第79話 家族になった1
由美は必死に走った。背中から追いかけてくる怪獣の足音が聞こえていたが、あきらめることなく走り続けた。実際は10歩も走ることが出来ないまま、追い付かれたことに気がついたが走り続けようとした。
そして、背中に強烈な圧を感じた瞬間、隼人を抱きかかえるように丸まりしゃがみこんだ。せめてこの子だけでも。そう思ってとっさに取った行動だった。そしてその瞬間背中で風を感じ、何かが衝突する音が二回聞こえた。
1秒経ち、2秒経ち何も起こらない。彼女は立ち上がりあたりを見回す。するとそこには電信柱に衝突している車と、その車と電信柱にはさまれるようにしてもがいている怪獣の姿が見えた。
電信柱に衝突していた車の運転席が開く。そしてそこから一人の男が転がり落ちる。頭を抱えながら四つん這いになり、立ち上がろうとしている男は由美にとって見慣れた人物だった。
「健太!」彼女は健太のもとに駆け寄る。
「あいたたた。由美、大丈夫か?けがはしてないか?隼人も大丈夫か?」顔を上げた健太はよろよろと立ち上がりながら、近づいてくる彼女を抱きしめそう聞いた。
由美は今しがた失いそうになった命を助けられたこと、隼人が無事であること、頭から血を流した健太が自分たちのことを真っ先に心配しているのをみて、様々な感情があふれ出てきて止まらなくなってしまった。安堵、喜び、心配、そして愛情が心の奥底からあふれ出てきてしまい、言葉を発することもできずぐちゃぐちゃに泣き続けた。
そうして1分も泣いただろうか。少し落ち着いた彼女は顔を上げ、健太と目を合わせる。彼はいつものような目でやさしく微笑みながらこちらを見つめていた。恥ずかしくなってしまう。彼女はそう思いながら感謝の言葉を伝えた。
「ありがとう。助けに来てくれて。おかげで隼人も助かったし、私も助かった。本当にありがとう。」そう言うと彼女は健太の頭から流れる血をみてハンカチを取り出し、頭をぬぐおうとした。
「いや、大丈夫だよ。エアバッグが作動した後にどっかでぶっちゃったみたいだ。でも大丈夫。無事でよかったよ。」彼はそういうと二人を強く抱き寄せ、すこし涙を流しながら二人の体の温かさを全身で感じていた。本当に危ない状況であったが、何とか助けることが出来た。奇跡であった。そう思うと二人を抱き寄せる手に自然と力が入った。




