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魔女の呪いは恋になる  作者: 弓園千尋
第四章 司
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第8話 目覚め

 僕は結界の機能を利用して、玄関の外の様子を確認した。

 すると、思った通り、瑠璃が立っていた。約束の時間になったということらしい。

 本当は、何かあったときのために、ビデオ通話が始まる時点で部屋の中に控えてもらうつもりだったんだ。でも、通話の開始が早まったから、僕は一人で大ばあさまとマリアに会うことになった。

 瑠璃はこの家の様子がおかしいと察しているらしく、険しい表情をしていた。

「どうしよう……中に入りたくても、入れないし。何だか、結界でロックされてるみたい」

 うん、正解だね。外に影響が出ないように、結界で家の外と中の行き来はできないようにしてある。

 瑠璃はスマホを取り出すと、電話をし始めた。多分、真田に電話してるのかな?

 予想通り、真田の声がスマホから聞こえた。

「おはようございます。どうしました、瑠璃さん」

「今、司さんの家の前まで来ているんだけど、結界のせいで入れなくなっていて」

「今日って、確か、アイルランドの妖精と繋がってる一族とビデオ通話することになっていたんでしたっけ。それで何か問題が起きてる……?」

「まさか……。でも、もしそうだとしたら、神村先生が大変なことになってるんじゃ」

 うん、お母さんのことを真っ先に心配してくれてありがとう。本当にいい子だね、この子は。お母さんが応援したくなるのもわかる。

 瑠璃は庭に回ろうとしたけど、勿論そちらも結界で閉ざしてある。瑠璃は目に見えておろおろし始めた。

「司さんは何とかなるだろうけど、神村先生は普通の人だから」

「司さんが何か対策してるでしょ」

 真田はあっさり言う。確かにしてたけど、十分じゃなかったんだよ。

「とにかく、様子見ですかね。結界をこじ開けるようなことをして、バランスを崩した結果、辺りに影響が出たら困りますから。空間ごとドカン、みたいになる可能性だってなくはないでしょ」

「それは……」

 瑠璃が言い淀んだとき、瑠璃の背後、敷地の外から控えめな声がした。

「あの、このおうち、どうかしたんですか?」

 門の傍の庭木の間から中を窺うように、ふくよかな体型の中年の女性がこちらを見ていた。

 全く知らない女性だ。でも、ただ者でないことはわかる。だって、家の敷地全体に掛けてある認識阻害の効果がある結界をものともせずにこうやって話しかけてきてるんだから。

「おい、外、どうなってる」

 みーちゃんの声に、僕は視界を自分がいる場所に戻した。

 妖精の上位者は、その姿を変えていた。先ほどまでは美しさを感じさせる人間のような姿をしていたのに、ところどころが崩れて、霧のようになっている。

「ごめん、ちょっと知り合いが……瑠璃さんが来てた」

「おお、そうか。中に入れなくて困ってたか」

「うん。でも、結界を解くわけにはいかないからね。で、これ、今、どういう状況?」

「おお、お前は俺の結界で守られてるからわからないだろうけど、向こうは魔力を放出しまくって、その濃度でこっちの結界を潰そうって魂胆だ。そうやって自身の魔力に酔わせた上で、精神干渉を改めてしようってところだろ」

「魔力?それってどれくらいの濃度なのかな。もったいないなあ、巧に与えれば助かるのに」

 でも、巧の部屋には守りのための結界を張ってあって、残念だけどこの部屋の魔力は届かない。

 でも、みーちゃんはにやりと笑った。

「いいところに気がついたな。あそこを見ろ」

 みーちゃんは顎でとある一点を僕に示していた。そこを見ると、いつの間にか、一枚の呪符が張られていた。というか、さっきまでそこ、何もなかったよ?少なくとも僕がビデオ通話を始めたときには。

「お前が向こうに取り込まれかけてるときに、設置させてもらった。あれは魔力の取り込み口で、対になってる方に魔力が流れ込む仕組みになってる。対の方は巧に貼り付け済みだ」

「巧に?でも、巧の部屋には結界が」

「お前の結界なんぞ、越える方法はあるっての」

 みーちゃんは軽く言うけど、僕はちょっとヘコむ。

「僕、巧の部屋の結界は結構気合いを入れて張ったんだけど」

「おう。なかなかだったぞ。俺も気合いを入れて符を送り込んだ。符自体にもそういうのをすり抜けられるような機能がついてたからな。まあ、神人の国の最高峰を行く奴が念入りに作ったモノだからな。気にすんな」

 何だ、符だけを送り込んだのか、となるわけないじゃないか。これはまた研究しないと。

 と、僕は違和感を感じた。僕がこの家に張っている結界。それに何か切れ目が発生している。はさみで切るような感触。これって……?

 僕はまた玄関前に意識を戻した。そこには、先ほどの見知らぬ女性がいて、本当にハサミを使って僕の結界を切っている。

 傍にいた瑠璃がうろたえながら、

「あの、すみません、そういうことやめてもらえますか。中はきっと大変なことになっていて、それを外に出さないためのものなので」

「駄目ですよ、そういう考え方では。中で問題が起きているのなら、介入しないと。安心してください、私がお手伝いしますから。昨日、助けてもらったお礼です。道を案内してくださってありがとうございました」

「えっと……どういたしまして?」

 あたふたしながらも、瑠璃はきちんと礼を言う。どうやら、女性とは知り合い、というか、昨日困っているところを助けた相手らしい。瑠璃はいろいろときちんとしてるなあ。

 女性は薄くほほえんだ。

「大丈夫ですよ、私もきちんと責任をとってお手伝いしますので。中のモノが外に出ないよう、ほら、ちゃんと備えもしてあります」

 確かに、僕の結界の外にもう一つ結界が設置されていた。家の敷地の境界上の数カ所に、水晶で出来た立方体がいつの間にか置かれていて、そこを拠点に結界が張られている。いつの間に。

 瑠璃も同じことを感じたらしい。その女性を怪訝そうに見て、

「あの、あなたは一体……?」

「昨日お話しした通りですよ。迷子になった甥と落とし物を探しに来ただけの者です。警戒しないで大丈夫ですよ」

 話すうちに、女性は僕の結界をハサミで切り取り、人が通れるほどの大きさの入り口を作ってしまった。

「さあ、参りましょう」

 外から見た結界の中は、明らかに異空間という感じだった。瑠璃は中に入るのをためらう。

 と、みーちゃんの声がした。

「おい、魔力の流れが妙だぞ。外に向かってる。あいつが動く!」

 僕は瞬時に視界の切り替えを行った。僕たちの目の前にいた妖精の上位者の姿が揺らぎ消えた。まずい、瑠璃たちの方に行ったんだ。お母さんを人質にとれないから、瑠璃たちを代わりにしようと思ったか、もしくは僕の代わりに瑠璃たちのどちらかを連れていくことにしたか。

 みーちゃんの判断は速かった。すぐさま結界をとき、部屋を出ていった。僕も遅れずにすぐに廊下に出る。

 妖精の上位者の姿はどこにもなかった。もう玄関まで行ってしまったらしい。僕たちは廊下を走る。ちょっとこの家、広いんだよね。

 廊下を走りながら、僕は空間の状態に疑問を持った。なんか、普通だ。さっき外から見た感じだと、家の中は異空間っていう感じで、魔力が異様に渦巻いていたのに、今は全然何ともない。

 と、玄関の手前の廊下を曲がるところでみーちゃんが立ち止まった。僕も立ち止まる。

 

 そこに、巧がいた。


 片手で妖精の上位者の襟首を捕まえている。

 巧は僕を振り返って言った。

「おう、おはよ。こいつ、捕まえておいたぜ」

 周囲に妖精たちが沢山出現して、巧に抗議の声を上げる。


 王を放して。

 乱暴者よ、放して。


「うるせえ。よその土地にまで来て人をさらおうとかしてたくせに、どっちが乱暴だ」

 そして巧は玄関まで行って、上がり框の方へ声を掛ける。

「で、何であんたがここにいるんだ。翼の城の五番目の魔女」

 え、五番目の魔女?

 僕は驚いて、さっき結界をハサミで切っていた女性をまじまじと見た。


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