三十九本目
完全に寝坊した。やらかした。
まさか18時にまでなってしまうとは。原因はただ一つ、スマホの充電切れだ。アラームをセットしたことに満足して、充電器に挿し忘れたまま意識を失ったらしい。
けれど、おかしい。雫から「遅い」の一言があってもいいはずなのに、通知が一つも来ていない。俺は慌てて充電器に繋ぎ、再起動したスマホから雫に電話をかけた。
……ツ、プツッ。
呼び出し音すら鳴らずに切れた。嫌な予感が心臓を叩く。俺は夢中で自転車に飛び乗り、雫の家へと向かった。
雫の家につき、インターフォンを何度も押す。けれど反応は一切ない。
「……入るぞ」
俺は意を決して、鍵の空いていたドアを押し開けた。
一歩踏み入れた瞬間、鼻を突く異臭が漂ってきた。原因はすぐにわかった。
そこは、凄まじい「ゴミ屋敷」だった。
足の踏み場もないとはこのことだ。酒の空き缶や瓶、中身の腐ったペットボトルが散乱し、積み上がったカップ麺の容器が雪崩を起こしている。
吐き気を堪えながら、迷路のようなゴミの山をかき分けて奥の扉を開けた。
そこには、混沌とした部屋の中で唯一の空白地帯……まるで聖域のように真っ白なベッドがあり、雫が眠っていた。
ゴミの海に浮かぶ島で眠る彼女だけが、別世界の住人のように神聖で、ひどく儚く見えた。近寄ると、彼女からは深い酒の匂いがした。どうやら、俺と同じかそれ以上に酔い潰れていただけのようだ。
俺は安堵と同時に、言いようのない感情が込み上げてきた。
このゴミの山は、彼女の心の悲鳴そのものに見えたから。
俺は腕まくりをした。
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「……ん、んー……」
雫が目を覚ましたのは、21時を回った頃だった。
重い頭を抱えて起き上がり、彼女は絶句した。
視界を遮っていたゴミの山が消えている。異臭も消え、フローリングにはワックスの匂いさえ漂っていた。あんなに荒れ果てていた家が、魔法にかけられたように、綺麗に片付いていた。
窓を開けて換気をしていたらしい薫が、少し煤けた顔で振り返った。
「やっと起きたか。……予定、大幅に狂ったな」




