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タバコ屋で働く学生のお話  作者: 竹子


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37/42

三十七本目

あの日から、優衣は自室という名の殻に閉じこもっていた。

大学へは一度も足を運んでいない。後期の単位はすべて、紙屑のように捨てた。もはや、何もかもがどうでもよくなっていた。かつて笑い合っていた友人たちからの連絡も無視し、光を遮った部屋で、市販の精神安定剤を流し込んでは泥のように眠るだけの毎日。

「最初から、あんな希望なんて見せられなきゃよかったのに……」

ギリギリの精神状態で保っていた「日常」の均衡は、薫という存在によって壊された。同じ孤独を抱える仲間を見つけたと歓喜し、淡い恋心を抱き始めた矢先に突きつけられた、あの残酷な光景。他の女と睦まじく過ごし、それが上手くいかなかったから、自分に擦り寄ってきて軽薄に口説き始めたあの男。

(結局、誰でもよかったんでしょ。……バカらしい)

自分だけが特別だと思い上がっていた自分が惨めで、何より、そんな程度の低い男に一瞬でも心を動かされた自分が許せなかった。恋愛だの彼氏だの、そんなものに救いを求めた自分が滑稽で、今はただ、すべてを冷めた目で見ることしかできない。

薫のことが、今はただただ、大嫌いだった。

「人生、面白くないッ!」

布団の中で喉が枯れるまで叫んでも、現実は何一つ変わらない。重い腰を上げたのは、期限ギリギリの教習予約があったからだ。ここで投げ出せば、親が出してくれた30万円が水の泡になる。

18時の教習所。運良く一回目のキャンセル待ちで名前を呼ばれた。教官は、以前こっぴどく叱られた苦手なタイプだったが、今の優衣には怯える気力すら残っていなかった。

「……お願いします」

生気ゼロの声で告げ、路上教習へと車を出す。楽しいことなんて、この先一生ないかもしれない。それでも、今この瞬間、目の前のハンドルを握り、アクセルを踏むしかない。感情を殺し、ただ機械的に手足を動かす。その虚無的な冷徹さが功を奏したのか、今日は不思議なほど集中が研ぎ澄まされていた。一度も、教官にブレーキを踏まれることはなかった。

「……今日は、落ち着いてたな」

車を降りる際、あの厳しい教官がボソリと零した言葉。優衣はそれに頷くこともなく、ただ暗くなった夜道を歩き出した。褒められても、心には冷たい風が吹き抜けるだけであった。

けれど、教習所を出て数歩。不意に胸の奥がぎゅっとせり上がるような、嫌な重苦しさに襲われた。心臓が鉛に変わったかのように、拍動するたびに肺を圧迫し、呼吸を浅くさせていく。喉の奥に何かが詰まっているような、鬱特有のあの息苦しさ。

心臓は、まだ嫌になるほど動いている。

「消えたい」と叫ぶ思考とは裏腹に、身体だけが生存を強要してくるこの違和感が、何よりも苦しかった。

(……一応、進んだんだ。少しだけ)

30万円を無駄にしなかった。教官に怒られなかった。ただそれだけの事実。昨日より数ミリだけ「マシ」な場所に立っている気がした。

優衣はポケットの中のタバコに指を触れ、一本だけ取り出した。かつて薫の隣で、孤独を分かち合えると信じていた頃の残り香。けれど、彼女はそれを吸いはせず、静かに元の場所へと戻した。

あんな男に、自分の肺まで汚されるのは、もう真っ平らだった。

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