第80話 家族になった2
抱き合い、数分動かずにいると、隼人が泣き続けていることに二人ともが気づいた。慌ててあやし始める由美。おむつが汚れているのだ。不快だろう。早く変えなければ。そう思いながら怪獣を見る。
怪獣は車と電信柱に挟まれ、千切れかけた脚や鎌を振り回していた。腹や胸がつぶれ、身動きがとれなくなっているようだったが、生きていた。
「運がよかったよ。避難した人の車にキーが刺さっていたから、使えたんだ。これがなかったら間に合わなかった。」健太は周りを見回しながらそう彼女に言った。
「でも、来るまでに道が崩れてたり、ふさがってたりして時間がかかってしまったんだ。すまない。それに、ところどころに怪獣たちがいた。これからの移動も車でした方がいいと思うんだ。」彼はそう言いながらあたりを散策し、無事な車が残っていないかを探していた。
実のところ、彼らはどちらも日常的に車を使用していないため気がついてなかったが、日本では災害時、車から逃げる際にキーを指したままにするように指導をされていた。そのため、彼らは10分ほど移動するうちに一台の無事な車を見つけることが出来たのだった。
健太が運転席に乗り、由美と隼人が後ろに乗る。彼はアクセルを踏み、通れそうな道を選び走り出す。どの方向に移動するのが正解かはわからない。スマートフォンもラジオも使用できなくなっていた。だからとりあえず通れそうな道を選んで走った。
「ねえ、健太。改めてありがとう。」おむつを替え終わった由美が後部座席から健太に話しかける。
「ん?当然だよ。二人のためだからな。」健太は通れそうな道を探しながら車を操作している。表情はわからないが、声のトーンはまるでなんでもなさそうな、日常の会話のようであった。
その言葉を聞いた彼女は自分の顔が赤くなっていくのを感じた。恥ずかしいし、とても嬉しい。それもたまらなく。彼女はまるで恋した乙女のように、いや、まさに恋した乙女であったのだが、ミラー越しに彼の顔を確認した。彼の顔は穏やかで、誇り高く、自信に満ち溢れた表情をしていた。そんなに自分たちを助けれたことが嬉しいのか、誇らしいのか、そう思うと彼女は涙がまた出てきそうになった。本当に嬉しい、人から気にかけられ、大切にされ、愛されることがこれほど嬉しいことなのか、そう感じた。先ほど人を愛すること、守ろうとすることのすばらしさを実感した彼女は、今度は人から愛されることのすばらしさを実感していた。
「なあ、由美、いろいろ落ち着いたらまた美術館にでも行こう。今度は3人で。ゆっくり絵でも見て、また一緒にショッピングでもしよう。」健太は前を向いたまま、由美に話しかける。その声は穏やかで、由美はあたたかな心地よさを感じていた。
「うん。また、3人で行きましょう。」彼女も穏やかにそう答えた。
そうして、健太は通れる道を探しながら、道路を進み、A市の方角に向かうのだった。




