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魔女の呪いは恋になる  作者: 弓園千尋
第三章 瑠璃
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第2話 真田

 真田と知り合ったのは翼の城で、健吾さんに野バラの茂みから引っ張り出されたすぐ後だ。私の後に野バラの中から引っ張り出された黒白のはちわれ猫、それが真田だった。

 健吾さんは、ごまだんご、と名付けていた。

 初めて会ったあの日、健吾さんは私たちを野バラから引っ張り出すと、庭の奥にあった小さな家に連れていった。そして私たちをカウチの上に置いて隣の部屋に入っていった。

 私はその間、健吾さんの動作の一つ一つをじっと見ていた。すっごくかっこよくて見飽きなかったから。

 彼が隣の部屋に行き、私がその後ろ姿に見とれていると、頭の中に突然、少しハスキーな感じの女の子の声が聞こえた。

「かっこいいですよね、さすがです」

「え、私、別にそんなこと」

 私は声がした方を見た。すると、私の目の前に、私と一緒に連れてこられた猫がぬっと顔をつきだしてきた。

「私が喋ってます。ご理解いただけましたか?」

 猫が喋っている、らしい。声は、頭に直接響いてくる。

「えっと……、何で猫が喋ってるの?」

 そう言って、私は違和感に気がついた。私も喉から声が出ていない。脳から声を発している感じ?

 それに対してさっきの女の子の声が返ってきた。

「それはあなたも一緒でしょう。あなた、自分がウサギになってるって、わかってますか」

「それは、まあ?」

 今も部屋にある鏡を見ると、薄い茶色と白のまだら模様のウサギが映っているし。

「結構冷静ですね」

 猫が感心したように言うので、私は言った。

「そうかな。でも、何でこんな姿になってるのかはわからないんだけど」

「それはまっとうな疑問ですねえ。私も、さっきまでアリクイと戦ってた筈なんですけど、気がついたら猫の姿になって氷上健吾と対面してるとか、夢にしてもいろいろありすぎですよ」

 アリクイ?氷上健吾って、あのかっこいい人のことかな。何で知ってるんだろう。いろいろ訊きたい。まずは、

「アリクイと戦ってた?何それ」

「そう思いますよね、普通。私もそう思いますけど、事実なんですよ。で、多分、私、死んでるんじゃないかと思うんですよね。アリクイに一撃を喰らったのは覚えているので。あなたは?」

「私は……。私も死んでるかも。多分、トラックにはねられた筈だから」

 すると、妖精たちが羽根を振るわせながら言った。


 大丈夫よー、死んでないわよー。

 生きてるわよー、世界の波に呑まれただけよー。


「世界の波?」

 猫が妖精たちに訊き返す。が、妖精たちは「波は波よー」と言うだけで、それ以上の説明はない。

 そうこうしているうちに、隣の部屋から健吾さんが戻ってきた。健吾さんは水の入ったボウルを私たちの前にそれぞれ置いた。

「とりあえず、水分をとろうか。食事はまたお願いしておくから。お腹はすいてないよね?」

 私は、すいてません、ありがとう、と言った。が、私から発せられた筈の声は、健吾さんには届いていなかった。でも、健吾さんは特に気にした様子もなく、私と猫の頭を一撫ですると、また隣の部屋に戻っていった。

 猫が言った。

「どうやら、私たちの声は聞こえないみたいですねえ。でもまあ、その方がいいかもしれません。でないと、私の興奮がダイレクトに本人に伝わってしまいますから」

 それはちょっと遠慮したいですよねえ……と、猫は通い目をしていた。

「興奮?何で?ていうか、さっき氷上健吾、とか名前を言ってたけど、あの人、知り合いなの?」

 猫は、じっとりした目で私を見た。

「もしかして、あなたは彼が誰か知らないんですか?氷上健吾ですよ?ナイトレイヴンで鴫沢レンの役で当たった」

 そう、当時の私は、氷上健吾さんが芸能人だってことすら知らなかった。

「ごめん。うち、テレビとかないから」

「ネットは?スマホは?」

「それもないの。スマホは、お母さんは持ってるけど」

「そうなんですか。ていうか、あなた、いったい何歳なんです?スマホがないとか、もしかして小学生ですか?」

「中学生です。中三」

 私は少し恥ずかしい気持ちがしながら、私は答えた。すると、猫は唸りながら言った。

「中三ですか。じゃあ、テレビがあっても鴫沢レンは知らないかもしれないですねえ」

 そうして猫が語ったところによると、鴫沢レンというのは、とある特撮ドラマの登場人物なんだそうな。氷上健吾、というのが、彼の芸名、というか本名。同じなんだって

「氷上……。氷上甚なら知ってるけど」

 お母さんがかつて好きだった俳優だ。その人の再婚のことでマスコミが騒いだ後、お母さんは氷上甚のことを大嫌いになっていた。

 その頃、私はお母さんと一緒におばあちゃんの家に住んでいて、テレビがあったので、ワイドショーを見聞きして、何となく覚えている。

 猫は頷いて、

「氷上健吾は、その氷上甚の息子です。さっき言った特撮ドラマにも、親子で出演していたんですよ」

「息子。……そう言えば、行方不明になった息子さんがいるってきいたことがある」

 氷上甚の再婚がスキャンダルにみたいに扱われたのは、息子が行方不明になってまもなくして知り合った一般女性と出来ちゃった結婚したことがスクープされたためだった。というか、炎上していた。息子を失って弱った男につけこんだ再婚相手が不埒だ、とかそういう感じだった気がする。

「そうです、そうです!氷上健吾は、その、氷上甚の行方不明になった息子なんですよ」


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