第3話 やるべきこともう一つ
話が逸れた。
「じゃあ、健吾さんが本当にいつまでも無事かどうか保証がないから、箱の引き上げは出来る限り早めたい、と巧たちは考えてるってことだね?月の王の術式が発動するまでに王子の肉体と魂を結びつけていないといけないっていうのはどう考えてるんだろう?」
「それもわかっていて、近々王子の肉体を取りに行こうと思っているらしい。そのときが来たら、念のためにお前に錨の役をお願いしたいんだと」
目を瞑っても行ける場所だと本人は言いつつも、自分一人だけでの移動ではないので、保険を掛けておきたい、と。
「錨?ってことは、この世界で王子の体を保管してわけじゃないんだね」
「そうらしいな。とにかく安全で確実なところ、とは言ってたが」
「そうなんだ?本当は王子の体は僕が取りに行こうと思ってたんだけど、それじゃ難しそうだね?」
「ああ。お前には王子の術式の修復を頼むってさ。くれぐれも他の機能は付け足さないように、って言ってたぞ」
「しないよ、そんなこと。今、そんな余裕ないからね」
「っとにアブねえなあ。全部巧が言った通りじゃねえかよ」
みーちゃんの呟きに、僕は無言を貫く。まあ、僕らはつきあい長いから、巧がどんなことを言っていたかは想像つくけど。
「まあ、いろいろ話したけど、とにかくマリアを助けてやってくれ。その結果魔力が集まって巧が目覚めれば、いろいろ問題は解決するから」
……もしかしてマリアのことは放っておこうかなと少しでも思ったこと、見透かされてるとか?まあ、別にいいけど。
「わかってる。でも、巧たちが健吾さんが入ってる箱を引き上げたとしても、開けるのはどうするの。万が一、入れ替わりで王子が中に入る可能性だってあるでしょ」
「まあ、それは追々、かな。とりあえず、箱を翼の城に入れてしまえば、健吾の体は女王の不死の魔法の庇護下に戻るから、それでまずは安心したいってところだろ。もし王子が箱の中に入ったら、そのときは堂々と女王に言っていけばいい。女王なら箱は開けられるだろうし、もし無理だったら楽人の国と戦争でもすればいい。そうしたら、向こうは箱を閉じた人間を差し出してくるだろうぜ」
「女王はそこまでするかな?」
「するさ。健吾には王子と同等の庇護を与えると約束したんだ。それを破るってのは、女王の沽券に関わる。他の誰も女王を責めなくても、女王自身がそれを許さんさ」
そうだといいんだけど。
さて、マリアを助けないと、という話なのだけど、これを考えると僕は気が重くなる。いや、巧のために動いてくれた子なんだから、助けてあげるのが筋なのかなとは思うけど、アイルランドに行って魔力を集め始めて実質一ヶ月とちょっとだよ?それなのにもう妖精にしてやられるとか、やっぱり未熟なんだなあって感じ。まあ、そういう子どもを頼らざるを得ないっていうのが、そもそも間違いなんだけど。
僕はグラハムとは連絡を取り合っていて、どうやらグラハムの一族は、マリアのおじいさんの姿がどこにも見あたらない、ということを認識し始めたらしい。最近よく一緒に行動していたマリアに訊いても、「私、よくわからない」と言うだけで当てにならず。
そして当のマリアは、昼間は一見普通に生活しているけれど、よくぼんやりしていることがあり、そして夜には家を抜け出していることがあるという。
「お前にアイルランドに来てもらって、マリアと直接話をしてもらったらいいんだが」
グラハムはビデオ通話で僕に言う。僕は苦笑して、
「でも、こちらでミルクティの勉強を見てあげないといけないから。お母さんにも頼まれてるんだ。ネットでこうやってオンラインで話すくらいならいくらでもやるけど」
瑠璃のことを理由にして僕はやんわりと断る。マリアのことは助けないとと思ってるけど、僕自身がアイルランドに行くのは違うと思ってる。今の僕で妖精に対抗できるか、自信がないんだよね。ううん、妖精に捕まらないように自分だけを守ることはできる。でも、妖精の王のお気に入りになったマリアを妖精の王の手から奪い返すことまでできるかわからない。
巧なら間違いなく可能だろうけど。
グラハムの方は、僕がこう発言したことをチャンスと捉えたのか、そんな会話をした翌日にはマリアとオンラインで話せるようセッティングしてきた。こちらは夜も少し深い時間帯だけど、向こうは真昼だ。
僕は自分の部屋、マリアはアイルランドのグラハムの家に呼ばれて、そこで画面越しにマリアと話した。みーちゃんは僕の机の下に隠れて話をきくことにした。マリアに憑いている妖精を刺激したくないからだと言う。……でも、普通にこの部屋に妖精が飛んでるんだけど、それって意味あるのかな。
妖精たちは一度はこの家から消えたけど、いつの間にか戻ってきていた。これは僕を監視しに来たのかな?それとも巧を?まあいいけど。この鹿鳴の町にいる限りは、妖精たちに遅れをとることはない。
マリアは普通に話ができた。ただ、魔法とか妖精とかそういう言葉には反応しなかった。僕のことは日本で会ったことのある人、兄の友人、という風に認識していて、母親が魔女のクラフトで巧を害したこととかはすっぽり抜けている感じ。兄、というのは駆のことであって、健吾さんのことではない。
何で自分が母親と離れて暮らしているかについては、
「お母さんがお父さんのことを好きすぎてるから、私はここに預けられたんでしょう?私はずっと邪魔者だったから」
と言った。おや、これはいろいろと話がきけそうな感じがする。




