にそいつかも確かじゃないだろ」

 でも、この辺りにオオアリクイみたいな生き物がいるわけないんだし、間違いないんじゃないかしら。

 私はヌビエラにひとこと言って、ヤスオの映像を写真に撮れるか試してみた。びっくりするくらいはっきりと写真に撮れた。そしてその写真を真田に送り、学友を逃がすために戦った相手というのはこの動物だったか、と訊いた。

 メッセージはすぐに返ってきた。間違いなくこの動物だった、と返ってきた。真田によると、真田が怪我をして運び出された後、島の捜索が行われたのだけど、それらしき生き物は見つからなかったのだとか。

 話をきいて、ヌビエラは困ったような表情になった。

「それではきっと、ヤスオはまだその島にいますわね。知らない大勢の人たちにそんな風に探されたのでは、いつ見つかったものではないと心配になって、余計隠れてしまいますわ。わかりました、ありがとうございます。早速その島に行ってみます」

「待て。お前、方向音痴なんだろ。俺が送っていってやるし、何だったら島の探査もして甥っこを探してやってもいい。だから、俺たちに手を貸してくれないか。楽人の国が作ったとある箱の鍵を作ってほしい」

 え、ヌビエラにあの箱の鍵を作ることってできるの?


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