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魔女の呪いは恋になる  作者: 弓園千尋
第三章 瑠璃
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第4話 真田が渡してきたもの

 私は封筒の中から出て来たそれを見て声を上げた。

「スマホ?」

 スマホには手帳型のカバーが着けられていて、カバーを開けてみるとメモが挟まっていた。そこにはボールペンで、



 私のスペアのスマホ、貸してあげます。パスワードは瑠璃さんの誕生日と氷上健吾の誕生日、それぞれからゼロを省略した数字を順番に並べたものです。スマホを受け取ったら、この番号に電話してくださいね。080-××××-×××

 


 と書かれていた。

 健吾さんの誕生日は11月6日。私の誕生日は7月11日。約四ヶ月、僕たちの年の差は一歳になるんだね、と健吾さんは私に話していた。私はそのときもウサギの姿で、念話が使えない健吾さんとは話ができなかったのだけど、真田の方が途中で猫の姿のままでも人間みたいに喋れるようになって、私と健吾さんの間の通訳をしてくれたので、そういうやりとりはなんとなくできた。巧さんやルエットも手伝ってくれたし。

 誕生日のお祝いをしよう、と言い出したのは真田だった。翼の城には四季はないけど、ルエットさんが手作りでカレンダーを作ってくれて、それで毎年、健吾さんと私と真田の誕生日はお祝いをしていたんだよね。私たちはみんな肉体的には歳をとらないけど、ちょっとしたイベントはいるでしょ、って。

 私はスマホの電源をいれ、パスワードとして真田のメモにあった通りの番号を入れた。お母さんのスマホを触らせてもらっていたので、何となく操作方法はわかる。

 スマホのロックは解除された。

 私は続けて、メモにあった電話番号に電話を掛けた。真田が電話に出るのを待ちながら、司さんが私を黙って見ているのに気がついた。しまった、本当はこんなことしてちゃいけないんだ。せっかく司さんが時間を割いて勉強を見てくれるというのに。

 私は電話を切ろうとした。けど、それより先に向こうが電話に出た。

「瑠璃さん!瑠璃さんですよね?真田です!お久しぶりです!」

 真田の声だった。とっても元気そう。というか、スマホがスピーカーになっていて、真田の声は辺りに響いていた。私は慌てて電話を切ろうとしたが、司さんが言った。

「真田さんって、キミと一緒に翼の城に行っていた子だよね。ごまだんごだった子。時女の一年生だったっけ。電話、続けていいよ。久しぶりなんでしょう。それに、実は僕も彼女に訊きたいことがあるんだ。とりあえず、紹介してもらえるかな」

 私たちが話している内容が真田には伝わっているようだった。

「瑠璃さん、誰と話してるんです?翼の城のことを知ってるって、もしかして司っていう人とですか?」

「うん、そう。えっと……」

 何と言っていいかわからず、私は戸惑い、言葉に詰まった。と、司さんが喋りだした。

「初めまして、真田さん。僕は司っていいます。巧の友だちです」

「初めまして。私、真田っていいます。呼び捨てで!お願いします」

 真田はものすごい勢いで言った。戸惑った様子で司さんが私を見る。私は苦笑しながら言った。

「真田はいつもこうなんです。できればそう呼んでもらえると」

「そうなんだ。でもごめんね?女の子を呼び捨てにするのは、ちょっと僕は抵抗感があって」

 司さんはやんわりと言う。

「とりあえず、キミの電話番号、教えてもらっていいかな。僕からも連絡をとれるようにしたいんだけど」

「いいですけど。いいんですよね、瑠璃さん?この人、頼れるんですよね?ていうか、巧はこっちに戻ってるんですか」

「戻れてないの。巧さんは魂だけあちらに行っているんですって。肉体は眠ってる……んですよね?」

「そう。翼の城の魔女のクラフトに攻撃を受けて、肉体はそのダメージを修復中」

「魔女のクラフト?何でそんなことに?それって私たちが翼の城から戻った後のことですか」

「いや、それよりも前だね。とにかく、詳しい話とか今後の話はこれから追々。キミも魔法を使えるということでいいんだよね?」

「勿論ですとも。攻撃魔法、探査魔法、あとは盗聴とかもお手の物ですよ。あなたはどうなんです、司さん?」

「僕は結界魔法とか付与魔法、意識操作とかを主に使っているかな」

「なるほど。通信魔法は?」

「意識の間で話をする魔法かな?できなくはないけど」

「わかりました。それではチームとしてやっていきましょう。氷上健吾を取り戻すためのチームということで」

 私は司さんを見た。なんだか、司さんは巧さんのことに集中していて、健吾さんのことにあんまり興味がない印象を受けていたから。

 司さんは薄く微笑んで、

「いいよ。健吾さんがこちらに戻ってこられるように僕と巧はずっと動いていたからね」

「了解です。で、私ずっと考えていたんですけどね。……あ、いけね。五十鈴さんからメッセージ来てるわ。多分、長電話にならないようにしろって釘を差しにきたんだわ」

「五十鈴さん?」

 私が訊くと、真田は、

「紫藤五十鈴さん。私がスマホを託した人なんですけど。うちの主家筋のお嬢様」

「僕も、細かい話はまた別日にできたらと思うのだけど。例えば土日とか、時間がある日に」

 司さんが言う。私は司さんに訊いた。

「でも、土日は喫茶店のバイトがあるんでしょう?」

「それは大丈夫。オーナーに言って調整するから。パソコンを使ったら、普通に顔を見ながら話ができていいと思うし」

「良い考えですね。こっちもその方がいいです。スマホでも話せるけど、やっぱりパソコンの方が体が楽ですよ」

 そっか、まだ真田の体力は戻りきってないんだ。

 私は、電話を切る前に真田に訊いた。

「あの、真田。この電話で真田以外の人に電話してもいい?」

「別にいいですけど。相手はどうせお母さんとかでしょ、きっと。でも、瑠璃さんがスマホを持ってるって知ったら、瑠璃さんのお母さん、いつでも電話かけてきて、再婚の話とかするんじゃないですか?」

 真田は病室で一緒だったので、お母さんが鷹村さんと一緒に私に再婚のための説得をしている場も見て知っている。

「ううん、お母さんじゃなくて叔母さんと連絡をとりたくて。今までお母さんのスマホから電話してたけど、それができなくなっちゃって、どうしようって思ってたの。きっと私の状況を知ったら、助けてくれると思うから」

「叔母さんって、お母さんのきょうだいですか?それじゃ助けてもらえないんじゃ。それに、連絡先、わかるんです?」

「連絡先は大丈夫。メモがあるから。それに、叔母さんはお父さんの妹なの」

「お父さん……瑠璃さんが生まれる前に離婚した、っていう?一度も会ったことがないって言ってませんでしたっけ」

「お父さんにはね。でも、叔母さんはお父さんのこととか関係なしに昔から会ってるの。こっちに戻ってくる前は、お母さんは私を叔母さんに預けてたりもしてたし」

「ははあ……。まあ、別にいいですよ、叔母さんに連絡するとか、友だちに連絡するとかに使っても」

「ううん、このスマホは、真田と司さんと、叔母さんに連絡するときだけに使うわ。だって、通話料とか、真田が払うんでしょ。無駄遣いはできないよ」

 私がそう言うと、真田は、瑠璃さんらしいですねえ、と言って笑った。

 私が電話を切ると、司さんは、スマホのことは夏実さんに言っておいた方がいい、と言った。確かに。

 私は司さんにいつものように勉強を教えてもらった後、迎えにきた夏実さんに連れられて夏実さんの家に帰った。その車中で、私は夏実さんにスマホのことを伝えた。

 夏実さんは驚いていた。

「時女のお友だちがスマホを貸してくれたの?それは時女の子らしい、と言っていいのかしらねえ」

 そして私は夏実さんとスマホを使うときのルールを決めた。学校に行っているときにはスマホは家に置いていくこと、それ以外のときは持っていてもいいけど、スマホを使うのは午後十時までにすること、朝はスマホは使わないようにすること、等。

「瑠璃ちゃんは受験があるから。今大事なことは何なのか、わかっているわよね?」

 私は頷いた。とにかく勉強が優先だ。時女が無理でも、どこか寮のある高校に行こうと決めていた。公立でスポーツ特待生じゃなくても入れる寮がある高校は県内に二つある。それは、進路の先生にきいて知っていた。学校の先生たちは、校長先生からきいているからか私の家の事情はみんな知っていて、家から離れられるならそうした方がいい、と応援してくれていた。

 その晩のうちに私は父方の叔母さんの摩耶ちゃんに電話をした。

 

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