第4話 マリアとの面談
マリアは、なぜ自分だけがアイルランドの親戚のところに預けられているかについて、
「お母さんがお父さんのことを好きすぎてるから、私はここに預けられたんでしょう?私はずっと邪魔者だったから」
と言った。マリアの傍にはグラハムが映っているのだけど、その眉間にははっきりとした深い皺が寄っていた。
妖精に化かされた結果、マリアの本音が出て来たってところかな?
僕は何気ない風を装って訊く。
「お母さんとお父さん、そんなに仲が良かったんだ?」
「ううん、お母さんがお父さんを好きすぎるの。お父さんは本当は違う人が好きなんだけど、その人が死んじゃったから、仕方なく私のお母さんといるの。私っていう子どももいるし」
……なんかストレートだなあ。グラハムはこの話をやめさせたそうな顔をしてるけど、僕はやめない。
「そうなんだ。それならどうしてマリアちゃんだけアイルランドだったんだろう?」
「マリアはお父さんにとって大事な子どもじゃないから。お父さんにとって大事なのは、死んだ奥さんの間にできた子ども。私のお兄さんだけなの」
「お兄さん?駆さんのこと?」
「違う。健吾お兄さんっていうの。私は会ったことなくて。多分、死んじゃった……?」
画面の端に映っているグラハムの表情がますます険しくなる。まあまあ、様子を見ようよ。
「多分、ってどういうこと?」
「行方不明なの。それはあなたも知っているでしょう?」
おや、まともな認識に戻ったぞ?
僕はほほえみえながら言う。
「そうだったね。そのことでマリアちゃんのお父さんは僕たちに会いに来たんだった。僕と僕の友だちの巧に。巧のことは覚えてるよね?」
「うん。白い髪の人……ごめんなさい、その人のことを思い出したら嫌な気分になるの。その人の話、やめてもらっていい?」
「そうなの?別に巧はマリアちゃんに嫌われるようなことはしてないと思うけど。というか、巧はマリアちゃんとはほぼ話してないよね?覚えてるかな」
「ごめんなさい、思い出したくないの。怖いの」
「怖い?巧が?巧は何もしてないよ?」
「ごめんなさい。嫌な感じがするの。怖いの、あの人」
これは妖精たちの感情が乗ってるのかな?
僕は困ったような表情をしながら言う。
「困ったな、巧は僕の友だちで本当にいい奴なんだけど。男の人が苦手とか、そういうわけじゃないんだよね?例えば僕とか」
「……本当は、あなたもちょっと怖い。でも、あの白い髪の人ほどじゃない」
うん、これこそ妖精の感想だね。
僕は自分の周りにいる妖精たちを見た。妖精たちは無表情だ。
僕はまた訊く。
「それじゃ、マリアちゃんには、怖い人とそうでない人がいるってことかな。傍にいるグラハムはどう?」
「グラハムは大丈夫。怖くない」
「そう。駆さんは?キミのお兄さん」
「お兄ちゃんは怖くない」
「お父さんは?」
「大丈夫」
「じゃあ、おじいさんは?お父さんのお父さん」
グラハムの表情が動いた。そう、これからが本題ってところかな。
マリアの表情は動かない。
「おじいちゃん……わからない」
「わからない?どういう意味?アイルランドに行ってから、マリアちゃんの散歩につきあってくれてたんでしょう?」
妖精たちが息づく大地から魔力を集めて回るのを、マリアは散歩だと周囲に説明していた。まあ、一族で一番妖精と意思疎通ができる大ばあさまにはそれが文字通りの散歩ではないとバレていたらしいけど。
マリアは僕の問いに黙って頷く。この話題は嫌ではないらしい。
「マリアちゃんのおじいさんはどんな人?体が大きいっていうのは前にみーちゃんからきいたけど。みーちゃんのことはわかる?」
「みーちゃん……白い猫?」
「そう。みーちゃんのことはわかるんだ?」
「わかる。……けど、おかしいよね、猫が喋るなんて。何で私、猫が喋るなんて思ってるんだろう」
マリアの表情が苦しそうに歪む。やっぱり、みーちゃんは妖精やその王にとって脅威には違いないんだ。だから、それに関する記憶は歪めようとしている。
僕はほほえみながら言った。
「みーちゃんは特別だからね。だから、喋って全然おかしくないんだよ。僕もみーちゃんとよく話すし。マリアちゃんもそうなんだね?どんな話をしたの?」
「それ……よく覚えてない。みーちゃんとはよく話してた。けど、何を話してたか。魔力……ううん、そんなの私知らない。知らないの。それを集めたらどうなるか、私、知らない」
「そうなんだ?間違っていてもいいから、今、マリアちゃんの頭の中に浮かんでいる言葉を教えて?」
「知らないの、知らないったら知らない!」
マリアは泣き出していた。僕の周りにいた妖精たちが抗議の声を上げる。
かわいそう、やめてあげて。
やめてあげて、この子の心が壊れる。
別れを早めるような話はやめてあげて。
僕は僕の周りにいる妖精たちに言った。
「別れを早めるって、誰との別れ?マリアちゃんのおじいさんのこと?マリアちゃんのおじいさん、妖精に惑わされたままでこちらの世界に戻ってこられていないよね?」
妖精たちは口早に言う。
違う。わかっているくせに。
わかっているくせに、意地悪。
思い出させないで、折角忘れているのに。
僕はその言葉を捕まえてマリアに言う。
「マリアちゃん、忘れてる、って妖精たちが言っている」
「嫌……嫌なの。あなた、怖い。あの白い髪の人よりも怖い」
「怖くないよ。ほら、その証拠に、マリアちゃん、僕の目を見て話が出来ているでしょう」
そう言ったとき、マリアの目と僕の目が合った。僕はその瞬間を捉えてマリアの脳内に一つの映像を送り込んだ。僕が二度だけ会ったことがある、アレクシス王子の姿だ。
途端に、マリアは悲鳴を上げた。




