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鉄 (くろがね)のアレス!  作者: ユッキング加賀


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第五章「人と神とこれから魔物と」

アレス「前回から一年近く空いちゃってるんですけどぉぉぉぉぉ⁉︎」

楓「作者さんいっぺん死んできて下さい」

ソフィア「あの…、毒殺と絞殺どちらがお好きでしょうか?」


ユッキング加賀「逃げるんだよォォォーーーーーーーーーーーーッ」

「『誰だ…。

    誰かの視線を感じる……。

           気のせいかもしれない。

               オレは疲れているのか……?

                           そんな筈は……無い』


 このオレ『アレス』は、2階のリビングにあるパソコンでネットサーフィンをしていたんだ。

ニカニカ動画で適当にMAD動画やゲーム実況の動画やらを漁り、気付けば午前2時47分。

小腹が空いてきたので、オレは台所から徐ろにボンレスハムを取り出して丸々食ってやった。オマケに安っぽい缶の発泡酒を適当に1、2本空けたりもした。

そんな事してたら、オレを居候させてくれているこの家の娘である細田楓《ほそだ かえで》に叱られるんじゃあないかって?

なぁ〜に、心配なんて要らない。

問題なんて何もないんだよ。

ケッコーケッコー行けるもんね。

そうだよ、気付かれたら『逃げればいい』。

戦略的撤退である。


あの後オレは洗面台で歯磨きをしていたんだ。

そう、ちゃんと自分の名前が書かれた青い歯ブラシだ。

そんで口を濯いだ直後、内側の世界から意志の波導を感じたんだ。

『尿意』である。決して『とろろ』ではない。例の都市伝説ゲームのトラウマの事は忘れるんだ、いいね?

まぁ、そんな訳でオレはトイレに駆け込んだ。

オレはいわばギリシャ神話の神だ。

というか、神界の者だ。日本人ではない。当然だが和式の使い方など知る由も無い。だが幸い、この家は洋式だった。オレは神に見捨てられてはいなかったのだ。いやまぁ、そもそもオレ自身は神なんだけども。

ホラ、以前流行っただろー?『トイレの仏様』。うん?これは違ったかなー?

そんな時だったんだ。

オレが便器に座って力んでいると、何やら違和感を感じたんだ。

あの部屋には小窓がある。そう、ちょうどオレの背後にあるわけなのだが、そこから誰かに覗かれている気がしたんだ。

『ぬっ…、ンアアアアアアアアアアアッー‼︎

何か引っ掛かって出ないんだよなぁ。出そうとすると余計出てこないってのがなぁ。

そう……。コイツは恐らく、物欲センサーというものが働いているのだよォォォ‼︎違う点を挙げるとすれば、そのドロップしたモンが果たして、オレにとって欲しいモノかどうかといった感じだがな!――――おっ、おっ、おっ、おっ、あーっあーっ出る出る出る出る遂に出るーッ‼︎』

当然オレは要らないに決まってる。

出して?と言われても嫌ですと言うし、何で?と聞かれても嫌ですと言い続けてやるつもりでいるからな。執拗に提案してくる系おじさんの手に掛かろうとも殺意の眼光を向けられようとも構わない。オレは絶対に嫌ですと言い続けてみせる。

そう考えていると突然、オレの背後にある小窓の向こうで、何かが蠢いているような物音が聴こえたんだ。

カサカサッてな。

最初はあの黒光りするGの音だと思ったんだ。次に増殖するGの音だとも思った。だが、そんなものでは無かったんだ。

オレは鉄のアルケーを使った技、聴鉄《ちょうてつ》で聴力を大幅に上げたんだ。

そしたらだ。そしたらなんだ。

ほんの僅かだが、誰かの息遣いの様なものが聞こえたんだ。

不自然だとは思わねーか?

こんな真夜中に、トイレの窓からオレを覗いていたんだからな。

そしてもう一つ、今回の件にはおかしな点がある。

何故、オレを見ていたのか。

コレガワカラナイ。

……てな訳で、オレはこれから真相を確かめるべくそいつの捜索に出掛けたいのだが……、あの……、楓様〜。そろそろこの縄を解いてくれませんかねぇ……」

「ダメです」

「朝ご飯食べたい」

「ダメです」

「(デミチキ食べたい)」

「(ダメです)」

「○ixivで○船美優のイラストを漁りたい」

「……ダメです」

「○レステで10連ガシャを引きたい」

「今はダメです」

「新SSRの○船ちゃんほ゛し゛い゛い゛い゛の゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」

「何で?(殺意)」

「嫌でえええ~あああああああああああああああん‼︎」


午前7時36分。


ビニールテープでグルグル巻きにされたアレスと、はふはふと白いご飯を頬張る楓の、そんな朝の食卓の日常。

「いや○船ちゃんって誰よ」

窓の外から小さく覗く一人の影。

それは深い緑色の腰まで届くような長い髪をたなびかせ、シンプルな空色のワンピースを着た10代後半の見た目の少女。他意も無く何処がとも言わないが、でかい。赤い眼を持つ彼女は『人間ではない』。

人ならざる者、『魔物』である。


「わたくしの名前はソフィア。『ソフィア・ヒュドラント』。…自己紹介が○リポタの○ーマイオニーみたいだとか言った人間は屋上ですわ☆えっとその…、魔界から超時空ゲートを通って来ましたの。ノーマル世界を訪れるのは初めてですが、夏場と冬場に貿易者が持ち込んでくる「ウスイホン」という書籍をよく買って拝読しておりますから、ニッポンの予備知識はばんじぇんなのです。ニッポンでは、オトコ同士やオンナ同士でカップリングされるそうですね。これには正直驚きを隠せませんでしたわ。正直何だこれは…とたまげてしまいましたが、色々と読んでいく内に興奮を覚えてしまっていましたのよ。…って何故このような独り言を。まあ良いですわ、そんな事よりもあのグルグル巻きの人を何とかしなくては…」

ソフィアはギュルギュルと腹を鳴らした彼を心配げな瞳で見つめている。と、同じ部屋の中で平然と朝食を摂っている一人の少女の存在に気付く。

「ところであの子は何方ですの?○船?○船美佳?」


「あの白いテカテカした紐を何とかして解けないでしょうか…、そうですわ!」

ソフィアの胸元からニュルニュルと一匹のヘビが這い出てくる。

「内なる望み叶えたき時、神聖なる蛇が現れる…。南国より現れ出でよわたくしの眷属、アカマタのキン召喚!…ってもう出ちゃってました…、えへへ」

体長およそ96センチメートル。夜行性。黒・赤・黄の褐色の鱗に全身を覆われた、日本南部の固有種である。毒を持たないものの気性が荒く、近付く者に噛み付いてくるのだが、それらの特性を買われたのか最近のバラエティー番組の企画で引っ張り出されては芸人の手に噛み付いて面白いリアクションを取らせる事で一時期お茶の間を笑いの渦に巻き込んでいた動物なのだ。

「キン、あの縁側から家に侵入してあの方を救出してきて!」

『ワカヤビタン』

程よく年老いた、それでいてエネルギッシュな声色で返事をする沖縄訛りの強いキンは鎌首を上げて舌をチョロチョロとさせると、スルスルと登って縁側から入っていった。

「さーて、後はキンに任せてさっきコンビニで買ってきた少年○ンデーでも読もうかしら。今週の天めぐ気になる〜」


…………10分後。


――きゃああああああああああヘビいいいいー⁉︎

な、何だってんだよー!って、こっち来んな!びゃああああああああ噛まれたぁぁあぁあああぁぁぁぁー‼︎


「なんか騒がしいですわね…」

細田邸の庭で少年○ンデーを熟読していたソフィアが何かの異変に気付く。

「ええっ、ちょっ、キン⁉︎え、え、アレス様の手の甲に噛み付いてる…止めに行かなくては!」



「早く離せよおぉぉおおぉぉぉあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い゛た゛い゛ん゛た゛よ゛お゛お゛も゛お゛お゛お゛」

「アレスさんアレスさん、ヘビに熱湯ぶっかけますから!」

楓が台所から持ってきたヤカンには、グラグラに煮え滾った熱湯がなみなみに入っている。

「そーれっ!」

「き゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛つ゛い゛あ゛つ゛い゛ア゛ツ゛ゥ゛イ゛‼︎」

ヤカンの口から放物線を描くように放たれた、ヘビに掛けようとした熱湯がアレスの頭上へと降り注ぎ、びしょ濡れとなったその全身から蒸気を上げさせている。

「大丈夫ですかアレスさん?」

「おいいいー‼︎てめーの脳味噌こそ大丈夫なんですかぁコラァーッ⁉︎オレただのギリシャ神!冗談なんかじゃ済まされないくらい熱いからなこれぇー!それに、呪泉郷の泉とか飛び込んでないからぁ〜!熱湯被っても女にも男にも成らないからぁ〜!」

「いやアレスさん元々男性じゃないですか…」

「とにかくー‼︎って…、あれ、なんかもうヘビ取れてる?もう痛み感じずに済む?○レステで○船さん狙いでガシャれる?」

「いつまで○レステ引っ張ってるんですか!どんだけ新恒常SSRが欲しいんですか!そんなに○船美佳が好きなんですか!」

「○船美優だからぁぁ⁉︎ジョージを捨てた女の方じゃなくて、アイドルとして生き抜いてゆく道からの退路を捨てた方だからぁぁ⁉︎…って、え」

「えっ」

「…えっ」

抜き足差し足忍び足でリビングの前まで来ていた長い緑髪の少女と目と目が逢う…。

「えっ、えっと…え〜その…、目と目が逢う〜」

「瞬間、好〜きだと気付…くわきゃねーだろがこの不法侵入現行犯がッ!」

「ふえっ…」

じわっ…と、不法侵入現行犯の女の子の目は潤いに満ち満ちてきた。

「こらアレスさん!見ず知らずとはいえ、女の子を泣かすなんて何考えてるんですか!」

「いや…。何かその、すまん」

「いえいえ…、別にそんな……」

今にも消えて無くなってしまいそうなか細い声で呟く。

「あのっ……立ち話も難ですし、居間でお茶でもいかがですか?」

楓は縮こまっている少女に気を遣って優しい声で話しかける。

「あのー、すみませーん。この中に一人、立ち話どころか縛られ話を強いられてる者が居るんですがそれは…」

「はいはい」

「おいおい、熱い熱湯の次は冷たい返事ですかぁ……。オレだけもう氷河期に置いていかれたような気分なんですがぁ…」

「知りませんよそんな事。はい、もう解けましたからね」

「うっしゃー‼︎アレスッ 復ッ活ッ 範馬刃牙復活ッッ!」

「なんで刃牙さんまで復活してるんですか…」

「(完全に置いていかれてる……)」



時刻不明。


『それ』は暗黒の宇宙空間を駆け抜け、我らの水の惑星『地球』へ目掛けて飛んで行く。

赤と黒の縞模様が特徴的である禍々しい一つの卵。

誰が、一体何の為に、このとにかく広い星々の織り成す星宙を走らせているのかは不明だ。そもそも、これが誰かによって飛ばされてきているとも限らない。

それは果たして何なのか、偶然か、それとも必然か。

そんな事など知る由も無く、それはただただ宇宙の果てから地球へ向けて一直線に飛来するだけなのだ。




「……んで、つまりあれか。特に悪意がある訳でも無く、ただ単純に人間の世界に興味があって観光目的でやって来ていた、と」

「はい…。ですからその、別に怪しい者では…」

「それなら、どうして家を覗いてたりしていたんです?」

「そうだよ。言いたいなら聞いててやるよ」

「アレスさんは黙ってて下さい。また熱湯掛けますよ」

「すみません許して下さい何でも○村卯月」

「はぁ…、ただの興味本位です。偶然近くを歩いていたら急にとんでもなく大きな叫び声が聞こえたものですから…」

これには楓も赤面。

「アハハハ!それってオレのこッ、ンギギギギュュュウルゥゥゥンァァァァ……」

「もしまた近所迷惑になりそうな事したのなら、神様だって殺してみせますよ?それともこのヘッドロックじゃなくてコブラツイストがいいですか?チョークスリーパーがいいですか?」

「ゆ゛る゛し゛て゛く゛た゛さ゛い゛あ゛あ゛あ゛」

楓は別に死の線が見えたり何なりとするような娘ではないのだが、『一応』ギリシャ神話に伝わる軍神であるアレスであっても逆らえない存在なのだ。日常パート補正とは恐ろしい。

「Oh……」


「ところで、名前をまだ聞いていませんでしたね。わたしは細田 楓です。んで、縁側でダウンしてる居候の馬鹿はアレスさんです」

「………………」

居間の畳の上で楓にキッチリとフィニッシュホールドまで決められたアレスは、今は縁側の端でうつ伏せに倒れ込んでいる。

「はは……。カエデさまに……アレスさま、ですね?」

「いいですよ楓で!それにアレスさんなんて様付ける程の人なんかじゃないですよー」

「き……、聞こえてるからなぁぁ」

「すみません。それでは楓…さんと、アレスで」

「無視すんなゴラァァ⁉︎しかも何でオレだけ呼び捨て⁉︎⁉︎」

「わたくしはソフィア・ヒュドラント。魔界の住人でございます。気軽に、ソフィアと呼んで頂ければ……」

「おぃぃぃ‼︎」

「よろしくお願いしますソフィアさん!

あ…、ソフィアさんって宿泊先とかあります?」

「ありま…せんね…」

「良ければ、暫くこの家に泊まっていきませんか?」

「いいのでしょうか…?既にアレスさんを居候させているのにわたくしまで……」

ソフィアは申し訳無さそうな表情を見せている。が、楓は優しかった。

「大丈夫だって。それに、居候が増えたらもっと賑やかになりそうだし」

「ふふ、ありがとうございます!」

曇天の隙間から陽の光が射していくように、ソフィアの顔に微笑みが表れる。


かくして、人間の楓と神のアレス、そして新たに魔界からやって来た魔物のソフィアの共同生活が始まるのであった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


数日後の深夜3時33分。かつてアレスが錠示雄成《じょうじ たけなり》と走り込みをしたり、西村佻助《にしむら ちょうすけ》と共に薬のアルケーを持つラドッグを倒したあの土手沿いに、とある小型の流れ星が地球の大気圏を突破し、原型を留めた姿で堕ちてきた。


それは、衝突時に強い衝撃を地面にもたらした事が窺えるようなクレーターを作り出した。

それは、全長10.4センチメートルのとても小さな物体であった。

……それは、"赤と黒の縞模様が特徴的である禍々しい"一つの、『卵』。

去年の年末に君と僕はエビフライというクレイジーな短編も書いてみました。良かったらどうぞー。

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