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魔女の呪いは恋になる  作者: 弓園千尋
第三章 瑠璃
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第6話 摩耶ちゃんの提案

 摩耶ちゃんは、ぱっと見て目立つ大きな花柄のスーツを着ていた。多分イタリアのブランド。摩耶ちゃんはそういうのが好きだから。

「瑠璃!久しぶりー!」

 摩耶ちゃんは私を見るなり歩み寄って両腕で抱きしめた。私は驚きすぎて棒立ちになったままだ。

「摩耶ちゃん?何で?」

「そりゃ、来ちゃうでしょ、あんたがそんな大変なことになってるって思ったら。明後日、学校で三者面談なんでしょ?私が出席するから」

「えっと……多分、お母さんが来ると思うけど」

「駄目駄目、あの人はもう駄目だわ。瑠璃から連絡をもらって私から電話してみたけど、話にならなかった。最初、瑠璃が家を出てることを誤魔化そうとして、私が再婚のこととか知ってるって言ったら、自分にも幸せになる権利がある、瑠璃がわがままを言うんだったら高校にも行かせない、自分で働いて一人で生きていけばいい、って言って」

「お母さんが、そんなことを?」

 私は目を見開いて摩耶ちゃんを見た。摩耶ちゃんは頷く。

「だからね、私が保護者代わりで面談に出ようと思って。由梨愛さんも来るでしょうけど、そんなの関係ないわ。瑠璃の将来、潰されてたまるもんですか」

 摩耶ちゃんは噛みしめるように言った。私は呆然としていた。お母さんに愛想をつかしていたつもりだったけど、いざお母さんがそこまで考えてると知ったらショックだった。駄目だ、しっかりしないと。甘っちょろいですね、って、真田だったらそう言う。

 車に乗ってすぐ、摩耶ちゃんが言った。

「もしよければ、夕食に誘いたいんですけど。私が予約している宿の近くのお店で。どうですか」

 摩耶ちゃんは一棟貸しの民宿に予約をとっていて、夕食はその近くのお店でとるよう手配しているんだそう。そこで一緒に食べないか、ということらしい。人数変更も大丈夫だから、と。

「明日、鹿鳴の町を観光してまわろうと思ってて、本当は瑠璃につきあってほしいんだけど、受験生だし難しいかな、って。だったら食事を、って思って。それに、空港まで迎えに来てもらって、とっても助かったからそのお礼も兼ねて」

 私は夏実さんを見た。明日の観光はともかく、今日の夕食を一緒に食べるかは夏実さん次第と思ったから。

 夏実さんはにっこりと笑って言った。

「もちろんいいですよ。瑠璃ちゃんもいいわよね?」

 私は思い切り頷いた。断るなんて、あるわけない。

 摩耶ちゃんは夏実さんにスマホを見せた。多分、店の位置を知らせたんだろう。一瞬見ただけで、夏実さんはその店がどこかわかったらしい。すぐに頷いてみせた。

「じゃ、行きましょうか」

 そして私たちは鹿鳴の町でも東の方にあるお店に行った。というか、おばあちゃんの家に行く途中だった。おばあちゃんはもう亡くなっていて、その家もなくなってしまっているけど、そのお店の前は何度も通ったことがあった。私はそこがお店だなんて知らなかった。おしゃれな家だと思って見ていただけだった。

 毎日一組だけ予約をとって食事を出す店なんだって。出された料理は、フランス料理だった。フランス料理のコースって、私、初めて食べたよ。

「明日、観光に行くって言ってましたよねえ。何だったら、案内しましょうか。ねえ、瑠璃ちゃん?」

 食事をしながら、夏実さんが言った。私は驚いて夏実さんを見た。

「いいんですか?」

「ええ。折角だもの。瑠璃ちゃんも、一日くらい勉強をお休みしても大丈夫でしょ」

「じゃあ、司さんにメッセージを入れます。明日、勉強をお休みします、って」

 私はすぐさまスマホを取り出した。摩耶ちゃんが首を傾げる。

「司さんって?もしかして瑠璃の彼氏?」

「違うの。中学校の先輩なの。勉強を教えてもらっていて。夏実さんのお姉さんの息子さんなの、鹿鳴高校の二年生で。あ、鹿鳴高校って、鹿鳴市で一番の進学校なんだけど」

 私の説明を摩耶ちゃんは頷きながら聞いていたけれど、少し戸惑ったような様子をしていた。

 何が問題ったのかなと私が困惑していると、夏実さんが苦笑しながら、

「年齢でしょう。私の姉の息子が高校生っていうのが、何歳の時に産んだ子なのかしら、って。養子なんですよ、あの子は」

 夏実さんがさらりと言った。私は固まった。司さんが中学にいたとき、噂ではきいていた。三年の神村先輩は踊りの先生のところに養子に来た子なんだって。つまり、この町ではそのことを知っている人が多いっていうことだけど、それをわざわざよその人である摩耶ちゃんに言うこともないんじゃ。

 摩耶ちゃんの表情が少し変わった。

「養子、ですか」

「ええ。姉のところには子どもができなかったので、遠い親戚からもらったんです。その家は子どもが予定外に出来て、上の女の子を大学に進学させるためのお金が足りなくなってたとかで」

「そう、なんですか。複雑な事情のある子なんですね、その子は」

 摩耶ちゃんが少し引いている感じがしたので、私はフォローしないとと思って言った。

「でも、司さん、神村先生ととっても仲がいいの。本当の親子みたいで。私、今の今まで、司さんが神村先生の養子だっていうこと、忘れてた」

「神村先生って、瑠璃を夏実さんに預かってもらうように頼んでくれた人だったわね。そっか、瑠璃から見て、その神村先生と司さんみたいな親子って、素敵に思えるのね」

「うん。うちなんかと違って、羨ましいと思う」

 私が心の底から言うと、摩耶ちゃんは言った。

「じゃ、瑠璃、うちの子になる?」

 私はびっくりして摩耶ちゃんを見返した。

「え、摩耶ちゃんの家の子になるってどういうこと?」

「摩耶さん、そういう大事な話をこういうところで言うのはどうかと思うけれど」

 夏実さんがやんわりと言う。驚いている様子はない。

 私は摩耶ちゃんをまっすぐに見た。

「それって……養子にならないかって、こと?」

「ええ。このままだと、本当に瑠璃は高校に行けなくなってしまう。高校って、親権者が同意しないと行くことができないの。未成年者だと、高校と入学の契約ができないから。でも、瑠璃が私の養子になれば、私が親権者になるから、そういう心配はいらなくなるわ」

「でも、お母さんは反対するでしょ?それこそ親の同意なしに私が摩耶ちゃんの養子になることってできるの?」

「できるわよ。十五歳になったら、子ども自身の意思で養子縁組することができるようになるの。家庭裁判所の手続きは必要だけど、本人の意向確認とか家庭環境の調査とかだから、いけると思うわ。弁護士にも入ってもらうつもりだし。瑠璃、明日が誕生日で、十五歳になるでしょ」

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