第1話 真田との共謀
「そうですか。瑠璃さん、泣いていたんですか」
ナイトレイヴンの真田おすすめ回を瑠璃に見せたその日の夜、真田とビデオ通話で話をしたとき、瑠璃が泣いていたことを伝えると、真田は大きくため息をついた。
「なんか、瑠璃さん、碌でもないことを考えてそうなんですけど」
「えっと……瑠璃さんにナイトレイヴン見せたの、良くなかったのかな」
誕生日プレゼントとして真田から贈られたMPプレイヤーで健吾さんの歌をきいて涙を流していた瑠璃を見て、歌であれだけ喜ぶんなら、映像を見せたらもっと喜ぶんじゃないかなと思ったんだよね。誕生日プレゼント代わりで。
瑠璃の誕生日プレゼントは僕とお母さんからということで文房具を贈ったのだけど、あれはお母さんが全部選んだんだ。お母さんはああいうのを選ぶのが好きで、楽しそうに選んでた。僕がプレゼントとかどうしたらいいかわからなくて困っていたところに、お母さんが助け船をだしてくれて連名になったんだけど、やっぱりちょっと何もしないわけにはいかないって思ったっていうか。
それで、健吾さんの映像作品っていったらナイトレイヴンだと思って、家が加入しているドラマとか映画のサブスクサービスを確認したら、ナイトレイヴンも配信してたんだ。真田にどの話がおすすめかきいて、それを瑠璃に見せたんだけど、まあ、瑠璃が泣くのは想定内として、真田のこの反応は想定外だった。
あ、真田とは瑠璃に連絡先を教えてもらったその日から連絡を取り合っている。真田と瑠璃は毎晩やりとりしてるけど、僕はそこまでじゃなくて、必要なときにメッセージを送ったり、それでは足りないときには電話とかオンラインで繋いでパソコンでこうやって話す。
で、今日は、健吾さんを助けるためにこれからすべきことを整理して、どうやっていくか話し合おう、ということになっていた。
真田が言った。
「とりあえず、瑠璃さんのフォローはこっちでしますけど。そっちも、注意して見ていてくださいよ。瑠璃さん、結構思いこみが激しかったりしますから」
「わかった。注意して見ておく」
瑠璃は僕にそんなに心を許していないので、本心が見えることはないと思うんだけど、一応気をつけておかないとね。
で、本題だ。
真田は考え込みながら言った。
「アレクシス王子の修行が終わった瞬間に、王子の中の術式が発動して、王子と氷上健吾の居る場所の入れ替えが起こるから、それで氷上健吾をこちらの世界に戻すことができる。ただ、入っている箱ごとこちらの世界に来る可能性があるから、箱を開ける方法を探さないといけない。翼の城の女王なら箱を開けられる可能性があるけど、女王はそもそも健吾さんが翼の城からいなくなっていることを知らない」
「そうだね。六番目の魔女と七番目の魔女が女王に情報が入るのを邪魔している」
「そして王子は今、体と魂が分離している状態で、そのままで氷上健吾との入れ替えが起こると、魂だけで世界を渡ることになって、その中にある術式が壊れるだろう、と。術式が壊れたことで王子に影響が出るんですか?」
「勿論。術式は王子の存在の核だからね。それが壊れたら、王子は消滅するよ」
「怖……。何ですか、それ。王子って、本当に人間なんですか?」
「んー……多分?」
父親は人間だけど、母親はアレだし、普通の人間とは発生の過程が違うというか。人間かどうかとか考える以前に、王子は術式を行使するためだけの存在、というのが正しいのだけど、それを言っても理解してもらえるかどうかはわからないし、そもそもそこをわかる必要もないというか。
真田もそこはすぐに思い至ったようで、
「わかりました。やることは幾つになりますか。とりあえず、王子の消滅を防ぐためには巧に体と魂を一つにしてもらう。これがやるべきことの一つ目ですね。ただ、巧は今、眠っている。それを起こさないといけない」
そう、やるべきことの二つ目がこれだ。問題は、魔女のクラフトによるダメージが大きく、そう簡単には目覚めないことだ。
真田はぶつぶつと、
「何でこっちの世界に五番目の魔女がいるのかもよくわからないですけど、まあそれは置いておいて。で、巧を起こすためには大量の魔力が必要で、それを集める役目を買って出てくれた子がそうできないようになっている」
「うん。アイルランドで、精神が半分、妖精に捕まってるらしい。できればその子を助けてやりたいんだよね」
これが、やるべきことの三つ目だ。しかし真田は、
「それって、無視したら駄目なんですか?何でドジ踏んだ奴の後始末、つけてやらないといけないんですか」
「え」
僕は固まった。まるで自分の心の内を読まれたようだと思ったから。僕も本当はそのまま放っていてもいいかなって思ってたんだ。瑠璃と真田の力が借りられることになった今、マリアの力を借りなくても何とかなる。けど、みーちゃんとかグラハムの手前があるから、助けるしかない。
僕はふんわりとほほえみながら、
「そうはいかないかな。だって、その子は健吾さんの妹だし、それにまだ小学校一年生だよ?」
「あー、なるほど!わかりました、助けましょう。でも、その子を助けて巧が起きて、王子の肉体と魂を一つにして、王子の修行が終わって、王子と氷上健吾の居場所の入れ替えが起きたとしてですよ。氷上健吾が箱ごとこっちに来たら、箱を何とかして開ける方法を見つけないと、ということになりますよね。月の王の術式が発動したときに、氷上健吾だけがこっちに来れば問題はないけど」
「そうだね。そうなると、やっぱり、箱のことは女王の耳に入れておきたいなあ。箱を開けるのに女王の力が必要だから。それに、健吾さんと王子が入れ替わって、王子が箱に入ってしまったら、それはそれで問題だし」
とはいえ、箱の問題はまだ解決策が見えていない。
「そんなの、放っておけばいいんじゃないですか。王子がどうなろうか知ったことじゃないですよ」
……うん、そういう考え方は、僕にもなかったかな。
真田は不満そうに、
「なんだか、何もかもが女王次第って感じですねえ。そもそも、王子から女王に直接連絡を取ってもらうとかできないんですか?肉体と魂とが別になっているっていうけど、魂だけででも女王と交信はできるでしょう」
「それが、アレクシス王子も今、眠っていてね。精神体に魔力ダメージを受けて、それが回復するまではそのままかな」
「それって……それこそ女王が知らないのは問題じゃないですか?」
「そうだね。王子が月の王になるのを邪魔するような動きだもの。しかもこれも魔女のクラフトのせいだしね。そっか、六番目と七番目の魔女のしくじりと一緒に女王の耳に入れようかな」
「それが出来ればいいんですけど。でもまあ、これでやることははっきりしましたね。とにかく巧を起こす。そのために、まずは氷上健吾の妹を助ける。で、どうやって助けるんです?」
「妖精の王を説得するか、取引をするか」
「……それってかなり難しいやつじゃないですか。面倒くさいというか。他にやりようはないんですか?」
「巧がいれば力ずくて、っていうのも可能だけど」
「それは言っても仕方がないやつでしょ。あとは……みーちゃんにお願いするとかどうでしょう。結構力ある存在と見受けましたけど」
「当のみーちゃんは二週間ぐらい妖精の迷路で迷わされたけどね。でもまあ、本体が来れば可能かな?本人も、式神じゃなければあんなのに引っかかったりはしなかった、とかぶつぶつ言ってたし」
「なんか言ったか?」
突如耳元で声がして、僕はそっちを反射的に見た。
僕のすぐ目の前に、白い猫みたいな生き物の顔があった。




