第6話 これからのこと
「でも安心して。僕はキミが噂の「麗しの君」だとは思ってないから」
僕が言うと、みーちゃんは白い毛を逆立てるようにしながら言った。
「当たり前だろ!俺はあそこまでキラキラしてない!……ていうか、お前、俺を何だと思ってるんだ?」
そこで、僕は自分の推測を言った。みーちゃんの術者は、麗しの君の幼なじみで、健吾さんがいなくなった日の式典で女王の不興を買い、その意向を汲んだ二番目の魔女と魔法で戦った人物だと。
みーちゃんはぶつぶつと言った。
「何でわかったんだ。お前、翼の城にいたわけじゃないのに」
「ミルクティの話にヒントがね?麗しの君の幼なじみが翼の城に使節団の一員として派遣されたのは、その人が翼の城に式神を出入りさせても咎められなかったから大丈夫だろうと神人の国の方で判断したからだって。それで」
「たったそれだけでそこまでの結論になれるかよ」
「他にもヒントがあったからねえ?でもまあ、ほとんどが当て推量だというのは認めるよ。で、神人だってわかったからには、いろいろなことを出来る能力がありそうなものだけど」
「まあ、こうやって式神を飛ばすのは朝飯前だけどな」
「式神を通じていろいろなことができるでしょ」
僕の指摘に、みーちゃんは鼻を鳴らす。
「できることもある。けど、できないことの方が多い」
「いいよ、それは追々話し合えば。で、これからどうするか、だけど」
「マリアを助けてくれ。王子が心を砕いて世話を見てきた子どもだ。それがこんなことになったら、俺も寝覚めが悪い」
そうなんだ。話はすっかり逸れていたけどね。
でも僕は、承知した、とはすぐには言えなかった。状況がわからないから、迂闊に動けないというか。そもそも、妖精の王にどうやって立ち向かうか。
僕はじっとみーちゃんを見た。みーちゃんは僕を見返す。
「何だ?」
「いや、式神じゃなくてみーちゃん本人がこっちに来てたら、妖精に対抗できたのかな、とか」
「まあ、それはそうだな。少なくとも、あんな風にただただ迷わされることはなかった。屈辱だわ、あれは」
鼻の頭に皺を寄せながらみーちゃんが言う。
そして僕たちは話し合った。といっても、状況の整理をしただけにしかならなかった。マリアを取り戻すにしても、結局、巧が目を覚まさないとどうにもならないっていうことにしかならなかった。
「あとは、精神体だけでもいいから、王子がいれば結構問題は解決するんだけど」
「だな。精神体でも全然問題ない。妖精の王もあいつには敬意を払っている感じだった。前にマリアがアイルランドに行ったときに何もなかったのも、王子が一緒だったからみたいな感じだった。王子の精神体の方はどうなんだ。魔力をあいつに渡したら、あいつも復活できるんじゃないか」
「今は、術式の修復中。基本部分は無事だけど、肝心の健吾さんが戻ってくるための術式が駄目になってるから」
駄目になっているのは他にもあるけど、主なのダメージ箇所はそんな感じ。
みーちゃんは声を上げた。
「それって、王子も世界を移動できないんじゃないのか?」
「そうなるね。で、調べてわかったんだけど、術式の修復が終われば、王子はすぐに復活できるよ。術式の駄目になっている箇所に、自身の回復を強力に促進する効果が術式も組み込まれてる」
王子に組み込まれている術式は、いろいろと興味深い。僕が作った基本的な部分の上に、巧やルエットを含む七人の術者が改良を加えている。術式の書き方を見ると、それぞれに個性があって、それを見るのが楽しいんだよね。
みーちゃんがじっと僕を見た。
「お前、なんか自分の楽しみを優先してないか」
「そんなことないよ。とにかく、僕は王子の術式をして、あとは巧の回復のために魔力を集める。ミルクティも協力してくれると思うし」
「ごまだんごはどうなった?俺が見たところ、あいつの方が体の怪我はひどそうだった」
「わからない。ミルクティにきけばわかるかな?」
「かもな。まあ、こっちで魔力を集めるのに、ごまだんごはいた方がいい。あいつは戦闘センスがあるっていうか。攻撃魔法以外も器用に使えるし、敵に対抗できる」
「ミルクティは?結界を張れる、とか言ってたと思うけど」
「ああ。あいつの結界魔法は一級品だ。あと、治癒魔法もな。ただ、攻撃魔法は得意じゃないんだよ。攻撃はごまだんごの方が圧倒的にうまい」
「なるほどね。二人でうまいことやってたわけだ」
瑠璃は、時女にごまだんごがいる、というようなことも言っていた。それだけうまくやれた相棒がいる学校だから、行きたいと思ったか。それも動機の一つなんだろうな。
みーちゃんは一度自分の国に戻り、そしてまたこちらに来る、と言った。僕は、ここに来る前に、できれば翼の城に寄ってもらえないかと思ったけど、それは女王や二番目の魔女を刺激することになると思うから難しいと思う、と言った。
そうなると僕が行くしかないのかな?巧と話したいんだけど。
僕の考えを読んだのか、みーちゃんが言った。
「お前、絶対に翼の城に行くなよ。お前が行ったら、女王に目を付けられるかもしれん。ちょっとあいつに感じが似てるから」
「あいつ?麗しの君?」
「ああ。まあ、あっちの方が圧倒的にキラキラしてるけど、なんか雰囲気が似てる」
「それくらいで女王が目を付けるとは思わないけど、まあ行かないから安心してよ」
そもそも、一人で行ったとして、戻ってこられるか自信ない。瑠璃が手伝ってくれたら何とかなるかも、だけど。
それから僕はグラハムに電話を掛けた。みーちゃんがいるうちにと思ったのだけど、グラハムは電話に出なかった。グラハムが今どこの国にいるかわからないけど、もしかしたらグラハムがいる場所は今夜中なのかもしれない。
みーちゃんは帰っていった。
それから一時間ほどして、お母さんが帰ってきた。晩ご飯どうしよう、と僕が思い始めた頃だった。ちょっと遅いなと心配してたんだよね。瑠璃の家は車だと十分くらいのところなのにどうしたんだろう、って。
お母さんは帰ってきて僕の顔を見るなり言った。
「木下さんは、夏実のところに預けてきました」
夏実、というのはお母さんの妹のことだ。
何でそんなことになったんだろう?




