第1話 小さな親切が大きなモノに繋がる
昨日、町で道案内をした女性がいきなり司さんの結界をハサミで切り始め、中に入れるようにすると、本当に中に入ってしまった。私もあわてて中に入る。玄関の鍵は開いていて、スムーズに開いた。
そして、中に入ったところで、私たちは立ち止まった。妖精の王を片手で捕まえている巧さんがいたから。その後ろに、初めて会う長い黒髪の綺麗な人と、司さんがいた。
巧さんは、翼の城で会ったそのままだった。高校二年生の司さんよりちょっと背が高いかな?っていう感じで、かっこいいのと綺麗なのとがちょうどいい感じで釣り合いのとれた容姿だ。
ううん、そんなことはどうでも良くって。
巧さんの言葉が衝撃的だった。
え、この人が五番目の魔女?
私は私のすぐ隣にいた女性を驚きの目で見る。魔力付与がとにかく得意で、その人が作ったモノは世界を傾けたりすることもある、という魔女ヌビエラ。
というか、私、魔女ヌビエラは翼の城で見たことあるけど、こんなじゃなかった。もっと体にめりはりのあるスレンダー美人で、三番目の魔女オリザとうり二つだった。
私は遠慮がちに、
「あの……翼の城で見かけたときと全然姿が違ったので、わかりませんでした」
「あら、あなた、翼の城にいたことがあるの?まあ、世間って狭いのねえ。でも良かったわ、この世界でよくしてくれた人があそこを知っている人で。言っていいことと悪いことの区別とか考えずに話せるもの」
当の本人はころころと笑う。どこにでもいそうなおばさん、という感じだ。これが、あの、いろんな世界で恐れられるようなモノを作り出す魔女なんだろうか。
翼の城で見たときと外見が違うのは、
「あれはオリザ姉様に似せた人形を動かしていただけなのよ。勿論、視覚とか聴覚とかを私と同調させて、周りで何が起きているかわかるようにして、私は自分の部屋に引きこもっていたってわけ。だって、七人いる姉妹のうち、私と一番上の姉様以外は、みんな綺麗でしょう?」
そう、なのかな?私は一番上の魔女を見たことはないからわからないけど、二番目から下の魔女たちは見たことがある。二番目は無表情だけど日本人形みたいな感じの美人で、三番目はいかにも武術ができそうっていう感じの凛々しい感じの美人。四番目はちょっと気怠げな感じの魅力的な人っていう感じで、六番目はボーイッシュな感じの美少女、七番目は大きな目と巻き毛が印象的な、女の子らしい感じの美少女だった。
巧さんは私を見た。
「お前、ミルクティ、だな。何でこいつと知り合いなんだ。翼の城にいた頃から知ってたのか?」
「違います。昨日、たまたま道に迷っているところを案内したんです。迷子と落とし物を捜しているのだけど、自分も道に迷ってしまった、って言われて、それで警察まで」
それをきいて、司さんの傍にいた髪の長い人が言った。
「ドジッ子かよ」
声をきくまで、その人が男性とは思わなかった。よく見ると男性の体つきなんだけど、見た目がとても綺麗で、男とも女とも思わなかった。
そして私はその声に覚えがあった。
「もしかして……みーちゃん?」
「おうよ。久しぶりだな」
にかっとみーちゃんは笑う。んー、みーちゃんだと思ったらその笑い方は似合ってるんだけど、今のその容姿にはちょっと違和感があるというか。
「縁、お客様?」
奥から神村先生の声がした。司さんが慌てて奥に入っていく。巧さんもそれに続こうとしたけど、妖精の王の襟首を掴んでいたのを思い出して、それをみーちゃんに押しつけた。
「お前が確保してろ」
「えー、こいつ、まだ要る?」
「マリアの心をどうにかしないとならないんだろ」
「おお、寝てる間の状況も把握してたのか」
「当然だろ。ていうか、司がいつ無茶するかとか、全然心休まらないっての」
みーちゃんが妖精の王の襟首をしっかり掴んだのを見届けて、巧さんも奥に入っていった。奥から、神村先生が、あらお帰りなさい、と声を上げているのが聞こえてきた。あれ、神村先生は異世界のこととか魔法のこととか知らないって司さんからはきいてたけど、本当は知ってるのかな。
魔女ヌビエラは妖精の王を覗きこんで言った。
「あらあ、これは本当に何でこんなところにいるのかしら、っていう存在ね。ちょっと逃げられたりしたら厄介だから、目印をつけておきましょうか」
そう言って、ヌビエラは下げていた手提げ袋から短い毛糸を取り出し、それを妖精の王の指にくくりつけた。途端に、妖精の王は勢いをなくした。
私はみーちゃんに訊ねた。
「これ、何なの?」
「アイルランドとかいうところの妖精の王だ」
私は驚きで固まる。妖精たちがわらわらと集まってきて、口々に、
「王をはなして」
「かわいそうよ、はなして」
その抗議の声はみーちゃんとヌビエラに向かっていた。ヌビエラはため息をつきながら、
「どこがかわいそうなものですか。そんなことを言っていたら、あなたたちを焼き殺しますよ」
妖精たちは声にならない悲鳴を上げて家の奥へと逃げていった。
私たちはそれについていく。みーちゃんは妖精の王を引きずっての移動だ。
神村先生はいなかった。廊下で私たちを待っていた司さんによると、自分の部屋に戻っていったんだって。ちょっと今日調子が悪いから、って。大丈夫かな。
妖精たちが行ったのは家の奥、私も今まで入ったことがない場所だった。確か、司さんの部屋とかがあるんじゃなかったかな。
私の予想は正解で、妖精たちが入っていったのは司さんの部屋だった。部屋には結構大きいディスプレイがあって、そこには外国の人が映っていた。体が大きい男の人と、小柄なおばあさんと、小学生くらいの女の子。男の人は結構ハンサムで、女の子はものすごく綺麗だった。
ディスプレイ正面の椅子には巧さんが座っていた。司さんがその傍に立つ。
「お前ら、自分がやったことをわかってるんだろうな」
巧さんはちょっと怒りが籠もったような声てディスプレイに向かって言った。男の人は恐縮している感じだった。女の子は戸惑っている感じ?
小柄なおばあさんだけが淡々とした様子で何か言っていた。日本語ではないから、言っている内容はわからない。画面の中の男の人が通訳してくれる。
「マリアの心を取り戻すにはこれしかなかった、と大ばあさまは言っている。そもそも、あなたが眠りにつかなければこんなことにはならなかった」
「それは、お前んとこの一族のヤツがとんでもない女を嫁にしたことが悪いんだろ。いきなり人を殺そうとするとか、まともじゃないぞ」
え、どういうこと?
私は驚きで固まる。
画面の中の老婆はまた何か言い、男性が訳す。
「人間は誰しも弱いもの。力ある道具を手にしたら、その魔力に負けてしまうことも人間らしい心の動きといえる」
「開き直るな。だったら、銃を持った人間はそれで人を撃っても問題なしになるのかよ。違うだろ」
それに対して、老婆は、
「そのへんにある銃と魔女が作りし道具では、魅力の度合いが違う。魔女に力あるモノを渡されて、血迷わない者の方が少ないのではないか」
「それも屁理屈だろ。渡されたからってそれを使って人を殺しに来たりなんかしないっての。ていうか、何でお前、人間にあんな物騒なモノを渡したんだよ」
巧さんがヌビエラを見る。ヌビエラは首を傾げ、
「あら、それって、もしかして私が作ったモノのことですか?私、この世界では誰にもクラフトを渡してはいませんが」
え、どういうこと?




