第3話 方法を考える
「まあ、女王が知らなくても、とりあえずは大丈夫だよ。少なくとも、健吾さんを峡谷から引っ張り出す方法はある」
僕が言うと、瑠璃さんは驚いたように私を見た。
「本当ですか?」
「うん。健吾さんがどうしてあちらの世界に行ったか、キミは知ってるよね」
「はい。アレクシス王子が月の王っていう術式の後継者で、その引継前にこの世界に修行に来ているけれど、その修行の間、世界間のバランスをとるために、強制的に翼の城に行かされたってきいています」
「そう。そして、修行が終わって月の王の術式が発動すれば、アレクシス王子と健吾さんの交換はもう一度起こる。だから、そのときに健吾さんはこちらの世界に戻れるっていうことに……。いや、待って。もしかしたら、箱ごとこちらに来るかもしれない?巧は何か言っていた?」
僕は瑠璃を見た。瑠璃は少し考えて、
「それは何も言っていませんでした。でも、ルエットさんが魔法で健吾さんを箱の中から取り出すのは難しい、って言っていて」
「そうか。まあ、いずれにしても、問題点のうち最低でも一つは解決するね。月の王の術式が発動すれば、少なくとも健吾さんはその峡谷からこちらの世界に来ることはできる」
「アレクシス王子はどうなるんです?健吾さんの代わりに王子が箱に入ってしまうとかあるかも?」
「まあ、その可能性もあるけど、どうかな。アレクシス王子がこっちに来たときには、健吾さんがいた場所からずれていたから、今回もそうなるかもね。もし、王子が箱に入るとか、あるいは箱の中ではなくても問題の峡谷に飛んでしまったということになったら、そのときにはそれこそ魔女たちが動くし、女王だって知るところになるから、問題はあっちで対処してくれるでしょ」
「確かにそうですね」
瑠璃はほっとしたような表情を見せる。見ず知らずの王子の心配をするとか、お人好しというか何というか。
まあ、いいや。
「とはいえ、今、王子は精神体と肉体が分離した状態でね。修行が終わって翼の城に戻るときには、精神体と肉体が一つになっていないと、世界を渡る衝撃に耐えられないと思う。だから、それまでに王子の体を見つけて一つにしないといけないんだけど」
「えっと……私と真田は、魂だけで世界を渡りましたけど」
「キミたちは普通の人間だから。でも、王子の魂の中には核となる術式が埋め込まれていてね。魂がむき出しで世界を渡ったら、術式が壊れてしまうかもしれない」
「それって、どうしたらいいんですか」
「巧を起こせばいい。そうすれば、王子の魂と体を一つにできる。そもそも、王子を魂と体に分けたのは巧で、体の在処と知っているのも巧だからね」
「巧さんを起こすって……もしかして、巧さん、こっちに戻れていないんですか」
瑠璃は不安そうに言う。
「うん。巧は今、前のキミたちと同じ状態にあってね。精神だけがあちらに行ったままなんだ。連絡も直接とれなくてね」
「じゃあ、巧さんも事故に?」
「違うよ。翼の城の魔女のクラフトでダメージを受けて、それが回復するまでこの家で眠ってる。でも、これは内緒にしてね?周りには、巧は外国に出かけているってことになっているから」
「魔女のクラフト……五番目の魔女ですか?でもどうして?」
「わからない。クラフトを持ち込んだのは魔女自身だとは思うけど」
五番目の魔女は、自分が作ったクラフトを使用者に届けるところまで自分でやる。そのおかげで、凶悪なアイテムを作る魔女の影響力が最低限に抑えられて、助かっているのだけど。
瑠璃は頷いた。
「わかります。翼の城でも、城の防衛用に作ったアイテムの点検を自分でしていましたから。でも、どうして五番目の魔女が巧さんを攻撃したんですか?」
「それはわからないんだ。五番目の魔女と巧が敵対していたということはないと思うんだけど。もしかして、翼の城で何かあった?」
「ない……と思います。巧さんは、魔女たちと関わらないようにしていたし。それで、巧さんはいつこっちに戻ってこられるんですか」
「回復したら、だね。そのままにしていてもそのうち目が覚めるけど、時間がかかるから、時期を早めるために魔力を集めて与えているところなんだ。そうだね、巧が目を覚ませば、また翼の城に行ってもらって、それこそ女王に直接王子のことを伝えられる。でもちょっと今、魔力集めがうまくいっていないのが困ったことなのだけど」
僕自身も機会を見ては魔力を集めているけど、それには限界があるから、マリアに頼んでいたわけだけど、それが止まってしまった。妖精たちにきいても、
「マリアは大丈夫よー」
としか言わない。グラハムを通じて確認をお願いしているけど、アイルランドで普通に生活はしているらしい。ただ、魔力を集めるための活動はしているかどうかまでは、グラハムには確認できない、とのことだった。グラハムは仕事で世界中を飛び回っていて、ずっと傍についているわけにはいかないからだ。
グラハムによると、
「叔父に確認できればいいんだが、叔父は町外れに一人暮らしで、電話すら使わないから」
グラハムの叔父さん、即ちマリアの祖父が住んでいる場所は妖精たちの影響が強く、彼らに好かれていない人は道に迷ってたどり着けないんだとか。ということで、一族の誰かが訪ねていくのも難しいらしい。
そんな人とよく連絡をとって、マリアのことを頼めたもんだ。
瑠璃は少し考えながら言った。
「あの、魔力を集めるお手伝いをしましょうか。私、探査魔法も使えるので、役に立てると思います」
「それは有り難いけど、キミ、三年生でしょ。受験勉強しないといけないんじゃない?大丈夫なの?志望校はどこ?」
僕が訊くと、瑠璃は視線を彷徨せた。
これは、勉強が出来ない子なのかな?そんな感じはしないのだけど。




