↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したので探偵になってみた  作者: 羽越世雌
第2章:探偵は魔法を失った王都で、嘘と真実を暴く
PR
14/18

第14話:沈黙した王国の、最後の遺言

王都に突如として「魔法の消失」の余波以上の衝撃が走った。

かつて王国の象徴として絶対的な守りを誇った王宮の地下アーカイブ。魔法が消えたことで、何重もの魔導障壁に守られていた「王家の記録庫」のロックが、完全に無効化したのだ。


その中に眠っていたのは、伝説の「初代国王の遺言」だった。

これまでは「魔法の力で開けば、王国の秩序が崩壊する」とされ、禁忌の書とされていた。しかし魔法が消えた今、それはただの古びた羊皮紙の束として、誰の目にも触れる状態となっていた。


「……ツヨシ、大変だよ! 王都中の貴族や商人が、その遺言を奪い合おうとして大騒ぎしてる!」


エリスが事務所に駆け込んできた。彼女の言葉通り、外では怒号が飛び交っている。遺言の内容が「王位継承の正当性」や「莫大な地下資源の所有権」に関わるものだという噂が広まり、街は内乱寸前の殺気立っていた。


「禁忌が解かれた途端、人間はこれか。……魔法という嘘が消えたら、今度は『歴史の正当性』という名の別の嘘で争うわけか」


俺――探偵ツヨシは、重い腰を上げた。

かつてなら「システムのバグ」として処理した騒動だが、今は違う。これは、この国の人間たちが「魔法」という親を失い、自力で歩み始めた最初の試練だ。


俺たちは混乱する王宮へと向かった。記録庫の奥深く、重厚な扉の向こうに、その「遺言」はあった。

俺が手に取ると、それは驚くほどあっけない内容だった。そこには、王の功績も、領土の自慢も、神聖な魔法の継承など一言も記されていなかった。


『我が遺言を読みし者へ。この国を統治するのは、魔法ではない。今日、隣人と交わした約束の重さである』


「……これだけ?」

エリスが覗き込み、拍子抜けしたように呟く。


「いや、これが全てだ。……初代国王は知っていたんだ。魔法がいつか消えることを。そして、魔法に依存した統治がいかに脆いかを」


俺は遺言書を、騒ぎ立てる群衆の前で朗読しようとした。しかし、その時、部屋の影から一人の男が現れた。かつての魔法文明の復活を画策する過激派組織の長、ゼノスだ。


「探偵、それは渡さない。その遺言が公開されれば、貴族も平民も、身分という魔法の枷から解放されてしまう。我々が望むのは、混沌からの魔法文明の再生だ!」


彼は魔法の回路を詰め込んだ古い「起動装置」を掲げた。それは魔法を一時的に復活させ、王宮の力を掌握するための危険な代物だった。


「ゼノス、あんたこそ何が見えていないんだ。あんたたちが守ろうとしている魔法は、結局、誰かに支配されるための檻に過ぎない!」


「黙れ! 魔法のない世界など、暗闇と同じだ!」


ゼノスが起動装置を作動させる。部屋が激しく振動し、天井が崩れ落ちる。魔法の残滓が火花となって飛び散り、記録庫が崩壊していく。


「エリス、逃げるぞ!」


「ダメだよツヨシ! この遺言が燃えちゃったら、みんながまた『王家が何と言ったか』で疑い合っちゃう!」


俺は炎に包まれる記録庫の中、遺言書を抱えて走り出した。物理的な力と、燃え盛る歴史の炎。俺はかつてない窮地に立たされていた。

魔法は使えない。俺にあるのは、論理と、エリスの信頼だけ。


「……既視感がある。燃え盛る館からの脱出、そして真実を抱えての逃走。これって、まさに古典的なミステリーのクライマックスじゃないか!」


俺は崩れる床を蹴り、壁を駆け上がった。

「エリス! 窓だ! 窓を蹴り破れ! そこにある柱に飛び移るんだ!」


「了解!」


魔法のない世界で、俺たちはただの人間として、歴史の重荷を背負って跳躍した。

背後で王宮の一部が崩れ去り、煙が王都を覆う。俺の手の中には、ただ一言、誠実さだけを説いた初代国王の遺言が握られていた。


この真実をどう広めるか。それは、探偵である俺たちが解決すべき、新たな「人間ドラマの謎」の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。