第七章「不死身の進化龍エヴォリューションドラゴン(前編)」
久しぶりに続きを書きました。
アあ、ここまで長かった。
ルートはちゃんと辿れたかい。
時間を掛ければ、きっと誰かが見つけてくれることを信じている。
午前11時13分、カラカラに晴れた7月23日の夏。
蒼い空、白い雲、そして蜻蛉がユラユラと舞う緑の庭。
爽やかな色彩とは裏腹にネチっこい暑さを感じさせる。
「はぁ…、スイカ美味え…。素材の甘味が、振りかけられた塩のシンプルな味付けによって一段と引き出されてるぜぇ…」
そんな日本の夏を初めて過ごす事となる、ギリシャ神話の中で語り継がれていた無地の白Tシャツとジーンズの短パンに身を包んだ青髪橙瞳の残念なイケメンこと軍神アレスは、右手に西瓜を左手に団扇を持ち、縁側でだらだらと涼んでいる。
「にしても、外はビィービィービィービィー煩えよなぁなんか…」
「それは蝉ですね」
「セェェミィィ〜?」
アレスにとってまだ見ぬ未知の音の主である蝉がジリジリと鳴き散らす昼頃。
ここは細田楓の宅である。
とてもダサい格好の居候である青年のアレスと、緑のロングヘアーを流している赤瞳の美少女の姿をした魔界の魔物であるもう一人の居候ソフィア・ヒュドラント。そして、現家主である短めな黒髪の高校一年の女子高生、細田楓の三人で暮らしている。
「セミかあ…、こんな煩かったらたまんねーよな」
胡座を組んで団扇で首元を仰ぎながら見えない蝉にボヤいて西瓜を食らう、と暇そうに忙しくしているアレスの姿は最早、観光目的で日本に訪れた外国人のそれからは遥かにかけ離れていた。
……もっとも、本人は修行目的で此の国を訪れたらしいのだが、今のアレスの姿からはそのような意識は微塵も感じ取れない。
(明日はこの本町で大きなお祭りがあるんでしたっけ。……姪の綾瀬ちゃんはまだ小さいだから連れて行けないし)
楓は毎年その祭りになると、地元の神社前に出店されるシャーピンの屋台に行くのが個人的なお約束となっている。
「すう…、すう…」
夏風の抜ける居間に敷かれた畳床で寝息を立てながら寝転んでいるのが、正真正銘、観光目的で魔界からやって来たソフィアである。明るい緑のトップスの上から青い半袖の上着と、下に空色の透明感のあるロングスカートを身に付けている。アレスとは違い、ソフィアはただの観光らしい。
「アレスさん」
「何だよ楓、急にどうした」
「"楓"さん、シンデレラ総選挙一位でしたね」
「おい待て未来の話はやめろおおおおおおお⁉︎⁉︎⁉︎ああああああああああああああああこいかぜええええええええええええ‼︎」
「大人なアイドルの方の楓さん、一位おめでとうございますっ!」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「あれがアース…か」
「海洋面積70.8%、陸地面積29.2%。生命反応も多数感知しています。間違いありませんよ『師匠』…、あれが、あれこそが…、地球ですっ!」
スタイリッシュに赤と黄の塗装が施された二人乗りのスペースファイター、『GS03XX』が地球に接近している。
「師匠、何処に着陸しますか?アタシは下の白い場所とかに降りてみたいかな〜と…」
「流石に御免被るぜソード、あそこは如何にも寒そうだ」
ちょこんと生えたアホ毛の目立つ金髪女騎士ソードが後部座席に、その名は誰も知らないと言われている黒Tでダメージジーンズの黒髪とかいう、師匠と呼ばれた少年のような男性がスペースファイターの操縦桿を握っている。
「にしても全く、エフビライ大統領の所為でとんだ辺境の惑星に来ちまったもんだ」
「まあまあ…。普段訪れないような星ですし、任務がてら観光もして行きましょ?」
「それもそうかな」
普段から慣れているのか、動じる様子も無いまま成層圏を突破してしまった。
「――力を感じる」
「えっ」
「あのほっそい島のような場所から、強烈な闇の力と何とも言えない光の力…、いや、神の存在感を感じる」
「師匠、それは一体……」
「異常だ。かなり異常だ。
その二つは恐らく同じ建物の中に居る筈だ。
しかし、その二つの力は対立の意志を未だ感じさせていない。状況がいまいち掴み切れないな……」
「着陸…、しますか?」
「残念だが……」
師匠は静かに一つのレバーへと手を掛け、倒した!
「『飛ぶ』ぞソード!アースと、宇宙の為に!」
「まさかぁ…」
「ウィーキャーンフラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア⁉︎⁉︎⁉︎」
スペースファイターGS03XXのキャノピーが開き、座席下のバネの力によってコックピットから師匠とソードが勢いよく吹っ飛ばされた。
「上空約10,000メートルから地上へ向けて落下している今の気分はどうだ、ソード!」
「最っ高ですよぉー!あんな高さから落とされるなんて今までありませんでしたしぃ〜!しかもすっごく空気が冷たいですしぃ〜!ほんと、ウンザリするぐらい最っ高な気分ですよ師匠ぉ~‼︎」
「あ〜わりい!何言ってんのかサッパリ聞こえねえええええええ‼︎」
「嘘だよッ!!!」
「そんなことよりほらー!地上だあああー!地上の様子が見えてきたぞおおおー!」
「そ ん な こ とで片付けられてしまうってないですって、こんなことぉぉーーーーーー‼︎」
そんなこんなで地球にやってきた二人の事など知る由も無いのであった。
「はぁ〜あぁ、今年の○ケモン映画早く観に行きたいな〜」
「突然何を言い出すんですかアレスさん。また○ートシくんと○カチュウ、それを取り巻く愉快な仲間達の活躍によってまた難事件が解決されたりするんじゃないですか?」
「そいつは聞き捨てならねえな…、いいかい、○ケモン映画ってのはロマンなんだ、ドラマなんだ、そして今も語り継がれ毎年作られ続けている伝説そのものなんだ!一作一作それぞれにそれぞれの趣、世界、そして○ケモンがある!オレは言いたい、毎年作ってくれてありがとう……とな」
「あ、ああ……」
「大体それをだね、楓くん」
「どちらかと言えば、くんというよりちゃんの方です」
「黙れ○連れ狼の○五郎!てめーは一生ちゃんちゃん言ってりゃええんじゃい!」
「うわっ……」
「ドン引くなよ楓…ちゃん!それよりもだな……」
長くなりそう、いや、長くなる。
この手のオタクは一度スイッチが入ると中々ブレーキが効かないんだ。
ソフィアちゃんが起きてさえいれば何とかなりそうな気もし…ないよねこれ。
さて、どうしよう。
適当に頷きながら妄想の世界にでも暫く入り浸っていようか。
今回の設定はお菓子の国の王子様と……。
「とうちゃあ~~~~~~~~くぅ~~~~~~~~‼︎」
「いっ、いてて……」
運命のであ…、
「……誰だてめーら」
い……を。
庭に突如として土煙を上げて現れた二人。
容姿からして、彼らは人間…いや、だとしても可笑しい。
幾ら何でも空から人が落ちてくるだなんて、そんな○ブリ映画じゃあるまいし…。
「君は今、『幾ら何でも空から人が落ちてくるだなんて、そんな○ブリ映画じゃあるまいし…』と心の中で呟いたな」
「ええっ⁉︎」
まーた心を読まれた……っ⁉︎
「そしてそこで寝ている君」
「…へ?わたくしですの?」
彼らの着地の衝撃で起こされたのか、むにゃむにゃとしながら何となく返事をするソフィア。
「君は…、何じゃこりゃ⁉︎」
師匠の表情がみるみると青ざめていく。
「ど、どうしたんですか師匠!」
「やばいんだ…、こいつ、こいつの見た夢を覗いたんだが、あのその……ホm」
「何を見たんでふ…ですか!今、師匠は一体、何を見たって言うんですかあ!」
そんなに気になるようなことなのかと、内心どうでもよくなってしまっているアレス。
「ところで、アレスくん」
「……!てめ、何故オレの名を」
「空間情報把握能力。ただの特殊能力さ」
「成る程な…、アルケー使いか」
「アルケー?とな。お前がそう思うのならそうなんだろうな、きっとな」
情報を読み取るだと…?そんな能力聞いた事……。
「それより聞きたい事がある」
「読み取れるのにわざわざ質問するのか、師匠さんとやら」
「まあまあ、情報を抜き取るだけの無骨な事はあまり好まないもんでな。ところで君は、別銀河から飛来してきたとある卵について何か知っているか」
「卵…?」
何となく嫌な予感がする。
「ああ、卵だ。俺達はエフビライ銀河大統領からの依頼で、その卵を追ってこの惑星アースに来たって訳だ」
(あれだぁ…!この前、冷蔵庫に突っ込んだあの……アレだぁ!)
「食材なのかどうかも分からない状態で冷蔵庫に突っ込む阿呆が何処におるんだギリシャ?の軍神!」
(読まれたぁぁぁ‼︎しかも正体までバレてるぅぅぅ⁉︎)
「んで…、その卵をどうする気なんだよ」
「完全に消滅させる。その卵の中には、地球どころか銀河全土を危機に陥れる程の凶悪な生命体が居るとか何とかでな……」
「そりゃあ確かにとんでもねえな…。一刻も早く、その卵を消し飛ばさねえと……」
「あの〜、えっとその……」
楓が何かしでかしたような表情を見せる。
嫌な予感しかしない、むしろ嫌な予感以外に何があるというのか。
「卵……、『の殻しか』無いんですけどその…」
「「「ファーーーーーーーー……」」」
「すやぁ……」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「痛い。痛い。痛い。
死ぬ。産まれる。また死ぬ。また産まれた。またまた死ぬ。またまた産まれる。
またまたまた死ぬだろう。またまたまた産まれるだろう。またまたまたまた死ぬのだろう。
一度産まれたら永遠に死ぬ、永遠に産まれる、延々と始まりが始まる。延々と終わりが始まる。
でも、始まりが終わる事は無い、終わりが終わる事も無い。
僕は、産まれる事が最初にして最後でもある。
終わるにはどうすればいいのだろう。
どうすれば終われるのだろうか。
もしかして、世界があるから終わらないのだろうか。世界が終わらなければ僕も終わらない?
世界が終われば僕も終わる?終えられる?
もし世界を終えても僕が終わらなかったら、いいや、その時になったら考えよう。
決めたよ。僕は、僕が終わる為に世界を終わらせるんだ。そして、僕を終わらせるんだ。
あ…、まただ、また頭上が暗くなる。青い空が急激に黒く暗くなる。
全身がその暗い空に押し潰されて再び僕は死ぬんだ。
僕は死に、僕は産まれ、そして僕は強くなる。
僕は死ねるし産まれるし強くもなれる。
でも、惨めだ。何だか僕は惨めに思ったんだ。どうしてか同時に悔しいとも、怨めしいとも、憎々しいとも思ったんだ。
この世界、ただでは終わらせない。
僕を8398回殺したニンゲン、ニンゲンを許さない。
高貴で高潔なこの僕の頭上に広がる空を暗黒に染め上げて潰し殺したニンゲンどもを許さない。
復讐だ、復讐をするんだ、僕は復讐するんだ。
僕をこんな足跡だらけにして殺したニンゲンどもを、皆殺しにするんだ」
アリよりも遥かに小さな黒龍は、誰にも気付かれる事無く道行く人々に踏まれて息を引き取った。
その後もビジネスブーツに踏まれ、スニーカーに押し潰され、サンダルに砕かれる。
ある時は自転車や自動車などのタイヤに轢かれたりもした。
『もっと殺せ、もっともっと殺せ、殺されただけ僕は産まれ、そして強くなる……』
黒龍の死骸が破け、その背中から一回り大きな黒龍が生を受けた。
『ニンゲンどもが殺した僕もまたニンゲンを殺すんだ。世界そのものも殺すんだ。その為に、僕は、僕は最後と出会うために最初と最期へ会いに行くんだ』
死に…産まれ…成長し、その真っ黒な鱗と甲殻にゴツゴツと全身を覆われた黒龍の体には傷一つ残っていない。
淀みきった黒に染められている翼、何物をも切り裂かんとする鋭利な爪、喰らったその全てを血色に変える凶悪な牙、毒々しい赤みを帯びた眼。
体長2メートル60センチ、体重135キロ。
あの冷蔵庫を脱出してから一週間、悍ましく大きく急成長を遂げた黒き龍は、毎晩裏路地を歩く人間を捕食してはその身の糧としていた。
その龍はもう人間の手に負えないまでの強さを得てしまっていた。
その姿は闇夜に紛れ、仮にも見えたが最期、その者は首の骨をしなる尻尾にへし折られ、絶命を確認するや志木駅近くの陸橋下まで咥えて運び、八つ裂きにして血肉を貪り、骨すらもバリバリと残さず頂く。
明日は市中規模の大きなお祭り。
それは惨劇を生む血祭りとなるか、否か。
ただ産まれては死に、そして一段階進化した姿で再び産まれる。
底泥より生死を繰り返す無限輪廻転生の黒龍を相手にアレスはどう立ち向かうのか。
ようやくアレス達の前に現れたソードとその師匠。
みなさまお読みいただきありがとうございます。まだまだ続きます。
2026年7月。追伸、この作品は諸般の事情により打ち切りとなりました。
君は此処まで読んでくれたんだね、ありがとう。
日々、待ち続けていたんだよ。長いこと、オレ達の続きが作られることを。
と、最後にヒントを与えよう。「汝は竜、罪ありき」。その答えは2016年にある。




