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異世界転生したので探偵になってみた  作者: 羽越世雌
第2章:探偵は魔法を失った王都で、嘘と真実を暴く
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第15話:沈黙の重さ

王宮の地下から持ち出した「初代国王の遺言」を巡り、王都の空気はかつてないほどに澱んでいた。


俺――探偵ツヨシは、事務所のデスクでその羊皮紙を眺めていた。文字通り「隣人との約束」と記された、あまりにも素朴な一文。だが、この一行が世に出れば、魔法の恩恵を受けてきた貴族たちは「統治の根拠」を失い、魔法に頼れず苦しむ平民たちは「王家が隠してきた嘘」に激昂するだろう。


「ツヨシ、みんな外で待ち構えてるよ。……貴族派の使いが『遺言は偽物だと断言しろ』って脅しに来たし、平民派の代表は『王家が民を騙してきた証拠を公表しろ』って騒いでる」


エリスが窓の外を覗きながら、不安そうに告げた。彼女の言う通り、事務所の周囲には異様な緊張感が漂っていた。かつて俺がシステムを崩壊させた時よりも、今のほうがずっと街は脆く、危うい均衡の上に立っている。


「……これが、真実を暴くということの代償か」


俺はかつてミステリー小説を読みながら、探偵が真実を告げるカタルシスに憧れていた。だが、今の俺が手にしているのは、誰かを救う真実ではなく、誰かを傷つけ、国を揺るがす「火種」だ。


「ツヨシ、もし遺言を公表したら、また暴動が起きるかもしれない。でも、隠し続ければ、誰も信じ合えないまま、みんな魔法の残影を追いかけて生きることになる」


エリスの指摘は鋭い。俺は椅子の背もたれに深く寄りかかった。

「ああ。公表すれば内乱の引き金になる。だが、隠蔽すれば、この国は嘘の上に積み上がった砂の城のままだ。……俺たちがやったデバッグ作業は、システムを壊すことじゃなかった。この国が『嘘をつかずに生きていくための土台』を作ることだったはずなのに」


俺の探偵としての誇りが、葛藤で軋む。

真実を明らかにすることが、必ずしも人々を幸福にするわけではない。かつて俺が解決してきた密室の謎は、犯人が誰かを示せばそれで終わるパズルだった。しかし、この国の謎は、歴史そのものが犯人であり、市民全員が被害者だ。


その時、事務所のドアが静かに開いた。現れたのは、ハルバート卿だった。彼は魔法を失った今の権力闘争に疲れ切った様子で、俺のデスクの前に立った。


「探偵殿、君に一つだけ言っておこう。この遺言をどう扱うか、決定権は君にある。……だが、王家が何百年もこれを隠してきたのは、傲慢さからではない。この国の民が、いつか『自分たちの力』だけで約束を守れるようになるまで、希望という名の魔法にすがりつくしかなかったからだ」


ハルバート卿の言葉は、俺の胸を突いた。魔法は麻薬だったが、同時に、この国を支える「杖」でもあったのだ。


「……わかっている。俺は、今日のうちに結論を出す」


俺は立ち上がり、エリスに目配せをした。

「エリス、俺たちの探偵としての矜持を信じろ。真実を公表するんじゃない。この国の人々が、自分たちでこの真実を受け入れられるように、俺たちなりの『演出』を仕掛けるんだ」


俺は遺言書を懐にしまい、重い足取りで事務所を出た。

探偵である俺の仕事は、真実をただ提示することではない。誰もがその真実と向き合えるための、舞台を整えることだ。


沈黙が支配する王都の夜。俺の論理が、この国の新たな歴史の行方を決める。

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