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魔女の呪いは恋になる  作者: 弓園千尋
第四章 司
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第2話 みーちゃんの疑念

「なんか言ったか?」

 突如耳元で声がして、僕はそっちを反射的に見た。

 僕のすぐ目の前に、白い猫みたいな生き物の顔があった。僕は思わずのけぞる。

 みーちゃんが僕の肩の上に乗っていた。式神だから重さを感じないのはわかるけど、いつの間に。というか、家の結界が反応しなかった。もしかして、すり抜けられた?

 僕が驚いている理由を正確に理解したらしいみーちゃんがふふんと鼻を鳴らした。

「あんな簡単な結界、通り抜けるのは簡単だろ。それより、俺がどうしたって?」

「うん、実はみーちゃん本体がアイルランドに行ったらどうだろうっていう話をしてたんだけど」

「まあそれは俺も考えたけどな。ただ、体のでかさがなあ」

「ああ、神人は僕らからするとかなり大きいんだっけ」

「そうだな。まあ、体の大きさを小さくすればいいんだが、そのサイズ調整も結構デリケートだからな」

 と、そこで真田が言った。

「あ、瑠璃さんから電話が掛かってきました。私、そっちに出ますね」

 そして真田はビデオ通話を切った。 

 画面を見つめていたみーちゃんが言った。

「今の、ごまだんごだよな」

「そうだね。翼の城では猫だった子だね。それでみーちゃん、自分の国での用事は済んだの?」

「ああ。向こうで仕事を幾つかこなしてきたから、しばらくこっちにいられるぞ。あと、ここに来る前に、ちょっと翼の城の近くに行ってみたんだが」

「それって大丈夫なの?」

 また女王の不興を買ったらどうするんだ。

 みーちゃんはそんなこと歯牙にも掛けていない様子で、

「まあ、城の中じゃないから。ほら、健吾が楽人の国に封じられた箱が落ちた峡谷があったろう、あそこに行ってみた。そしたら、巧とルエットに会えた。やっぱり健吾が入った箱を何とか引き上げられないかって考えてた」

「月の王の術式が発動すれば、健吾さんはこっちに戻れるって、巧たちは気づいてないの?」

 僕は少し意外に思って訊いた。巧ならわかりそうなものなのに。

 みーちゃんは僕の肩の上から、パソコンが置いてある机の傍の棚の上に飛び移った。

「健吾が入っている箱を無理に引き上げなくてもいいっていうのは、向こうもわかってた。月の王の術式が発動すれば、王子と健吾の居場所が入れ替わるから、っていうのはな。ただ、肝心の健吾が入ってる箱の仕様に問題があって。それで、出来れば早く引き上げた方がいいってことになってて」

「仕様?」

「ああ。あの箱は、中に入れた人間の肉体と精神を時間ごと凍結するんだが、肉体の方の凍結時間は三日だと」

「三日?」

 僕は絶句する。そんな話きいてない。

 みーちゃんは頷いた。

「そう。楽人の国の技術の限界らしい。魂の方は永久といっていい時間凍結させられるんだが、肉体の方は難しいらしくてな。で、それでいくと健吾はとっくに肉体に限界が来てる筈なんだが」

 それはつまり死んでるっていうことだけど、

「ちょっと待って、そんなはずないよ。もし健吾さんが死んでたら、月の王の術式に変化が出るからわかる。でも、昨日の夜、術式の修復作業をしたときには何も変化はなかった。健吾さんは生きてるよ。それに、瑠璃さんは、健吾さんが落ちた峡谷は女王の不死の魔法が効く範囲内だって言ってた」

「不死の魔法が効く範囲とは聞いてないぞ。ただ、健吾が生きているらしいことは確認できてる。女王から与えられた加護の一つに、死にかけたり死んだりしたら女王が察知するって効果があるらしくてな。女王が騒いでいないから、健吾の命に別状はないんだろうということだった。まあそういうわけで、健吾が生きてる理由がよくわからんが生きてるらしいっていう不安定な状況をそのままにしておくのはマズいってんで、巧とルエットは引き上げる方法を考えてた。で、おもしろいことに、その場に六番目の魔女もいてな」

「六番目の魔女が?」

 七番目の魔女と組んで女王に情報を入れまいとしている魔女でしょ?それが巧たちと一緒にいた、って、どうせ邪魔をしに来たとかじゃないのか。

 みーちゃんは愉快そうに、

「六番目の魔女と七番目の魔女は今、仲間割れしてるんだよ。健吾が死んだら女王にもわかるが、このままだと健吾が死んでしまう可能性が高い。そうなったら女王に自分たちがしたことの顛末がバレるから、そうなる前に申し出た方がいいんじゃないかって六番目の魔女が言い出して、それを七番目の魔女が必死に止めていて。まあ、六番目の魔女は七番目の魔女に言われて楽人の国の連中のために扉を開ける手伝いをしただけらしいからな」

「じゃあ、さっさと六番目の魔女が女王に伝えればいいのに」

「いや、六番目もそこまでは思い切れなくて、でも巧たちに協力しようっていう感じになっていてな。六番目の魔女は、ゴーレムとか物体に魔力を付与して動くものを作るのが得意だからな」

「なるほど、ゴーレムに峡谷を潜らせる、と?でも自律制御のものだとあまり精度の高い動きはできないんじゃないの?」

「そうなんだよ。それで、ルエットとか巧と峡谷の地形を見ながら相談してたところに俺が行った、って感じなんだけど、かなり手こずってたな。峡谷の地形の探査は魔法でできても、あそこの地形はどんどん変わるからな」

「もっと高性能なゴーレムを作るとか?物体への魔法付与っていったら、五番目の魔女の専門分野でしょ。そちらに頼むとか。昔、五番目の魔女が作ったっていう、光るバトンを操りながら永遠に踊る小さな人形を見たことがある」

「……お前、一体何者だよ。それ、アガリスクエールの自動人形のことだろ。全然この世界のモノじゃないぞ」

「まあ、いろいろとね?」

 僕がそれだけ言って微笑むと、みーちゃんは鼻を鳴らして、

「こう言っちゃなんだが、六番目は五番目の劣化版なんだよ。五番目の魔女の方が圧倒的に精度は高い」

「ひどいこと言うね?でもそれなら、五番目に助けを求めたらいいんじゃない。それとも、六番目が五番目に劣等感を持っていて、そういうことはできない?」

「いや、六番目は自分の出来が五番目に劣っているっていうのは自覚していて、六番目自身、できれば五番目に相談したいって言ってた。ただ、ここ最近、五番目が翼の城にいないらしくて。どこかに出かけているらしい」

「案外この世界にいたりして?」

 僕は言った。巧をあんな目に遭わせた赤く光る玉は五番目が作ったもので間違いない。そして五番目の魔女は自分が作ったものは自分で運ぶタチだ。この世界に足を踏み入れたのも確かなことだ。

 みーちゃんは首を傾げる。

「確かに、あのクラフトをこの世界に持ってきたのは五番目だろうけど、あれから結構時間が経ってるからな。この世界にまだいるってのはないんじゃないか。それに、もしいたらわかりそうなものだけどな。五番目の魔女は三番目の魔女によく似た美女だから、噂が出回ってるって」

 うーん、それはどうだろう?ただその辺りを美人が歩いてるからって、僕の耳に届くかな。それに、どれほどの美人だとしても魔法で気配を隠蔽とかしてたりしたら、この世界の人間にはわからないんじゃないか。


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